「99%の正解率」を示すAIモデルがあったとしても、残りの1%の間違いは「偶然のエラー」ではない可能性がある――。専門家がそう指摘する背後にあるのは、AIモデル特有の問題だ。
大規模言語モデル(LLM)は進化を遂げ、人間が書いたものと見分けがつかないほど、自然で完璧な文章を生成できるようになった。その結果、文法の誤りといった従来の手法で偽情報を見抜くことは、もはや不可能に近い。
こうした脅威が深刻化する中、偽情報の検出手法の根本的な見直しが進んでいる。AI(人工知能)技術が生成した偽情報がどのような問題を生んでいるのか、その対抗策として何が有効なのかを、シンポジウムでの議論を基に解説する。
オランダの数学・情報科学研究所であるCentrum Wiskunde & Informatica(CWI)が2025年5月に開催した、偽情報とLLMに関するシンポジウムでは、AI技術による偽情報の脅威が深刻化している3つの領域として、以下が挙げられた。
シンポジウムの主催者の一人であるCWIの研究者、ダビデ・チェオリン氏は、中でもコンテンツファームを最も懸念していると指摘する。「LLMを使って文章を生成することは非常に容易である一方、そうして生成された文章の偽情報を人間が見抜くことははるかに難しい」
ライデン大学(Leiden University)でサイバーセキュリティを教えるトミー・ファン・スティーン氏は、偽情報の検出をますます困難にしている原因は「根本的な非対称性」にあると話す。作成の簡単さと検証の困難さが釣り合っていない点が問題だということだ。「この不均衡を簡単に是正することはできない」と同氏は説明する。
巧妙なコンテンツ生成と精密なターゲティングが結び付くと、偽情報対策はさらに難しくなる。「悪意のあるLLM製文章が、特定のグループを効果的に狙い撃ちできた場合、その行為を見つけて検出することは一層困難になる」とチェオリン氏は述べる。不特定多数ではなく特定のグループに向けて拡散することで、セキュリティ専門家を含む外部の人間が偽情報に気付きにくくなると同時に、偽情報を信じやすい人に向けてより効果的に情報を届けられるようになるからだ。
このような巧妙な偽情報に対処するには、検出方法を根本的に見直す必要がある。チェオリン氏は、単なる精度よりも透明性を重視した、説明可能なAIモデルを提唱する。「精度85%で説明可能なAIモデルと、精度99%でブラックボックスなAIモデルのどちらを選ぶべきか」と問われた同氏は、次の問いを投げ掛けた。「精度99%のブラックボックスなAIモデルを、99%の時間、本当に信頼できるだろうか」
ブラックボックスなAIモデルにおける1%の不正確さは、ランダムな誤差ではなく、AIモデルの構造的なバイアスを示している可能性がある。透明性がなければ、企業はAIモデルにある欠陥を特定したり対処したりできない。透明性の高いAIモデルであれば、不備がある可能性のある領域を特定し、改善策を講じることが可能だ。
この考え方は、AIモデルのバイアスを評価するという、より広範な課題にも通じる。「われわれは現在、AIモデルのバイアスを評価、測定するための基準を検討している。こうした基準は、エンドユーザーがAIモデルから受け取る情報の質を理解する助けになる」(チェオリン氏)
AI技術が生む偽情報に苦慮している企業に対し、チェオリン氏は基本に立ち返って、従来の技術をうまく活用することの重要性を強調する。
LLMの性能が向上しても、従来の検証手法は依然として有効だ。「回答に利用した情報源を示してくれるLLMを利用する際、エンドユーザーは生成された文章だけではなく、その情報源が本当に使われたかどうかを確認し、その情報源の評判や信頼性、信ぴょう性をチェックすべきだ」とチェオリン氏は語る。
「将来的には、企業、市民、政府機関が一体となった『共同の取り組み』が不可欠だ」とCWIの研究者は述べる。その枠組みの中で、研究者には「問題とリスクを明らかにし、解決策を提案する」という役割を担う。市民がLLMの利点だけではなく、限界も理解できるよう支援することが、極めて重要になるという。
その研究者は次のように話す。「最終的な判断はエンドユーザー自身が下すべきだ。エンドユーザーが文章の内容だけではなく、なぜそれを信頼すべきかを理解するのに役立つ情報を、透明性の高いAIツールを通じて得られるように支援することが不可欠だ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...