コロナ禍後に人手不足のダメージを受け続けているのは“あの業界”世界で深刻化する労働力不足【中編】

コロナ禍に端を発した労働者不足の問題がまだ継続しているのはどの業界だろうか。米国において労働力の獲得が難しくなった理由を探る。

2024年01月06日 08時00分 公開
[Madeleine StreetsTechTarget]

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を契機に、米国では従業員の離職が続く“大量退職時代”(The Great Resignation)に突入した。米国労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)が2022年6月に公開したデータによると、2021年4月から2022年4月における離職者数は7160万人に上る。人材の売り手市場が続く中、さまざまな企業が労働力不足に苦慮している。特に深刻な影響を受けているのはどの業界だろうか。

労働力不足の影響を強く受けている産業はこれだ

 深刻な影響を受けているのは、労働者が敬遠する業界、熟練したスキルを持つ人材が不足している業界など、多岐にわたる。

サービス業界、小売業界

 労働力不足の打撃を特に受けているのは、娯楽業や観光業、各種サービス業、小売業など、接客業務を伴う業界だ。これらの業界は多数の欠員に対して人材確保を実施しており、雇用は離職率と同等か、上回る結果となっている。米国商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)が2023年12月に公開した資料によると、2023年1月〜9月におけるレジャー・ホスピタリティ業界や専門・ビジネスサービス業界の雇用者数は約1000万人に及んだ。

 一方で、新規雇用者の定着率は非常に低いままのため、労働者数を単純に増やしたとしてもパンデミック当時からの労働力不足は克服できていない。米国商工会議所は、宿泊・飲食サービス業界は2021年7月以降、離職率が常に4.5%を上回っていると報告している。

 パンデミック初期の2020年に、外出や行動の制限に基づいて営業を停止したサービス業が相次いだことで、多数の失業者が発生することは予想されていた。だが2023年に至って就業機会が増えつつあるにもかかわらず、雇用率の水準はパンデミック以前ほど回復していない。雇用状況が安定したとしても、労働者は接客業務を伴う業界を敬遠している。

公務、教育業界

 公共機関や公立学校などの公共部門が労働者を集めるには、民間企業の給与水準にどう対抗するかが鍵となる。インフレをきっかけに、労働者にとって「賃金」は働くための原動力として重要な位置を占めるようになった。しかし公共部門における労働条件は悪化している。

 特に人手不足が深刻なのは公立学校の教師だ。退職する教師が増加する一方で、新規入職する教師は減少している。米国においては、コロナ禍に実施したオンライン授業や生徒指導での苦労、教育機関における銃乱射事件の発生増加などが、教師を退職に追い込む主な原因となっている。給与額も低迷を続けており、求人件数を埋められるだけの労働力が不足している。カンザス州立大学(Kansas State University)准教授トゥアン・グエン氏の調査「Teacher shortages in the United States」では、2021年以降に少なくとも5万5000人の欠員があると推定している。教師の資格を持っていなかったり、必要な研修を受けずに働いていたりする教師は27万人に上るという。

 法律や行政に関わる職種や、刑務所や拘置所といった矯正施設の職員にも同様の境遇がある。労働条件は厳しいものの賃金の上昇はわずかであることから、「魅力的な仕事」の選択肢からは外れてしまうのだ。「Black Lives Matter」運動に端を発した警察解体運動の盛り上がりや刑務所制度をめぐる世論により、職種が政治的な話題にひも付けられてしまうといった要因もあり、十分な労働者を採用することが難しくなっている。

IT業界

 魅力的な仕事があるにもかかわらず、十分な訓練や経験を積んだ労働者が多くないことから、労働力不足に陥っているのがIT業界だ。業界自体が新しく、従業員育成の仕組みを確立していないために、一時的なスキルギャップ(仕事に必要なスキルと、従業員が持つスキルの差)が生じている。

 例えば人工知能(AI)技術は1950年代から研究が続く分野で、機械学習や「生成AI」(ジェネレーティブAI)の隆盛を通じて再び注目を集めている。さまざまな業界がAI技術をイノベーションに活用しようとする中で、AI技術のスペシャリストに対する需要が生まれている。求人は増加する一方にもかかわらず、求人条件を満たす労働者の供給は追いついていない。高度なスキルを持つ労働者を確保するためには、そのような労働者の育成と増加を待たなければならない。

 長い歴史を持ちながら、人気がなくなってしまったために、専門家になるための訓練を受ける人口が少なくなってしまった分野もある。そうなると企業がその分野のスペシャリストを採用したくてもできず、ポストが空席のままになる場合がある。

専門技能の必要な業界

 製造業、航空交通管制、医療などの分野では、熟練した労働者の減少が深刻な問題となっている。製造業においてはパンデミックの初頭に操業停止に追い込まれ、労働者が職場を失った。医療業界では、パンデミック時の激務によって多くの労働者が燃え尽き症候群に陥り、業界を去った。特に深刻な影響を受けたのは看護・介護業界だった。


 後編は、米国の中で労働力不足の影響を特に受けている州の状況を紹介する。

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