Chrome vs. Edge “9割同じ”が生む「セキュリティの死角」と代償更新頻度、拡張機能、管理基盤を徹底比較

Webブラウザは今や「業務OS」だ。「Google Chrome」「Microsoft Edge」は共に同じエンジンを積むが、選択を誤れば脆弱性対応の遅れや管理の複雑化を招く。4つの決定的な違いを解説する。

2025年12月14日 08時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 企業ITにおいて、Webブラウザは単なる閲覧ソフトではなく、業務アプリケーションとデータを扱う「業務OS」へと進化した。現在、市場で高いシェアを持つ「Google Chrome」(以下、Chrome)と「Microsoft Edge」(以下、Edge)は、共に「Chromium」を心臓部に採用しており、表面的な操作性や互換性に大差はない。

 だが、情シスがこの類似性に油断し、漫然とブラウザを選定・放置するのは危険だ。共通基盤ゆえに同時多発的に発生する脆弱(ぜいじゃく)性に対し、修正パッチが適用されるまでの「タイムラグ」や、無秩序に増殖する「拡張機能」の管理手法には、両者の設計思想の違いが色濃く反映されているからだ。

 本稿は、TechTargetジャパンやComputer Weeklyの記事から、機能の優劣ではなく、企業のセキュリティ強度と管理コストを左右する4つの視点で両者の決定的な違いを解剖する。

「似ているからどっちでもいい」は危険な勘違い

使い勝手:移行の「心理的壁」とEdgeの便利機能

 Chromiumベースとなった現在、両者の基本的な操作性やWeb標準への準拠度に決定的な差はない。しかし、情シスが考慮すべきはユーザーの移行コストだ。

 Edgeは、圧倒的なシェアを持つChromeからの乗り換えを促進するため、便利な機能を備えている。Chromeのブックマークや保存済みパスワード、さらには閲覧履歴までもインポートする機能により、ユーザーは違和感なくEdgeへ移行できる(出典:Chromeユーザーが「Microsoft Edge」に乗り換える簡単な方法)。

 一方で、Chromeの強みは現場の慣れと動作の確実性だ。長年、SaaSベンダーやWebアプリ開発者が“Chromeファースト”で検証を行ってきた歴史は重い。情シスにとって、Edgeへの強制移行は「使い勝手が変わった」という問い合わせ対応や、一部のWebアプリでの微細な挙動差異によるトラブルシューティングのリスクを背負うことを意味する。機能差ではなく、移行に伴うサポートコストを許容できるかが最初の分水嶺(ぶんすいれい)となる。

自由度:「拡張機能」という名のセキュリティホール

 ブラウザの利便性を高める「拡張機能(アドオン)」は、同時に最大のセキュリティリスクでもある。Chromeウェブストアは巨大なエコシステムを持ち、業務効率化ツールも豊富だが、その中には悪意あるコードが潜んでいるケースも少なくない。実際に2025年には、長期間利用されていた複数のChrome拡張機能が改ざんされ、マルウェアの配布元となるインシデントが報告されている(出典:Dozens of Chrome extensions hacked in threat campaign)。

 EdgeもChromium互換の拡張機能を利用可能だが、企業利用においては「どこまで許可するか」の線引きが重要だ。情シスの管理下にない拡張機能が、顧客データや認証情報を外部へ送信する「ブラウザ版シャドーIT」のリスクは、両ブラウザ共通の課題である。問われているのはブラウザの種類ではなく、ホワイトリスト運用や権限管理を徹底できる管理体制の有無だ。

セキュリティ:共通基盤ゆえの「パッチ適用のタイムラグ」

 ChromeとEdgeは同じChromium基盤を利用しているため、基盤部分に脆弱性が発見された場合、両者が同時にリスクにさらされる。2023年に発覚した画像フォーマット「WebP」の脆弱性(CVE-2023-4863)は、その典型例だ(出典:ChromeやEdgeなど人気ブラウザを危険にする「画像フォーマット」の脆弱性とは)。

 ここで重要になるのが修正パッチの提供スピードだ。GoogleはChromeのセキュリティ更新頻度を短縮し、2023年以降は週単位でのパッチ提供体制に移行した。発見から修正までのリードタイムを極限まで削る方針だ(出典:Google speeds up security update frequency for Chrome)。

 対してEdgeは、Microsoft独自の検証プロセスを経てから配信されるため、場合によってはChromeの更新からタイムラグが生じる場合がある。このわずかな空白期間を攻撃者に狙われるリスクをどう評価するか。即時対応を最優先するならChrome、OS更新サイクルとの調和を重視するならEdgeという判断になるだろう。

管理性:クラウド管理か、AD統合か

 情シスにとっての最大の選定基準は管理性に尽きる。ここでは両者のスタンスが明確に分かれる。

 Chromeは「Chrome Enterprise Core」により、クラウドベースでの一元管理を推し進めている。社内ネットワークの内外を問わず、Windows、Mac、Linux、Chromebookといった多様なOS上で動作するブラウザに対し、統一したポリシーや拡張機能の制御を適用できるのが強みだ(出典:企業向けブラウザを管理する「Chrome Enterprise Core」ガイドブック)。

 一方のEdgeは、「Microsoft 365」や「Microsoft Intune」「Microsoft Active Directory」といったMicrosoftエコシステムとの統合が最大の武器だ。既存のWindows管理基盤をそのまま流用できるため、追加の管理ツールを導入する手間がない。また、レガシーシステムを抱える企業にとっては、Internet Explorer(IE)専用サイトをEdge内で閲覧できる「IEモード」が、実質的な延命措置として機能している。

ブラウザは「機能」ではなく「守り方」で選べ

 ブラウザに生成AI機能が統合され、OSに近い役割を担い始めた今、ブラウザは攻撃者にとって「情報の宝庫」となっている(出典:Your browser is an AI-enabled OS, so secure it like one)。

 ChromeとEdgeの対立構造は、もはや「どちらが便利か」というレベルの話ではない。「Googleのクラウド管理エコシステムに乗るか」「Microsoftの統合管理環境で固めるか」という、企業のIT戦略そのものの選択だ。

 情シス担当者は、現場の声(使い勝手)だけに流されず、自社の管理基盤との親和性と、許容できるセキュリティリスクを天秤にかけ、標準ブラウザを定義する必要がある。

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