「生成AI」ブームで問われるビジネス価値 高額な導入費用をどう回収する?生成AIの「ROI」測定方法

最近、組織で急速に広がる生成AI。投資が大きくなるにつれ、そのビジネス価値が問われる。期待外れにならないようにするために、組織が検討すべきROI測定方法と、“真の効果”を享受するための施策とは。

2025年05月29日 06時00分 公開
[Olivia WisbeyTechTarget]

 組織は人工知能(AI)技術、特に画像やテキストを自動生成する「生成AI」の活用に向けた投資を活性化させている。コンサルティング会社Deloitte Touche Tohmatsuが2025年1月に公開した調査レポート「Now decides next: Generating a new future」では、調査対象になった組織の78%が「次の会計年度にAI関連の支出を増やす予定だ」と回答した。この調査は、2024年7月から9月にかけて、14カ国の経営幹部2773人を対象に実施したものだ。

 AI関連の投資が増えれば、生成AIが生み出すビジネス価値に対する期待も高まる。そもそも生成AIのROI(費用対効果)はどうすれば測定できるのか。

生成AIのビジネス価値はこうやって測定できる

 科学技術雑誌「MIT Technology Review」が主催した2025年5月のAI関連イベント「EmTech AI」では、生成AIが組織にもたらす価値が強調された。投資を結果につなげるには、明確な目標を設定することはもちろん、それを達成するための方針を従業員に示すことも重要だ。

 従来のROIの測定方法は、投資に対し、売り上げや利益をどのくらい増やせたかに焦点を当てる。一方で生成AIの場合は「売り上げを増やす」よりも、業務効率化によって「支出を減らす」ことが主な成果になる。ビジネススクールMIT Sloan School of Managementの教授(金融工学分野)であるアンドリュー・ロー氏は、「組織は生成AIに対して生産性の向上を期待している」と述べる。

 金融業界では、さまざまな分析の業務に生成AIを取り入れる動きが広がっている。生成AIの中核となる大規模言語モデル(LLM)は、エンドユーザーによる自然言語での問い合わせや指示を可能にし、分析業務の効率化や自動化を支援する。「こうした進化によって、10〜20社のクライアントしか分析できなかった金融アナリストが、100〜200社を分析できるようになった」(ロー氏)

 AI技術を活用してタスクを自律的に実行するプログラムを「AIエージェント」と呼ぶ。MicrosoftのAIプラットフォーム部門バイスプレジデント、アシャ・シャルマ氏によると、最近は生産性向上を目指し、新規プロジェクトを立ち上げる際に、最初の段階からAIエージェントを“メンバー”として採用する「AIエージェントファースト」を方針に掲げている組織がある。

生成AIのROIを測定する方法

 DeloitteのAI責任者ジム・ローワン氏は、生成AIのROIを測る方法について「ユースケースにおける価値創造に注目している」と語る。その価値はたいていの場合、即座のコスト削減ではなく、時間の節約や品質の向上といった形で現れると同氏は説明する。

 「製品の開発工程を加速させることは、単にコストの問題ではない」。そう話すのは、武田薬品工業の最高データ技術責任者を務めるガブリエレ・リッチ氏だ。同社は高品質の薬を開発するために生成AIを活用している。

 生成AIのROI測定を巡り、中長期的な視点が重要だとロー氏は指摘する。同氏は「短期的には、AI関連のインフラ構築や従業員向けトレーニングの費用が発生し、横ばいかマイナスのROIを経験する組織もある」とみる。しかし時間がたつにつれ、組織は生産性を向上させてAI関連投資の回収を図れるということだ。

 キーワードになるのが、改革の管理「チェンジマネジメント」だ。生成AIの活用によってさまざまな業務を自動化すれば、その分、従業員の時間が空く。しかし空いた時間を何に使うかを事前に決めておかなければ、生産性の低下につながる恐れがある。それを防ぐのが、チェンジマネジメントの役割だ。コンサルティング企業/国際会計事務所KPMGのAIトランスフォーメーション責任者を務めるケビン・ボーレン氏は、「組織は従業員に時間をどのように活用すべきかを明確に示す必要がある」と述べる。

 従業員のスキルアップに対する支援も大切だ。ロー氏は、「生成AIの導入によって仕事の内容が大きく変わる従業員に対し、組織はトレーニングを含む移行プロセスを手厚くサポートしなければならない」と説明する。その際には、生成AIのテスト的な導入が有効だ。テスト導入によって生成AIのメリットを従業員に体験してもらうことで、本格的な利用に当たってのモチベーション向上につなげられる。

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