AI覇権を狙うAmazon、仕掛ける「データセンター拡張」と“もう1つの基盤”とは必要なのは設備投資だけではない?

ノースカロライナ州のデータセンター拡張に巨額を投じる計画を発表したAmazon.com。その狙いと、データセンター建設における同社の巧みな戦略とは。

2025年07月16日 05時00分 公開
[Shane SniderTechTarget]

 Amazon.com(以下、Amazon)は2025年6月、100億ドル(約1兆5000億円)を投じてノースカロライナ州のデータセンターを拡張する計画を明らかにした。MicrosoftやGoogleもAI(人工知能)関連で巨額の設備投資を進める中、AmazonもAI技術のためのインフラ整備を加速する。ただし注目すべきは、設備面の投資だけではなく、データセンター拡張に当たって必要になると考えられる目に見えない土台づくりに関しても、したたかに手を打っている点だ。

AI覇権争い本格化の中、AWS中心に大規模投資

 この発表に先立って2025年2月に行われた2024年度第4四半期(2024年10〜12月)および通期の業績説明会で、Amazonのプレジデント兼CEO、アンディ・ジャシー氏は、2025年度中の設備投資を2024年度の777億ドルから、1000億ドル以上に増額することを示唆した。

 驚くべきは、その投資の大半が、子会社Amazon Web Services(AWS)のAI関連の事業に充てられる点だ。業績説明会で、ジャシー氏は「需要が明確でなければ、Amazonは投資しない」と発言した。続いて4月に公開した株主向け書簡では、次のように説明した。「AIに対する需要が異常な高まりを見せている。私たちがこれまでに経験したことのない規模で、今は一生に一度あるかどうかの変革期に当たると考えている。このタイミングに積極的に投資することで、顧客、株主、そして私たちの事業は大きな恩恵を受けるはずだ」

 巨額の設備投資には、AIを巡る覇権争いを有利に進めたい思惑がある。Microsoft、Googleといったライバルとの競争は激化の一途をたどっている。2025年になってから、Microsoftは800億ドル、Googleの親会社Alphabetは750億ドルの設備投資計画をすでに公表していた。

巧みな協力関係構築

 Amazonのデータセンター拡張において見過ごせないのは、Amazonとノースカロライナ州との良好な関係だ。ノースカロライナ州は伝統的にIT産業が盛んな州で、近年州都ローリーとリサーチトライアングルパーク(トライアングルパーク:研究学園都市)では、IT関連の雇用が大幅に増加している。

 ノースカロライナ州のIT業界団体North Carolina Technology Association(NCTech)の業界動向レポートによると、2023年時点で、ノースカロライナ州の全労働者480万人のうち、IT産業従事者が32万3000人を超え、全体の6.7%を占めている。2018年から2023年にかけてのノースカロライナ州のIT業界の雇用成長率は全米第8位だという。

 Amazonによると、2010年以来、ノースカロライナ州への同社の投資額は120億ドルにも上る。Amazonは同州に保有するデータセンターの具体的な数を公表していないが、さまざまな施設で2万4000人の直接雇用を生み出してきたと述べている。

 Amazonは今回発表した投資により、データセンターエンジニアやネットワークスペシャリスト、エンジニアリングオペレーションマネジャー、セキュリティスペシャリストなど、500人以上の新規雇用が創出されるとしている。それに加え、建設関連やサプライチェーン関連で、数千人もの雇用を生み出す可能性にも言及した。

 調査会社Informa Tech(Omdiaの名称で事業展開)でコロケーションおよびデータセンター建設専門プリンシパルアナリストを務めるアラン・ハワード氏は、Amazonが各州との協力関係の構築を、データセンター戦略に組み込んでいると指摘する。

 「Amazonは長年にわたり、各地域でデータセンターを建設してきた。彼らは、パートナーとして地域社会にアプローチし、インフラへの投資や雇用創出だけでなく、さまざまな地域貢献プログラムや再生可能エネルギーの開発プロジェクトなどを通して信頼関係を築くことで、施設の建設が容易になることを学んできた。規模に応じてだが、他のデータセンター事業者にとっても良いお手本だ」。そうハワード氏は評価する。

教育プログラムの実施

 今回の投資の一環として、Amazonはノースカロライナ州の教育機関を支援し、データセンター技術者の育成プログラムや小学生以上の学生を対象としたSTEM(科学、技術、工学、数学)教育プログラムを実施する計画を発表した。これには、さまざまな奨学金や助成金プログラムの実施も含まれている。

 この発表に対し、ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)の情報技術バイスチャンセラー(副総長)兼CIO(最高情報責任者)のマーク・ホイト氏は、好意的な意見を次のように語る。「データセンターへの投資と高度なSTEMスキルへの投資は、理想的な組み合わせだ。ノースカロライナ州立大学はAmazonの投資と成長に喜んで協力する」

 NCTechのプレジデント兼CEO、ブルックス・レイフォード氏もAmazonに期待を寄せる。「Amazonの発表は、データセンターとAI技術の先進地域としてのノースカロライナ州の存在感をさらに押し上げるものだ。教育機関や人材育成機関との連携を進めるAmazonの姿勢は称賛に値する」(レイフォード氏)

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...