企業向けチャットbot市場には、さまざまなベンダーやサービスが存在している。チャットbotに組み込まれる対話型AI(人工知能)技術は、生成AIやAIエージェントの機能を取り込みつつ進化している。今までAIモデルを提供していた企業が、チャットbotを構築するための機能を製品として提供し始める場合もある。
こうした状況の中で、AIチャットbotや対話型AIに関連する製品やサービスは、大きく次の3つに分類できる。1つ目が業種を問わず幅広く使える汎用的なAIチャットbot開発サービスで、2つ目が、AIチャットbotに組み込むためのAIモデルやインフラ、3つ目は、特定の業界や業務に特化したサービスだ。
本稿はこうした企業向けAIチャットbotサービスとその機能、各サービスの課題を、10個取り上げて比較する。
AWSは、AIチャットbot開発サービスの「Amazon Lex」と生成AIアプリケーション開発サービス「Amazon Bedrock」を提供している。Lexは、自然言語理解(NLU)を活用して会話を自動化する。BedrockはさまざまなAIモデルとそれを実行するためのインフラをマネージドサービスとして提供する。Bedrockで利用できるAIモデルには、AWSの「Amazon Nova」やGoogleの「Gemma」、OpenAIの「GPT」などがある。
Amazon LexとAmazon Bedrockを組み合わせることで、カスタマーサービスや商取引、IT運用に利用可能なチャットbotが構築できる。
- 主な用途
- コンタクトセンターの自動化やeコマース支援、注文追跡、知識検索、ITサービスとのやりとり、カスタマーサポート
- 特徴
- AWSのさまざまなサービスとの連携が可能だ。コンタクトセンター構築サービスの「Amazon Connect」と使用すれば、電話やIVR(音声応答)に生成AIによる自動応答の仕組みを組み込める。世界中のリージョン(データセンター)で実行できる拡張性も強みとなる。
- サービスの課題
- AIチャットbotに特化したサービスと比較して、会話設計のためのツールが洗練されていない。複数のAWSサービスを連携させて複雑なAIアプリケーションを構築するには、エンジニアリングのスキルが必要になる。
- 他のシステムとの連携機能
- Amazon Connectやコード実行サービスの「AWS Lambda」、データベースサービスの「Amazon DynamoDB」などのAWSサービスと連携し、イベント駆動型(イベント発生を起点に処理を自動連携させる仕組み)のワークフローを実現する。Amazon BedrockはAPIを通して、既存の企業システムとの連携も可能だ。同サービスはカスタムAIモデルの微調整や企業向けのRAG(検索拡張生成)の実装が可能なため、データ漏えいのリスクを抑えながら社内データをチャットbotの対話に組み込める。
- どのような企業に適しているのか
- 既にAWSを主要なクラウドサービスとして利用する企業に適している。こうした企業にとって、インフラの拡張性や信頼性を維持しやすい選択肢になる。
AnthropicのAIモデル「Claude」は、自然で人間らしい会話が可能な点や、有害な回答を生成するリスクを抑え安全性を高めている点が特徴だ。ユーザー企業は、複雑な会話が可能なチャットbotやAIエージェントを構築するのに役立つ。
- 主な用途
- 複雑な問い合わせ処理やデータ分析、推論、文章要約、特にコンプライアンスに気を付けるべきタスクの処理、企業の顧客向けアドバイザリー。
- 特徴
- 推論能力と厳格な安全設計を備えているため、機密性の高い内容や高い正確性が求められるやりとりに適している。
- サービスの課題
- 汎用的なAIアプリケーション開発サービスと比べると、チャットbotの構築機能が限られている。Claudeを他のシステムやサービスと連携させるには、クラウドベンダーなどのパートナー企業が提供するAI開発サービスを通して同モデルを利用しなければならない場合がある。
- 他のシステムとの連携機能
- APIを利用したシステム連携が可能だ。Claudeは主要クラウドベンダーが提供するAI開発サービス経由でも利用できるほか、AIエージェントフレームワークとの互換性もある。
- どのような企業に適しているのか
- 複雑なワークフロー全体にわたって信頼性のある推論結果や安全性が高い応答を必要とする企業に適している。
Aiseraは同名のAIエージェントを提供するベンダーで、2025年にAutomation Anywhereに買収された。ITや人事(HR)、カスタマーサポートなどの領域でセルフサービスの自動化を実現することに焦点を当てている。会話型AIやワークフロー自動化、チケッティング自動化などの機能を搭載しており、ユーザー企業は特定の業務に特化したAIエージェントとして利用可能だ。
- 主な用途
- ITサービス管理(ITSM)のチケット解決や人事関連の問い合わせ自動化、カスタマーサービス、多言語のユーザー対応。
- 特徴
- 社内業務プロセス全体を対象とした自動化機能や、ワークフローオーケストレーション(複数のシステムにまたがる業務プロセス全体を自動化する仕組み)、多言語対応機能を搭載している。
- サービスの課題
- 特定の業務に最適化されたAIモデルを利用しているため、ITサービスやカスタマーサポート、社内問い合わせなどの用途に限定される。
- 他のシステムとの連携機能
- サービスデスクやチケット管理システム、ID管理システム、エンタープライズ向けワークフローツールとの連携が可能だ。業務領域やタスク別に自動化を実現するマルチエージェント機能や、プロンプトのオーケストレーション機能(プロンプトを順序立てて管理したり、組み合わせたりする仕組み)も備える。
- どのような企業に適しているのか
- 社内サポート業務の自動化を大規模に推進したい企業に適している。
Boost AIは、規制の厳しい業界で生じる大量のカスタマーサービス業務向けに設計された対話型自動化サービスを提供している。チャットや音声による自動応対サービスを、安全性を維持しながら拡張するための機能を備えている。
- 主な用途
- 銀行や保険、通信、政府機関などのカスタマーサービスや、コンプライアンスが重要な取引ワークフローの自動化に利用できる。
- 特徴
- 問題のある回答の出力を防ぐためのガードレール機能や、金融機関、政府機関の法規制の要件を満たすデータ保護機能を備えている。事前構築済みの業界別モジュールが利用できるため、迅速に利用を開始できる点も特徴だ。生成した応答の改善やワークフロー自動化、特定タスク向けのモデル調整といった機能も搭載している。
- サービスの課題
- 研究開発の規模が比較的小さく、特定業界に重点を置いたサービスのため、汎用的なAIサービスと比較して用途が制限される可能性がある。
- 他のシステムとの連携機能
- オムニチャネル向けのコネクターやサービスデスクとの連携、エンタープライズシステム向けのAPIなどを用意している。
- どのような企業に適しているのか
- 大規模なカスタマーサービス業務を持ち、高いコンプライアンス要件がある企業に適している。
Cognigyの同名サービスは、さまざまな開発機能や自動化機能を搭載したAIチャットbot開発サービスだ。複数種類のデータを組み合わせて処理するマルチモーダルな顧客エンゲージメント施策や、幅広い用途の企業向け対話型AIアプリケーションの構築に利用できる。
- 主な用途
- コンタクトセンターの自動化やITサービスデスク、対話型IVR、マルチモーダルな顧客サービス。
- 特徴
- 音声の解析機能やプロセスの自動化機能、ローコード開発機能を搭載しており、「Salesforce」「UiPath」「ServiceNow」などのサードパーティーソフトウェアと連携可能なさまざまなコネクターを用意している。
- サービスの課題
- 搭載されている機能やコネクターをフル活用してシステムを開発するには、ITスキルが必要になる。
- 他のシステムとの連携機能
- サードパーティーのCRM(顧客関係管理)やERP(統合基幹業務システム)、コンタクトセンターシステム、エンタープライズアプリケーションとのコネクターが用意されている。ハイブリッドクラウドインフラやオンプレミスインフラでも実行可能だ。ジェネレーティブワークフロー、ドメインチューニングされたモデル、進化したオーケストレーションパターンにも対応している。
- どのような企業に適しているのか
- マルチモーダル機能や、AIツールとさまざまなシステム間の連携を求める企業に適している。
後編はGoogleの「Dialogflow CX」とIBMの「IBM watsonx Assistant」、Kore.aiの「Kore.ai」、Microsoftの「Azure OpenAI」「Copilot Studio」、OpenAIの「ChatGPT Enterprise」を取り上げる。
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