AI市場で大幅な躍進を遂げるNVIDIAだが、その裏でCEOのジェンスン・フアン氏自らが大きな懸念を示す事項がある。年間500億ドル規模と試算する巨大市場への参入の好機を逃しかねない、同社が抱える問題とは。
2025年に入っても、GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーNVIDIAのデータセンター事業は大幅な成長を遂げている。同社CEOのジェンスン・フアン氏は、自社のGPUアーキテクチャ「Blackwell」の中国向け販売に意欲を見せている。
NVIDIAが発表した2026年度第2四半期(2025年5〜7月)の決算報告によると、売上高は467億ドルに達し、2025年度同期(2024年5〜7月)から56%増加した。このうち、Blackwell関連のデータセンター事業の売上高は前期比で17%増加した。
NVIDIAの創業者兼CEOであるフアン氏は決算発表の場で、Blackwellを「世界が待ち望んでいた、人工知能(AI)技術を支えるGPUアーキテクチャ」と位置付け、その重要性を強調した。同氏は、AIモデルの性能向上ニーズが高まる中で、複数のGPU間を接続する技術「NVLink」が「革命的」であると評する。この技術によって複数GPUを連携させ、あたかも1台の巨大なGPUであるかのように機能させることができ、高性能なAIモデルのトレーニングや推論も処理できるようになる。「AIモデルの開発競争が激化する中、Blackwellはその中心的な役割を担うだろう」と同氏は語る。
調査会社Forrester Researchのシニアアナリストであるアルビン・グエン氏によると、Blackwellのような最先端製品への関心は依然として高い。グエン氏は、NVIDIAが「自社の強みを生かせる領域で戦略的な手を打っている」と説明する。同氏が挙げるNVIDIAの戦略は以下の通りだ。
決算説明会で中国に関する質問を受けたフアン氏は、「中国は世界第2位のコンピューティング市場であり、AI研究者の拠点でもある」と述べた。同氏は「世界のAI研究者の約半分が中国にいる」との見方を示した上で、「中国市場はNVIDIAにとって年間500億ドル規模のビジネスチャンスをもたらすと見積もっている」と語った。
しかし、この巨大市場へのアクセスを阻んでいるのが米国の輸出規制だ。「これほどの規模である中国市場でビジネスを本格的に展開できる状態になることは、米国のIT企業にとって極めて重要だ」とフアン氏は訴える。
トランプ政権は、半導体の性能に基づいて高性能GPUやAIアクセラレータ(AI関連処理を高速に実行するために設計されたハードウェア)の中国への販売に輸出規制を課している。ただしこの規制には一部緩和の動きもあり、2025年8月初め、米国政府はNVIDIAが中国市場にGPU「H20」を販売することを許可すると発表した。これは、企業が売上高の15%を米国政府に納めることを条件に、これまでの輸出規制を覆す取引の一環だ。
ただし、この取引の対象にNVIDIAのBlackwellは含まれていない。フアン氏は、今回輸出が許可されたH20を足掛かりとして、将来的にBlackwellを中国市場に投入する好機が生まれると考えている。同氏は、米国企業が中国市場に参入できることの重要性について、「政府と協議している」と語った。
オンライン金融取引サービス企業AvaTradeのチーフマーケットアナリストであるケイト・リーマン氏は、NVIDIAが2026年度第2四半期に、規制対処版であるH20すらも中国に出荷しなかったことに着目し、「輸出規制が重くのし掛かっている」と分析する。「NVIDIAの経営陣は規制が緩和されれば、同年度第3四半期に20億〜50億ドルの売上増が見込めると述べている。しかしそれは『もしも』の話であり、市場は不確実性を嫌う。特に地政学的な要素が絡む場合はなおさらだ」(リーマン氏)
一方でリーマン氏はAI市場全体の将来には楽観的な見方を示す。同氏は「NVIDIAの業績は、同社にとってAIインフラが次の長期的な成長の原動力になることを裏付けている」と述べる。これはNVIDIAだけの話ではなく、チップメーカーやクラウドベンダー、AI関連企業にとっても朗報であり、「業界全体が好景気に沸いている状態」だという。
AI市場が盛り上がりを見せる中で、NVIDIAが直面している中国を巡る状況は示唆に富む。企業がいかに強力な製品や技術を持っていても、経済や政治といった外部の大きな動きが依然として経済に重要であることを思い起こさせるからだ。「規制や貿易摩擦、世界的な政治情勢が、今やビジネスの成否を左右する無視できない要素になっている」とリーマン氏は指摘する。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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