サステナビリティー(持続可能性)への取り組みは重要な課題だが、財務への影響を考えてどう進めればいいかが分からない組織もある。SAPはサステナビリティーをどう支援するのか。
サステナビリティー(持続可能性)は組織にとって重要な課題ではあるものの、どこから始めればいいのかが分かりにくい。この課題を解決するため、ERP(統合基幹業務システム)を提供するSAPは、サステナビリティーの取り組みを支援する製品を開発している。具体的にはどのようなもので、何ができるのか。米Informa TechTarget編集部はSAPのサステナビリティー担当最高製品責任者(Chief Product Officer for Sustainability)を務めるグンター・ロザーメル氏に聞いた。
―― サステナビリティーに関連するSAPの主な製品を教えてください。
ロザーメル氏 2025年5月現在、SAPが提供しているサステナビリティー関連製品は7つある。このうち2つ、環境や健康に関する取り組みの管理ツール「SAP Environment, Health, and Safety Management」(SAP EHS Management)と、コンプライアンス管理ツール「SAP S/4HANA for Product Compliance」は、クラウドERP「SAP S/4HANA」の一部として提供している。
残る5つの製品は、アプリケーション開発基盤「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)のモジュールだ。中核となるのは、サステナビリティー活動の記録ができるツール「SAP Sustainability Control Tower」(SCT)。サステナビリティーに関する報告に必要なデータを集約するための機能を備えている。
他には、製品単位や組織全体でカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)を算出したり、包装廃棄物を管理したりするためのツールを提供している。
―― それらの製品で、人工知能(AI)技術はどのように活用されていますか。
ロザーメル氏 例えばSCTでは、AI技術で報告書のドラフト(草案)を自動作成できるようになった。これを利用すれば、報告書を作る時間や労力を大幅に短縮可能だ。
AI技術は他にも、サステナビリティーの取り組みで必要なデータの収集に使っている。そういったデータは法的文書や許可証、エネルギー使用明細など、複数の文書ファイルに分散している。そこでSAPはAI技術による文書抽出機能を開発し、さまざまなファイルから関連データを取り込んで統合管理できるようにしている。
SAPの生成AIアシスタント「Joule」を使えば、自然言語でサステナビリティーについての詳しい回答を得られる。
―― SAPのサステナビリティー関連製品のユースケースについてお聞かせください。
ロザーメル氏 特に大規模なユースケースとして注目されているのは、サプライチェーン全体における脱炭素化だ。SAPの炭素会計ツール「SAP Green Ledger」は一般的な台帳と同様の仕組みだが、対象がカーボンやその他の環境データ(廃棄物や包装資材)である点が特徴だ。
サステナビリティーについてユーザー組織が抱える疑問として、「複数の施策候補があるが、財務的な影響を考慮するとどれを選ぶべきか」といったものがある。SAP Green Ledgerを使えば、サステナビリティー関連のデータと財務データを統合し、財務的な視点で取り組むべき施策を特定できる。
―― 生成AIをはじめとしたITは運用に大規模なデータセンターが必要なことから、環境への負荷が大きいという指摘があります。SAPは「環境にやさしいIT」にはどのように取り組んでいますか。
ロザーメル氏 SAP製品による環境への負荷を減らすために、幾つかの取り組みをしている。
1つ目は、SAP製品のカーボンフットプリントを測定し、その情報を開示することだ。2つ目は、エネルギー効率の高い製品を開発するという取り組みだ。開発手法の見直しやAI技術の処理方法の最適化などによって、無駄なエネルギー消費を避けることを目指している。
―― サステナビリティー関連製品の今後の展望は。
ロザーメル氏 新しい製品を発表するのではなく、既存製品の改善を続けていく予定だ。ユーザー組織からはさまざまな機能要望があり、各製品の改善についてそれぞれロードマップを設定している。
改善という観点では、「データプロダクト」と呼ばれる仕組みの構築にも取り組んでいる。これはSAPアプリケーション向けのデータアクセスの在り方を再定義するものだ。単なる高機能API(アプリケーションプログラミングインタフェース)の提供ではなく、データカタログによって必要な情報へのアクセスをしやすくすることを目的としている。過去、SAPのAPIに対し、「分かりにくい」「内容が過剰(情報量が多過ぎる)」といった批判を一部のユーザー組織から受けたことが背景にある。
―― サステナビリティーの一環として、製品の製造や販売、廃棄などのサイクルにおける温室効果ガスの排出量を指す「Scope 3」を重視する組織があります。しかしScope 3のデータ収集が非常に難しいと組織からよく聞きます。この点について、SAPのソフトウェアはどのように支援しているのでしょうか。
ロザーメル氏 これはサステナビリティーの取り組みの大きな課題の一つだ。Scope 3における温室効果ガス排出量の算定基準には、上流(upstream)と下流(downstream)がある。上流とは、サプライヤー(供給元)の排出量を指す。
SAPのサステナビリティー関連製品は、Scope 3の要件をカバーしている。実現には時間を要したが、現在は全て対応済みだ。
Scope 3のデータ収集について組織には幾つかの選択肢がある。第一の方法は、サプライヤーが自ら算出した排出量データを提供してもらうことだ。SAPは、サプライヤーからのデータ提供をしやすくするために、データ交換ツール「SAP Sustainability Data Exchange」を用意している。サプライヤーに対して「排出量データを提供してほしい」と依頼し、その回答データを受け取って自社システムに取り込む仕組みだ。
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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