AIツールの活用をなかなか広げられず、価値を最大限に引き出せていない――。こうした状況を打開するには、何をすればよいのか。専門家が強調するのが「現場」と「データ」に目を向けることの重要性だ。
ビジネスリーダーはAI(人工知能)技術の活用に全面的にかじを切ったものの、その大規模展開には苦戦している。データがサイロ化した状態(個別システムに閉じ込められて活用・共有できない状態)になっている上に、AIツールの活用を前提に業務プロセス全体を再構築するという、難しい課題があるからだ。
AIツールの価値を引き出すには、データをこれまで以上に自由に移動できるようにすることが必要になる。それは、アプリケーションの入れ替えといった表面的な取り組みだけでは実現できない。
企業の間で、アプリケーションのデータを「データレイクハウス」に集約する動きが広がってきた。データレイクハウスとは、さまざまな形式のデータをそのまま格納する「データレイク」と、構造化データを整理して分析に最適化する「データウェアハウス」の特徴を組み合わせたデータ格納・整備システム(データを格納し、分析やAIツールによる活用が可能な形に整えるシステム)だ。
データレイクハウスは、未整理のままになっているデータレイクのデータを含む。こうしたデータをAIツールに大量投入することに、経営陣は慎重になる。結果として企業は、AIツールがアクセスできるデータの種類を、目的に沿っている可能性の高いものに絞り込もうとする。
企業はデータレイクハウス内のデータを、業務機能ごとに整理していることが一般的だ。例えばERP(統合基幹業務)システムのデータと、CRM(顧客関係管理)システムのデータでは、構造も目的も根本的に異なる。これらをAIツールが活用できるようにするには、データを整理し直す再構成が欠かせない。
再構成の鍵は、データを整理するだけではなく、業務プロセスのルールや前提となるビジネスロジックを、関連データと共にAIツールに反映することだ。日々の業務に最も近い現場のチームこそが、返品ポリシーの管理や売上予測といった、AIツールの影響の大きい用途を特定できる。IT部門だけで全社的なAIツールの導入を主導すると、現場チームの知識を軽視してしまい、規模の拡大に行き詰まりやすくなる。
状況の打開には発想の転換が必要だ。AIツールが意味ある成果を生むには、具体的な業務に即したコンテキスト(背景知識)を豊富に含む社内データ(ファーストパーティーデータ)を、中核要素として活用することが欠かせない。これができなければ、AIツールは実力を発揮し切れなくなる。
私はこの数カ月、「AIデータクリアリングハウス」という構想について、世界中のビジネスリーダーと議論を重ねてきた。この構想は強い関心を集めている。AIツール導入を妨げる課題に対し、解決策を提示できるからだ。
AIデータクリアリングハウスは、ビジネスユーザーが扱いやすい中間的なソフトウェアを用意し、そこに企業の全てのアプリケーションからのデータを集約する。その上で、ビジネスロジックやガバナンスチェック(データの正確性や利用ルールの確認など)を組み込んだ「AIワークフロー」を、画面操作で構築できるようにする。AIワークフローとは、AIツールを動かすための処理手順を指す。ドラッグ&ドロップといった簡単な操作だけで済み、コーディングが不要であれば、ビジネスユーザーを含む幅広い従業員が自らAIワークフローを設計できるようになる。
ビジネスユーザーがAIワークフローを設計できれば、AIツールが何をしているのかを透明化しやすくなり、企業導入で課題となりがちなガバナンスの壁も克服しやすくなる。コンプライアンス(法令・規定順守)チームやリスク管理担当者、経営陣にとっても、AIツールの裏側にあるデータパイプライン(入力データを取り込み、処理し、結果を出力するまでの一連の流れ)を把握できるので、AIツールに対する適切な指摘やアドバイスをしやすくなる。その結果、AIツールのブラックボックス化を防ぎ、透明性を高めた共同作業と迅速な意思決定を実現できる。
業務や経営判断にAIツールの活用を最優先する「AIファースト」企業になるというビジョンを掲げながら、一方で「ファーストパーティーデータをAIツールに入力しない」と全社的に指示するCEOはいまだに存在する。データは企業にとって最も価値ある資産であり、その取り扱いに慎重になるのは理解できる。ただしAIツールを企業活動に本格的に活用するには、どこかでデータの保護と活用のバランスを取る必要がある。AIデータクリアリングハウスは、その打開を支える有効な手段となる。
Microsoftの「Copilot」など、個人レベルで利用できる生成AIツールは、便利な道具としての認識が進み、活用も広がっている。ただし、それが企業における大規模なAIツール導入の決定打になるわけではないことが明らかになりつつある。
企業がAIワークフローを取り入れる際は、過去の失敗を繰り返してはならない。かつてはデータに裏付けられた洞察を得ようと、既に多忙なビジネスインテリジェンス(BI)チームに各部門からの依頼が殺到し、レポートの出力までに数日掛かる状況が常態化していた。これは未来の姿にはふさわしくない。IT部門は、現場の従業員が自らAIワークフローを設計・構築できるように支援しなければならない。経営陣はAIツールのあらゆる活用が社内ポリシーや規制要件に沿っていることを求めており、その期待に応える仕組みが不可欠だ。
AIツールは、もはや個別のプロジェクトといった限定的な範囲にとどまらず、企業全体へと影響範囲を広げ始めている。AIツールに適した形でデータ格納・整備システムを大胆に再設計し、現場の従業員に裁量を与えて、主体的な変革の担い手とする企業こそ、この変化をリードできる。
本稿は、データ分析ベンダーAlteryxのCEO、アンディ・マクミラン氏による英Computer Weeklyへの寄稿記事を翻訳・編集したものです。
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