「AI」はデータセンター担当者の仕事を奪うのか、それとも進化させるのか効率化の先にある担当者の未来

AI技術がデータセンター管理を根底から変えようとしている。これまで人手に頼ってきた定型業務が自動化されることで、担当者の役割も大きな変革が迫られている。どのような価値を発揮すべきなのか。

2025年09月09日 05時00分 公開
[Jacob RoundyTechTarget]

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 データセンターにおけるAI(人工知能)技術の活用範囲が広がり、運用業務と深く結び付くようになることで、作業効率の改善、セキュリティの強化、インフラの最適化といった効果が期待できる。その結果、担当者はより戦略的な業務に集中できるようになる。本稿は、AI技術がデータセンターの業務をどのように変えるのか、データセンター担当者が将来その可能性をどう生かしていくべきかを探る。

AIがデータセンター運用を変える3つの分野

 AI技術がデータセンターで担うことができる役割は、データセンターの運用に関するデータの収集、分析だ。その分析から得られる知見は、効果的なデータセンター運用戦略の立案と実行、的確な意思決定を後押しする。

 以下に、データセンター運用における具体的なAI技術の活用分野を示す。

分野1.リソース管理

 AI技術を搭載したシステム管理ツールは、サーバ、ストレージ、ネットワークといった各種リソースのバランスを動的に調整する。具体的には、サーバ使用率の最適化、ストレージの自動拡張、ネットワーク遅延の低減などを実施可能だ。AIモデルは利用パターンや需要のリアルタイムな変動に合わせてワークロード(処理)の配分を調整できるため、データセンター全体の運用効率が向上する。

分野2.消費エネルギー管理

 データセンターが消費するエネルギー管理をAI技術で最適化すれば、サーバのパフォーマンスを損なうことなく、消費エネルギーを削減できる。エネルギー管理システムにAI技術を組み込むと、常時監視している温度や湿度といった環境データから、サーバやネットワーク装置などの機器に合わせた最適な設定に自動で調整可能になる。

分野3.データ管理

 AIモデルは人間よりも高速にデータを分析できるため、データ保管やワークロードの効率化に適している。こうした効率化によってエンドユーザーへの応答時間が短縮され、アクセスが集中した場合でも処理速度を維持できるようになる。AIモデルはデータの不整合や冗長性といった品質上の問題を検出し、人為的なミスを防ぐ役割も果たす。

セキュリティとデータ保護の強化

 新しい技術が急速に発展、普及する一方で、新たな攻撃手法も生まれ、進化を遂げている。AI技術は、絶えず進化する攻撃手法に対し、データセンターが先手を打って対処することを可能にする。

 AIモデルは、システムを常時監視して通常とは異なる活動を探す「異常検出」を得意とする。これには、不審な振る舞いの探索、平常時とは異なる利用パターンの検出、未知の異常の特定などが含まれる。AI技術を活用した脅威検出システムは、既知の脅威や脆弱性を監視し、脅威を検出した場合は問題を警告するとともに、それを排除するための具体的な対処法を提示する。

 サイバーセキュリティに関するタスクをAIモデルで自動化しておけば、脅威が検出されてから人が介入するまでの間、セキュリティ境界の保護が可能だ。具体的には、継続的な脅威や異常監視において誤検知を除外したり、侵害された可能性のあるデバイスを隔離するために特定の設定を調整したりできる。

 セキュリティ対策にAI技術を導入することで、担当者はコンプライアンスやガバナンスといった、より複雑な課題に専念できるようになる。

インフラ管理の最適化

 データセンターインフラの構築と保守は、多くのリソースと時間を要する複雑な作業だ。全ての構成要素が正常に機能するよう、データセンターの機器には継続的な保守と点検が欠かせない。たった1つの不具合が、予期せぬシステム停止につながることもあるからだ。

 従来のデータセンターにおけるインフラ管理は、問題が発生してから対応する「事後対応」が主流だった。問題が発生すると、管理者はトラブルシューティングによって根本原因を特定し、解決しなければならない。つまり、事後対処では管理者の貴重な時間が失われてしまうのだ。しかしAI技術を導入すれば、インフラ管理を「予防的」なものへと転換できる。

 AI技術を活用した監視ツールは、機器の状態を自律的に追跡し、メンテナンスが必要な時期を予測する。機械学習アルゴリズムは過去のシステムデータや施設のログを学習し、ハードウェアとソフトウェア全体のパフォーマンス基準を確立する。そして予測モデルが、特定のイベントやアクティビティー、ステータスデータ、パフォーマンス指標に基づき、メンテナンスの必要時期を推定するのだ。

 問題の複雑さに応じて、AIモデルは自ら解決するか、人間が対処するための指針を示す。この手法によって、手作業での修理やメンテナンスが減り、時間を節約できる。管理者はインフラ管理に予防的に取り組めるようになり、予期せぬシステム停止を防ぐことが可能になる。その結果、システムは24時間365日正常に機能し、適切に維持され、最適化された状態を保てる。

付加価値の高い業務への集中

 AI技術は人の能力を代替するものではなく、あくまで支援し、拡張するためのものだ。AIモデルが軽微な問題を解決し、定型的な保守作業を自動化する一方で、人の担当者は戦略的な業務や複雑な状況に集中できるようになる。AIモデルはこれまで見えづらかったシステムの稼働状況を可視化して、担当者がデータセンター全体の傾向から個々の機器の挙動までを理解するための情報も提供する。これによって担当者はシステムの問題をより正確に診断し、解決することが可能になる。

 一方でデータセンター担当者が、AI技術が自身の仕事の将来にどう影響を与えるのかと懸念を抱くのは当然だ。AI技術の導入によって反復作業や保守業務の必要性は減少するからだ。しかし、AI技術の利用が進むにつれ、AIエンジニアリングやデータサイエンスといった、より高度な専門職という新たな雇用機会が生まれる。

 戦略的な観点から見ると、AI技術の活用によって担当者はより多くの時間や金銭、人的リソースを事業成長のための活動に充てられるようになる。具体的には需要に応じた処理能力の増強(スケールアップ)や、企業の競争力を維持するためのデータセンター機能の強化、環境負荷を低減する持続可能なデータセンター技術やシステムの研究、開発、投資などがある。

 担当者が空いた時間を使って取り組むとよい重要分野の例は以下の通りだ。

  • 新しいアプリケーションの導入
  • データプライバシーポリシーの改善
  • 収益改善のためのデータセンター運用最適化
  • 安全が確保されている社内LANと、そうではないインターネットの間(セキュリティ境界)の重点的な保護強化
  • 異なる形態のシステムの連携と、それらのシステムが扱うデータ形式や通信プロトコルの統一

AI技術の進化に乗り遅れないために

 技術の進化に伴い、データセンターにおけるAI技術の役割はますます重要になる見通しだ。AI技術を慎重かつ戦略的に活用すれば、データセンターの運営方法を変革する貴重な資産になる。データセンター担当者は以下の施策に取り組み、AI技術がデータセンターにもたらす将来的な競争優位性を追求することが望ましい。

施策1.AI技術を活用したインフラを管理する専門人材の確保

 AI技術を取り入れたデータセンターには、AI技術の導入と管理に関する訓練を受けた、熟練した人材が必要になる。担当者は専門人材のスキルアップを奨励し、そのための適切な支援を提供すべきだ。

施策2.AIシステムのための技術的支援の提供

 AIシステムが進化するにつれて、より専門的なコンポーネント、場合によっては独自のシステム構成や冷却設備が求められることがある。こうしたニーズに応えるために、データセンター担当者は施設の設計をAI技術にどう適応させるべきかを検討する必要がある。持続可能なシステムを構築することは、運用コストを低く抑え、環境負荷を低減することにもつながる。

施策3.AI技術に関する規制への備え

 企業がAI技術の倫理、セキュリティ、プライバシーといった課題に取り組む中で、データセンターのインフラとそれを運用する担当者には、変化する規制やコンプライアンス(法令順守)要件に順応できる適応力が求められる。AI技術の導入と利用に関しては、明確な基準や方針を確立するなど今から予防策を講じておくことで、データセンターの安定性や信頼性を維持できる。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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