検索エンジンの役割を生成AIツールが奪いつつある中、ユーザーとの接点拡大を狙う企業にとって重要になりつつあるのが「GEO」だ。GEOとはそもそも何なのか。「SEO」とは何が違うのか。ざっくりとまとめた。
インターネットでの調べ物の手段が、従来の検索エンジンから生成AI(AI=人工知能)ツールへと移りつつある。こうした動きに従って、企業にとって重要になり始めているのが「GEO」(生成エンジン最適化:Generative Engine Optimization)だ。
企業はこれまで、Webトラフィック(Webサイト訪問数)を確保する主要な経路として検索エンジンを位置付け、「SEO」(検索エンジン最適化:Search Engine Optimization)を実践してきた。OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」といった生成AIツールが普及する中、調べ物に検索エンジンだけではなく、こうした生成AIツールを利用する動きが広がっている。
生成AIツールの普及に伴って「検索エンジンは、今後は調べ物には積極的に使われなくなるのではないか」といった懸念が生じ始めたことが、GEOの必要性につながっている。GEOとSEOには共通点もあるものの、互いに重要な違いがある。GEOとSEOの違いを確認し、両方のベストプラクティスを取り入れたWebコンテンツ戦略を立てることが重要だ。
ChatGPTやGemini、Anthropicの「Claude」、Perplexity AIの「Perplexity」などの生成AIツールにおいて、企業が自社のブランドやそれに関連するWebコンテンツの可視性を高める――。こうした目的のために登場したのがGEOだ。
SEOでは、検索エンジンの検索結果ページ(SERP:Search Engine Results Page)の上位に、企業が狙ったWebコンテンツが表示されるようにする。これに対してGEOは、生成AIツールの回答で企業の自社ブランドが紹介されたり、そのブランドに関する情報が引用されたりする可能性を高めるためのWebコンテンツ作成を支援する。
GEOの取り組みは始まったばかりであり、まだ十分な実績はない。それでも米国プリンストン大学(Princeton University)を含む複数の研究機関が、2024年に発表した論文「GEO: Generative Engine Optimization」は、GEOが効果を発揮する可能性を示している。例えばブランドに関するWebコンテンツが、独自の統計情報や、信頼性のある情報源からの引用を含んだりしていると権威性が高まり、生成AIツールがそのブランドに関する情報を回答に引用しやすくなるという。
SEOは、Googleの「Google検索」やMicrosoftの「Bing」といった、主要な検索エンジンにおける可視性を高めるために、Webコンテンツを強化する取り組みだ。SEOの実践内容としては、Webコンテンツの品質(情報の深さや一貫性など)および表示速度の向上、モバイルデバイス向けの表示調整といった、さまざまな取り組みがある。
Google検索やBingは複雑なアルゴリズムを使用して、ユーザーの検索クエリ(検索語句)に関連すると考えられるWebコンテンツをリスト化し、SERPとして表示する。SEOの専門家は、こうしたアルゴリズムの仕組みの理解に努め、関連する検索クエリのSERPで上位に表示されるように、Webコンテンツの改善を支援する。
企業がインターネットで自社のブランドやWebコンテンツの可視性を高める手段として、GEOとSEOはどちらも役立つ。ただし、それぞれに必要な具体的な取り組み内容は異なる。
GEOとSEOの最も根本的な違いは、対象となるツールの種類だ。GEOは、ChatGPTなどの生成AIツールを対象とする。生成AIツールがユーザーの質問に対する回答に、ブランドに関する情報を引用する可能性や、その引用を好意的にする度合いを高めるための取り組みがGEOとなる。
SEOは、Google検索などの検索エンジンを対象とする。検索エンジンは、ユーザーの検索クエリに対して関連しそうなWebコンテンツのリストを返し、特に関連性の高い結果を上位に表示するのが特徴だ。検索クエリに対するSERPにおいて、狙ったWebコンテンツが上位に表示される可能性を高めるための取り組みが、SEOの中心となる。
前述のプリンストン大学らの研究によると、GEOは生成AIツールの回答におけるブランドの可視性向上に役立つ可能性がある。GEOにおけるベストプラクティスとしては、ブランドに関するWebコンテンツに独自の統計情報や、信頼性のある情報源からの引用を含めることが挙げられる。
ブランドに関するWebコンテンツにFAQ(よくある質問と回答)を追加することも、GEOの有効な手段となるといわれている。FAQを追加したWebコンテンツは、生成AIツールが引用する可能性が高くなるという。FAQの会話形式の質問と回答は、生成AIツールが処理するユーザーの質問や、生成する回答に関連付けやすいことが背景にある。FAQはユーザーの質問を想定したものであるため、生成AIツールは同様の質問をするユーザーへの回答として、FAQの内容を直接的に取り入れやすいと考えられる。
SEOのベストプラクティスは、GEOのベストプラクティスと重なる部分もあるものの、同じではない。例えばGoogle検索はSERPを生成する上で、Webコンテンツの「E-E-A-T」の各要素を重視している。E-E-A-Tは、Experience(経験)、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字をつなげた用語であり、Googleが公開する検索品質評価ガイドラインに基づく指標だ。
GEOに効果的だといわれる統計情報や引用、FAQの追加は、SEOの強化にも役立つ可能性がある。ただし専門家は、GEOほどにはこれらの要素をSEOのベストプラクティスに挙げていない。
一般的なSEOのベストプラクティスには、
といった内容がある。
「GEOツール」は、企業が生成AIツールによる回答で、自社情報の引用をより多く獲得するのに役立つソフトウェアだ。一般的な機能として、
などがある。例えばHubSpotの「AEO Grader」(AI Engine Optimization Grader)、AthenaHQおよびGoodie AIの同名ツールなどは、GEOツールとして捉えることができる。
SEOツールは一般的にキーワード調査機能を備え、主要な検索エンジンで検索されている語句や、そうした語句の月間検索数などを調べることができる。検索エンジンにおける自社コンテンツの検索順位や流入数などをモニタリングする機能、自社コンテンツに生じている技術的な問題(リンク切れなど)を検出する機能もある。
例えばAhrefsやSemrushの同名ツール、SEOmozの「Moz」などのSEOツールが存在する。Semrushなど一部のSEOツールベンダーは、自社ツールにGEO機能を追加し始めている。
GEOは生成AIツールの回答に、ブランドに関する情報が引用される可能性を高めるのに役立つ。ただし、どれほど効果的なGEO施策であっても、SEO施策ほどのWebトラフィック向上効果は見込みにくい。生成AIツールは、ユーザーの質問に直接回答する一方で、関連するWebコンテンツのリストを網羅的に表示するわけではない。ブランドに関するWebコンテンツが出典として引用されていたとしても、ユーザーがそれにアクセスするかどうかは不明瞭だ。
SEOは企業にとって、Webトラフィックの拡大に大きく役立っている。ただし検索エンジンの役割が、生成AIツールに取って代わられるようになれば、全体的なWebトラフィックは落ち込み続ける可能性がある。こうした背景を踏まえると、企業はGEOを自社ブランドの認知度向上施策として取り組み、SEOをWebトラフィック獲得策として取り組むなど、両者を併用することが有効だ(表)。
| GEO | SEO | |
|---|---|---|
| 対象ツール | 生成AIツール | 検索エンジン |
| ベストプラクティス例 | 統計情報やFAQ、引用の追加 | キーワードの適切な配置、見出しによる構造整理、内容の深化、被リンクの増加 |
| 支援ツール例(アルファベット順) | AEO Grader、AthenaHQ、Goodie AI | Ahrefs、Moz、Semrush |
| Webトラフィック獲得効果 | 限定的 | 大 |
生成AIツールの普及によって、インターネットでの調べ物が検索エンジン一辺倒ではなくなりつつある。こうした中、マーケティング担当者やSEO担当者、Webコンテンツ担当者は、GEOとSEOに関する知識を整理し、それぞれを適切に生かすことが必要だ。以下にこれまでの内容を踏まえて、GEOとSEOに関する主要なFAQをまとめた。
GEOは生成AIツールにおいて、企業が自社ブランドの可視性を高めるのに役立つ。SEOは検索エンジンのSERPで、企業が自社のWebコンテンツを上位に表示されるようにするのに寄与する。
GEOは、企業が実践するための手段として使われ始めた、現実の施策だ。企業が自社のブランドや商品、それらに関連するWebコンテンツを、生成AIツールの回答に引用される可能性を高めるのに役立つ。まだ使われ始めて間もないものの、プリンストン大学らの研究によると、生成AIツールにおける自社ブランドやそれに関連するWebコンテンツの可視性向上につながるという。
GEOとSEOは、どちらも重要だ。企業は両方を並行して実践できる。生成AIツールの登場で、SEOの重要性に陰りが出てきているものの、検索エンジンは依然としてかなりのWebトラフィックを生み出している。GEOは生成AIツールにおけるブランドの認知度拡大のために、SEOはWebトラフィック増大のために活用できる。
検索エンジンが引き続き広く利用されている状況を踏まえると、近い将来にGEOがSEOに取って代わることはないといえる。生成AIツールの普及で、SEOは以前ほどの効果を発揮しにくくなったものの、完全になくなるとは考えにくい。
GEOのベストプラクティスは、SEOのベストプラクティスと重なる部分がある。そのため企業は、自社ブランドのSEOプロジェクトに、GEOの要素を比較的容易に組み込むことが可能だ。例えばコンテンツマーケティング担当者は、従来のSEO施策を継続しながら、独自の統計情報やFAQをWebコンテンツに追加するといったGEO施策に取り組むことができる。
企業がGEOの効果を測定する方法は幾つかある。例えば生成AIツールで自社ブランドに関するWebコンテンツが引用元として表示される頻度、生成AIツールで自社ブランドが言及される文脈、生成AIツールから発生するWebトラフィックを調査できる。こうした調査は手動でも、GEOツールを導入して自動化することも可能だ。
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