生成AIを「LangChain」で本格実装するためのSpark、Kafka連携と実践ノウハウLangChainで始めるLLMアプリ開発【前編】

生成AIアプリケーションの構築における柔軟性や拡張性の点で「LangChain」が注目を集めている。LangChainを開発現場で活用するための応用方法と、導入時のベストプラクティスを紹介する。

2025年08月15日 07時00分 公開
[Kerry DoyleTechTarget]

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 生成AIの利用が拡大する中で、業務システムや外部サービスと連携させて“より実用的に使いたい”というニーズが高まっている。生成AIを外部のツールやデータソース、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)と連携させるためのフレームワークとして登場したのが「LangChain」だ。

 前編「『LangChain』入門――プロンプト、ツール、チェーンで始めるLLMアプリ開発」では、LangChainの基本構成である「プロンプト」「ツール」「チェーン」について解説した。後編となる本稿は、大規模なデータをリアルタイムに分散処理するための基盤である「Apache Spark」や「Apache Kafka」との連携方法を紹介する。加えて、LangChainを初めて導入する場合に参考にできるベストプラクティスにも触れる。

LangChainと「Apache Spark」「Apache Kafka」の連携

 LangChainは、LLMを中核に据えたワークフローの構築や、外部APIやツール、ソフトウェアとの連携に優れている。しかし、AIアプリケーションで求められるのは、単なるモデルの制御にとどまらない。

 エンタープライズ向けのAIツールを開発する場合、例えば財務モニタリングや予知保全(予測メンテナンス)といったシステムでは、大量のデータをリアルタイムまたは準リアルタイムで収集、処理、配信する必要がある。こうした高負荷なデータ処理を伴うユースケースでは、LangChainを、Apache SparkやApache Kafkaといったデータ処理プラットフォームと連携させることで、LLMのリアルタイムデータ活用が可能になる。

Apache Spark

 Apache Sparkは、データの抽出や変換、分析を高速に処理できる分散コンピューティングフレームワークを提供するオープンソースのツールだ。大規模データを対象としたSQLクエリの実行、分散機械学習タスクの実行、およびリアルタイムのストリーミングデータ処理などに使われる。

 その大きな特徴は、「インメモリ処理」(メモリ上でのデータ処理)が可能な点にある。これにより、ストレージベースの処理に比べて圧倒的に高速なデータ処理が実現する。外部ファイルやテキスト、リンク、各種データソースに接続し、柔軟なデータ操作することが可能だ。対応言語として「Scala」「Python」「R」「C#」などがある。

 ただし、Apache Sparkは大規模なデータ分析基盤に特化した設計であるため、リソース要件が比較的高く、小規模なAIアプリケーションや軽量なデータ処理タスクには過剰な場合もある。そのため、用途に応じた選定が重要になる。

Apache Kafka

 Apache Kafkaは、Apache Sparkと組み合わせてよく利用されるイベントストリーミングおよびデータ統合のための分散プラットフォームだ。両者を連携させることで、開発者はデータの取り込みからリアルタイム処理までを担うエンドツーエンドのパイプラインを構築できる。

 Apache Kafkaは、センサーデータのバッチ処理など、イベント駆動型アプリケーションに適している。分散クラスタ構成を採用しており、システムの一部に障害が発生しても、その耐障害性によってデータの整合性を保ちながら継続運用することが可能だ。クラスタを構成する各サーバ(ブローカー)は、メッセージ配送の追跡処理をオフロードすることで負荷を抑え、多数の並列クライアントに対応できる高スループットな処理基盤を実現している。

 ただし、Kafkaの運用には一定の専門知識が求められる。設定や構成を誤ると、パフォーマンスが大幅に低下する可能性もある。その運用の負担を軽減する手段としては、「Amazon Managed Streaming for Apache Kafka」(Amazon MSK)や「Confluent」「Redpanda」「WarpStream」「Aiven」といったマネージドKafkaサービスを活用することが有効だ。これらのサービスは、Kafkaの導入や設定、監視を簡略化し、よりスムーズな実装と運用を支援する。

LangChainの3つのベストプラクティス

 一部のユーザーは、LangChainを「不必要に複雑だ」と感じている。特に経験豊富な開発者の中には、PythonとOpenAIのライブラリを使って一からソースコードを記述し、必要に応じて独自のラッパー(機能を包むプログラム)を作成した方が、AIアプリケーションの開発がシンプルで柔軟になると主張する声もある。

 とはいえ、LangChainは拡張性を重視する開発者にとって、依然として価値のあるフレームワークだ。最低限のソースコードで構築できるローコードツールを好む開発者や、プログラミングの専門知識がなくても高度なワークフローを構築したいユーザーにとっては、特に有用な選択肢と言える。

 LangChainを初めて使う場合に、効率的かつ効果的にアプリケーションを構築することに役立つ3つの実践的なアプローチを紹介する。

  1. 「LangServe」でチェーンをREST APIとして展開する
    • LangChainエコシステムの一部である「LangServe」を使えば、構築したチェーンをREST APIエンドポイント(外部システムがHTTP経由でアクセスできる接続口)として容易にデプロイ(展開)できる。これにより、バッチ処理の実行、テストの一貫性確保、および他システムとの効率的な統合が実現しやすくなる。開発後すぐに外部サービスと連携した運用が可能になる点も魅力だ。
  2. 「LangSmith」でチェーンの評価とデバッグを実施する
    • 「LangSmith」は、LangChainに連携するモニタリングおよび評価用ツールであり、チェーンの挙動を可視化し、出力の精度や安定性を高めることに役立つ。開発者は、テストの追跡や構造化されたデバッグを通じて、AIアプリケーションの信頼性を継続的に改善できる。
  3. フィードバックループを自動化し、性能を継続的に改善する
    • AIワークフローにおいては、継続的なイテレーション(短周期の反復改善)が品質向上の鍵を握る。そのために、出力結果のロギングや、ユーザーの入力履歴の収集といったフィードバック機構の自動化が重要になる。LangChainの公式ドキュメントは発展途上のため、このベストプラクティスを実現するには、開発者自身がコミュニティーの知見を活用したり、独自に工夫を重ねたりする姿勢も求められる。

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