電気自動車(EV)のレース「フォーミュラE」の出場チームは、デジタルツインなどの技術を活用して車体の改良を重ねている。EV特有の技術条件などを解説する。
「電気自動車(EV)のフォーミュラ1(F1)」と呼ばれる自動車レースが「ABB FIA Formula E World Championship」(以下、フォーミュラE)だ。2023年のシーズン中は、米国のオレゴン州ポートランドやインドネシアのジャカルタなど、世界中の都市で開催された。シーズン最後のレースは、Jaguar(ジャガー)やMaserati(マセラティ)、Porsche(ポルシェ)、McLaren(マクラーレン)などの大手自動車ブランドのチームを含む11チーム、22台の車体と22人のドライバーが、約2キロ、20ターンのコースでしのぎを削った。
フォーミュラEの出場チームは、コンピュータシミュレーションなどのデジタル技術を駆使してレーシングカーの改善に取り組む。競技における技術開発は、普段公道を走るEVの性能向上にもつながるという。
2023年7月、英国ドックランズのエクセル展覧会センター(ExCeL London)でフォーミュラE世界選手権2023年シーズンの最終戦「London E-Prix」が開催された。出場チーム「Jaguar TCS Racing」のレースドライバーであるサム・バード氏は、「ガソリン車だろうとEVだろうと、レースドライバーのフィジカル面にはあまり影響ない」と語る。
すさまじいエンジン音を除けば、フォーミュラEはF1となんら遜色ない。むしろF1にはない魅力があると言える。例えば、F1はガソリン車を使用するため、コースは屋外に設置する必要がある。一方フォーミュラEではEVを使用するため、屋内コースの走行が可能だ。エクセル展覧会センターのサーキットでは、コースの一部が屋内を通る仕様になっている。
「もちろん、屋内コースに特有の技術的な課題はある」とJaguar Land Roverでレーシングエンジニアを務めるジャック・ランバート氏は話す。例えば雨天時、屋外でぬれたタイヤが屋内コースの乾いた路面に入るとグリップ(摩擦力)は強まる。その後ぬれた路面をまた走るため、グリップの変動が通常よりも激しくなり、タイヤに負荷が掛かる。
フォーミュラEの出場チームは、技術開発や改善に、冷却ファンや車体構造、人間などの「デジタルツイン」(現実の物体や物理現象をデータで再現したもの)を活用する。デジタルツインは単なるシミュレーターではなく、実物から取得するデータを使って実際の状況や条件をシミュレーションに反映するもので、技術チームにとって有効な実験台となる。実験で得たデータはレーシングカーだけではなく、公道を含めたEVの技術開発にも適用できるという。
バード氏は「2014年のフォーミュラE創設時と比べて、イノベーション効率は大幅に向上した」と振り返り、これには理由があると説明する。フォーミュラEの競技規則が、イノベーションを促進するような設計となっているのだ。
F1に出場するレーシングカーにとって重要な性能の一つが空力性能(走行中の自動車や飛行中の飛行機が空気の流れから受けるさまざまな影響)だ。一方、フォーミュラEではレーシングカーの形が規則で1つに定められており、空力性能の面ではどのチームも同じ条件となる。そのため、イノベーションはEV特有の分野や、一般のEVの開発にも有用な分野で進むこととなる。
中編は、レーシングカーのイノベーションをけん引するソフトウェアについて解説する。
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