コロナ禍を契機に米国では“大量退職時代”に突入し、人材の流動化が高まっている。社会的要因もあり、「労働者不足」は簡単に解決しない問題だ。企業はこの状況にどう備えるべきか。歴史を振り返る。
米国労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)が2023年9月に公開したデータによると、同年8月の米国における失業率は3.8%だった。2023年10月公開のデータによれば、同年8月の求人数は960万人に及ぶ。人材の売り手市場になっている現状、企業は計画通りに業務を遂行することが困難になっている。
「労働力不足」とは、雇用市場に存在する求人を十分に満たす数の求職者が存在しない状態だ。労働者にとっては自分のスキルに対する需要が高まっている状態と言い換えられるため、賃上げや福利厚生の改善に向けた交渉が有利に進む場合がある。人気のある業界に参入するチャンスも増える可能性がある。企業にとっては従業員を定着させるための努力が重要になる。従業員がより良い雇用条件を求めて労使交渉に取り組むことも予想される。
企業にとって労働力不足は、業務の生産性やキャッシュフロー、事業の変革などに支障を来す可能性がある。高度なスキルを持った人材なしには、新製品の開発は難しい。
労働力不足の定義は単純だが、労働力不足が起こる理由は複雑で多岐にわたる。企業が求めるスキルを持った労働者が不足しているだけとは限らない。賃金や労働条件といったさまざまな要因を鑑みて、労働者が望む仕事が十分に存在しない場合もある。
労働力不足は現代社会で繰り返し発生した。状況は事例ごとに異なるが、原因には一定の共通点がある。例えば以下のような要素だ。
高齢化は、子どもを持つ人口の減少や、若年層の都市流出などの要因で加速している。若年層が新たに労働人口として加わる数よりも、加齢に伴って働けなくなる労働者の数が多いために、以前よりも多くの求人が埋まらないままになる。定年を迎えた従業員が雇用を延長して職場にとどまることを選んだとしても、新入社員レベルや若手レベルの労働者数は以前よりも減少している。
高齢化に加え、民間企業の成長と競争が労働力不足をさらに加速させる。民間企業が公共機関よりも高い賃金を支払えば、民間企業は労働力を獲得できる。その傍らで、教育機関や行政機関などが採用難に苦慮している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、労働力の流れを激変させるきっかけとなった。パンデミックが広がり出した2020年、経営は混乱に陥り、その影響は今も続いている。
パンデミックを契機に、米国では従業員の離職が続く“大量退職時代”(The Great Resignation)に突入した。BLSが2022年6月に公開したデータによると、2021年4月から2022年4月の12カ月における離職者数は7160万人だった。特に影響を受けたのは観光業、飲食サービス業、小売業などだ。パンデミックに伴う大規模なレイオフ(一時解雇)の一方で、感染症対策が万全ではない環境での職場復帰を強いられたり、ストレスの多い時期に顧客から過酷な扱いを受けたりした従業員が退職する事例は珍しくなかった。
「新しい働き方」が広まったのもこの時期のことだ。さまざまな企業で、従業員がテレワークの実施や勤務制度の見直しを要求するようになった。対面業務が必要な企業にとっては、このような希望を聞き入れないと労働者から敬遠される恐れがある。
米国や英国では保育費の高騰に伴い、保育園やベビーシッターといった外部の力を借りずに自宅保育を選ぶ家庭も広がった。その背景には、景気の悪化や男女格差などさまざまな要因がある。自宅保育の拡大とともに、潜在的労働者である女性が労働市場から排除される結果になった。
この他にタイムリーな事情として、人工知能(AI)技術の急激な進化がある。このような成長分野では、高度なスキルを持った労働者が不足している。ただし、スキルのある労働者を獲得するよりも、自社内でAI技術を使いこなせる人材の育成に力を入れることが先決だ。
中編は、労働力不足が深刻な影響を及ぼしている業界を紹介する。
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