モジュール型データセンターの“ここがスゴイ” 設置拠点の課題に柔軟に対応キーワードは「モジュール」【前編】

従来型のデータセンターの設置や拡張に伴う課題を解消できる可能性を持つのが、モジュール型データセンターだ。その特徴を紹介する。

2025年10月06日 20時00分 公開
[Pratima HarigunaniTechTarget]

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 運用コストや建設用地の確保など、従来型のデータセンターインフラにはさまざまな課題がある。一方、それらの課題を解消する有力な選択肢となり得るのが、モジュール型データセンター(Modular Data Center、以下MDC)だ。

モジュール型データセンターなら“あの課題”も解決できる

 MDCは、工場であらかじめ組み立てられたプレハブ型、もしくはユニット型のデータセターだ。受電設備、サーバ冷却装置、ネットワークなどデータセンターに必要な設備や機能を筐体(きょうたい)に搭載しておき、迅速に設置、稼働できるよう設計されている 。

 データセンター設計の認定機関Uptime Instituteのトマス・ラコネン氏(欧州のサステナビリティ担当リサーチディレクター) によれば、人工知能(AI)需要に答える高度かつ消費電力の大きなエッジデータセンターで、MDCの利用は広がりつつある。

 Uptime Instituteのジェイ・ディートリッヒ氏(サステナビリティ担当ディレクター)によると、一般的な冷却モジュールは、エネルギーや水の消費を最小限に抑えるために、チラー(液体熱媒体を循環させて装置の温度を一定に保つ装置)、熱交換器、制御機能を一体化させたパッケージデザインで提供されている。UPS(無停電電源装置)も同様だ。バッテリーパックや機械式システムは、一定のエネルギー容量や冗長性を持つモジュールとして管理されている。これらの仕組みが、MDCの省エネ、効率性を支えている。

 「MDCは、従来型のデータセンターに比べて構築しやすい」。配電システムベンダーGroup Rhineのアイシャニ・バッシ氏(ディレクター)は両者をこう比較する。同氏によると、従来型のデータセンターは建設に時間が掛かる。巨大な拠点にデータセンターの機能を集約するため、柔軟性に欠ける。さらに、初期投資や運用コストなど巨額の資金を必要とするため、急増するデータ処理量や処理速度に対応しにくい。

 従来型のデータセンターは構築までに年単位の時間が掛かる一方、MDCは従来型と比べて最大40%速く構築できるという。段階的な拡張にも対応可能で、工場、都市部、物流拠点などユーザーの希望に合わせて柔軟に設置できると、バッシ氏はMDCの強みを説明する。

 ディートリッヒ氏は、「大規模なデータセンターの構築を目指す場合、MDCは最適な選択肢となる」と述べている。「500メガワット級のバックアップ発電機を持つキャンパスは、データセンターの拠点に発電所を新設するようなものだ」と同氏は指摘する。

設置拠点特有の課題にも柔軟に対応

 エネルギー事情やネットワーク環境に課題を抱えるインドで、MDC市場は拡大すると見る専門家がいる。Forrester Researchのビスワジート・マハパトラ氏(プリンシパルアナリスト)によれば、「農村部でエッジコンピューティングを利用してスマート農業を実施する」「医療機器の周辺や病院内でAIを使ってデータを処理する」といった場面で、MDCは有用だという。

 Gartnerのナレシュ・シン氏(シニアディレクターアナリスト)によると、インドの既存データセンターは、低〜中程度の電力密度に対応するラックを設置する前提で設計されている。計算負荷が高く電力消費も多いAIワークロードに必要な高電力密度に対応するには、データセンターの設備のアップグレードや新設が必要になると同氏は指摘する。「従来の要件とAIの要件両方を満たすデータセンターの構築が必要だ。そのための選択肢が、MDCだ」(同氏)

 電子機器メーカーDelta Electronicsのパンカジ シン氏(シニアセールスディレクター)によると、AIワークロードに対応するためには、一般的に高密度のラック(ラック当たり20〜50キロワット)が必要だ。MDCは電源装置や冷却機器をモジュール化している。そのため、各機器を拡張することで、高密度化を支えるよう設計されている。

 インドでMDCの市場機会を後押ししているトレンドは、AIだけではない。5Gの普及や、データ保護法に基づく国内データの保存推進もその要因だ。Delta Electronicsシン氏は、「MDCは従来型に比べて最大40%速く構築することが可能だ」と述べ、続けて、「品質の標準化、構築現場の労力削減、拡張の容易さ」をMDCの強みとして上げている。

 運営コストだけでなく、コンプライアンスの観点からも、データセンター運営における持続可能性へのニーズは高まりつつある。マハパトラ氏はMDCのメリットを「AI需要に伴う電力消費量に応じて、拡張しやすく、エネルギー消費を抑えながら極地展開できること」と強調する。「特定のタスクに計算リソースを集中させ、エッジコンピューティングや軽量AIモデルを統合することで、エネルギー集約型の中央集権型インフラへの依存を減らすことが可能だ」と同氏は述べている。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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