技術的負債に苦しむ企業が急増する中、調査会社Forresterが提示した解決策が注目を集めている。レガシーシステムの負のスパイラルを断ち切る戦略とは何か。
既存システムが抱える保守や運用上の問題や制約「技術的負債」の解消で失敗する企業が後を絶たない。「レガシーシステムの刷新に着手したが、かえってコストが膨らんでしまった」「新機能の開発が遅れ、競合に後れを取っている」――こうした声は、IT部門を抱える企業にとって見過ごせない問題だ。
調査会社Forrester Researchが2025年7月に公開したレポート「2026 Budget planning: prepare for even more volatility」(2026年予算計画:さらなる不安定性への準備)は、このような失敗の共通点を分析している。技術負債の解消作業を延々と続けることは、組織の前進を助けていないというのが同社の見解だ。「技術負債の返済に苦労しているが、常により多くの負債が積み重なっていく」と、同社アナリストは指摘している。
Forresterが示す解決策の要点は、従来の「技術負債を小刻みに解消する」方法から、「レガシーを思い切って廃棄する」方針への転換だ。レポートの著者は、技術負債がITコストとリスクを同時に引き上げ、新機能の提供を遅らせると警告し、ITリーダーに大胆な方向転換を促している。
具体策は、技術負債を抱えたシステムの運用を、信頼できる外部の事業者にアウトソーシングし、社内のITチームは最新のITアーキテクチャと実装手法の導入に専念できる体制を整えることだ。
著者は次のように述べる。実績ある事業者にレガシーな技術スタック(古い技術で構成されたシステム基盤)の運用を委託すれば、合意済みのコストで高い運用信頼性を確保できる。その結果、浮いた資金と人員をイノベーションに振り向け、将来の成長を支える適応性に富んだAI駆動エコシステムを構築できる。
ただし、システム移行に伴うノウハウの受け渡しで発生する課題を管理するには、規律ある長期的IT戦略とガバナンスが欠かせないとも同社は指摘している。
Forresterの調査によれば、技術負債の削減を進める一方で、技術リーダーの86%が「2026年は予算が増える」と見込んでいる。とりわけ投資拡大が期待されるのは次の3つの領域だ。
レポートは、これらの領域で「低コスト、または無コストの小規模実験(PoC)を繰り返し、いつでも本格展開できるよう備えるべきだ」と提言する。2026年時点では即座に大きなリターンが見込めないかもしれないが、2027年以降に主力となり得る「パイプライン技術」(将来有望な技術)を継続的にテストしておくことが重要だとしている。
「AIエージェント」(人間の指示なしに自律的にタスクを実行するAI)は、Forresterのレポートが注目する新興技術の一つに位置付けられる。著者らは、安全かつ効果的に導入を進めるため、次の2段階アプローチを推奨している。
エージェントが増えるほど、マルチプラットフォームでの統制を支える通信プロトコル(システム間の通信規約)の選択が重要になる。現時点で整備が進む規約には次のものがある。
Forresterは、顧客洞察を迅速に得る手段として「合成データ」(実際のデータの代わりに使える人工のデータ)の利点と欠点を学ぶことも勧めている。実データが乏しい場合でも、合成データを用いれば大規模なテストや調査が可能になるからだ。
技術的負債の解消は単なるコスト削減策ではなく、競争力強化につながる戦略的投資になる。Forresterが示すように、延命策に頼らず未来志向のIT基盤を築く企業こそが、変化の激しい市場で優位に立てる。
翻訳・編集協力:雨載ITラボ(リーフレイン)
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