システム開発と運用管理のプロセスに自動化技術を組み込むことの価値は何なのか。通信大手の経営幹部が「顧客中心主義にはITサービス管理(ITSM)が不可欠」と説く理由とは。
システム運用管理の自動化はIT業界が目指すべき方針ではあるが、実現にはさまざまな要素がからむ。通信大手BT Groupの最高デジタル責任者(CDO)兼最高情報責任者(CIO)、ハーミン・メータ氏に、ITサービス管理(ITSM)の重要性と、実施する上で着目すべきポイントについて聞いた。
メータ氏はITSMを、社内業務をデジタル化する「デジタイゼーション」のプロセスに組み込むべきだと主張する。「デジタル化を推進した結果、新製品を生み出し、その周辺にあるビジネスモデルとエコシステムを含めた価値創造への道が開け、AI(人工知能)技術の活用もできるようになったにもかかわらず、ITSMの存在感が薄れてしまうのはなぜなのか。技術スタックの中にある課題や組織の課題を理解するためのデータを持っていないのはなぜなのか」と同氏は問いかける。
メータ氏によると、IT企業は製品やサービスの設計からリリースまでのプロセスにおいて、いかにその製品やサービスの機能を高めるかに注力する「プロダクト思考」に陥りがちだ。その結果、フロントエンド(エンドユーザーの目に見える部分)やユーザー対応にばかり気を取られ、ユーザーエクスペリエンス(UX:ユーザーの体験価値)に影響を与えるバックエンド(エンドユーザーの目に見えない部分)がおろそかになってしまう。
「ユーザーがどのように私たちと接するかだけでなく、私たちがどのようにユーザーと接するか」が、顧客中心主義を実現する上で考慮すべきポイントだというのがメータ氏の指摘だ。「ユーザーとの関係が途絶えたのはいつか」という視点も重要だという。
顧客中心主義を実現するための技術は既に存在している。顧客向けのサービスを運営する技術を管理して、どこかに問題が発生する可能性を予測しつつ、その問題が顧客に与える影響を理解するためのシステムを導入すべきだ、とメータ氏は主張する。
「カスタマージャーニー(製品やサービスに対する認知から購入までの過程)をデジタル化し、顧客が人間を介さずシステムと直接対話できるようにすれば、優れた顧客体験を提供できる」(メータ氏)
メータ氏の経験では、企業は目に見える部分に時間を費やし、目に見えない部分にはそれほど時間とお金を割かない傾向があるという。これを続けると、デジタル化がもたらす重要な側面、つまり「シームレスな体験」の価値を見逃してしまう。
「フロントエンドのUXに焦点を当てるだけでなく、バックエンドで発生する不具合にも同様の注意を払う必要がある」とメータ氏はアドバイスする。
2000年代にGoogleが提唱した「サイト信頼性エンジニアリング」(SRE:Site Reliability Engineering)は、「信頼性」を製品やサービスの重要な機能の一つと位置付けている。信頼性の向上を目的に、システム運用管理の問題をソフトウェアエンジニアリングの手法で解決するアプローチだ。SREのアプローチでは、製品・サービスの開発と運用に関わる部門は「完璧な信頼性」を追求せず、顧客の要求に即した現実的な目標を設定することを推奨している。ある程度のリスクを見越し、開発や運用を迅速に進めるために許容できる障害の量を「エラーバジェット」(エラー予算)と定義する。
電力企業のEDF Energyは自社のソフトウェア開発を改善する目的で、Dynatraceのパフォーマンス管理ソフトウェアを導入した。導入の目的は、DevOps(開発と運用の融合)の文化を広めること、そして開発部門が顧客にとってより良いサービスを構築し、サービスを最適化する上で、さまざまな情報に基づいた判断を可能にすることだ。
EDF Energyで主席ソフトウェアエンジニアを務めるスティーブ・バワーマン氏は、Dynatraceの導入について次のように説明する。「当社の開発部門の成熟度は、リリースまでのサイクルを短縮化することを目的としたDevOpsの段階から、ソフトウェアの信頼性を向上させるSREの段階へと移行しつつある。Dynatraceはそのプロセスにおいて重要な役割を果たし、信頼性が高くスケーラブルなシステムを開発することが可能になった」
Dynatraceの導入によってイノベーションが迅速化し、より新しく便利な方法で顧客とコミュニケーションを取ることが可能になる、とバワーマン氏は考えている。「技術革新とデジタル化を通じて顧客の生活から不便さを減らす方法を見つける――これが、当社がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む理由だ」(同氏)
後編は、システム運用にAI技術を生かす「AIOps」の導入事例や調査資料を基に、AIOpsが必要となる背景を解説する。
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