安心して働ける職場とは
あえて成果を手放すリーダーが結果を出し続ける理由
「安心して働ける職場」と「不安に支配される職場」で成果に違いは出るのか。ある専門家は、成果を左右するのはスキルや制度ではなくリーダーの在り方だと指摘する。優れたリーダーとなるための勘所を整理する。
なぜ優れたリーダーの下では、人は安心して働けるのか。この問いに対し、組織心理とリーダーシップの観点から答えを示したのが、思想家のサイモン・シネック氏だ。
同氏は、戦場で仲間を救出した兵士の行動を例に挙げる。命の危険を顧みず、他者のために行動する。その原動力は「特別な資質」ではない。「環境」であると指摘する。人は適切な環境に置かれたとき、誰もが他者のために行動できるという。
この視点は企業組織にも当てはまる。成果が出る組織と停滞する組織の違いは、人材の能力ではなく、組織内部の状態にある。つまり、リーダーがどのような環境を作るかが全てを左右する。
信頼と協力は「命令では生まれない」
シネック氏は、信頼や協力は「指示」ではなく「感情」に基づいていると強調する。上司が「信頼しろ」「協力しろ」と言っても、現場は信頼しないし、上司の指示通りには動かない。
人が信頼し、協力し合うのは、自分が守られていると感じたときだけだ。この状態を同氏は「安全の輪」(Circle of Safety)と呼ぶ。組織の内部が安全であるとき、人は安心して力を発揮し、互いに支え合う。
一方で、内部に不安がある場合はどうなるか。評価への恐怖や責任転嫁の文化があると、人は他者ではなく自分を守る行動を取る。その結果、組織全体のパフォーマンスは低下する。
リーダーの役割は「外敵」と戦うことではない
現代の企業環境は不確実性に満ちている。市場の変動、他社との競争、技術革新――これらはコントロールできない外部要因だ。
シネック氏は、リーダーが注力すべきは外部ではなく「内部」であると説く。組織の中に安心感を作ることこそが、リーダーの本質的な役割だ。
従業員が「この組織は自分を守ってくれる」と感じたとき、初めて外部の脅威に対して一丸となって立ち向かえるようになる。
優れたリーダーは「人を守るために犠牲になる」
多くの企業で見られるのは、「成果のために人を犠牲にする」意思決定だ。業績悪化時の人員削減や、短期的な数字を優先した評価制度がその典型だ。
しかし、優れたリーダーは逆の選択をする。つまり、「人を守るために成果を犠牲にする」判断だ。
この違いは、組織に決定的な差を生む。人が守られる環境では、信頼が生まれ、協力が自然に発生する。結果として、組織はより強くなる。
実際に、ある企業では不況時に解雇を避け、全社員で負担を分かち合う選択をした。その結果、士気が向上し、業績改善につながったケースもある。
それが、米国にある製造会社だ。同社は2008年の不況で大打撃を受け、一晩で注文の30%を失った。この結果同社は取締役会を開き、レイオフ(一時解雇)について協議した。しかし、その判断を拒否したのが同社の経営者だった。従業員の「頭数」ではなく「心の数」を重視する同氏は、レイオフの代わりに休暇制度を設置した。秘書からCEOまで、全従業員が4週間の無給休暇を取ることを義務付けたのだ。休暇はいつでも好きな時に取得できるものだったが、特に重要だったのが、制度に関する発表の内容だったという。制度の発表の際、その経営者は「誰か1人が苦しむよりも、全員が少しずつ苦しむ方がよい」と言い添えた。その結果、従業員の士気は高まり、互いへの配慮を意識し始め、赤字は減ったという。
リーダーシップは「肩書」ではない
シネック氏は、「リーダーシップは地位ではなく選択である」とも語る。
「組織の最上位にいても、全くリーダーではない人々をたくさん知っている」。シネック氏はこう話す。続けて、「そのような人物は権威者であり、権威を持っているからその指示に従う。ただし、その人物について行こうとは思わない」と強調する。一方で、権限がなくても、周囲の人を守ろうとする行動を取る人はリーダーになり得ると同氏は指摘する。
リーダーの本質は単純だ。自分の左右にいる人を守ると決めること。その積み重ねが、組織全体の信頼を形作る。
シネック氏が示唆することは
この考え方は、情報システム部門にも直結する。
セキュリティやIT運用は、本来「失敗が許されない領域」だ。そのため、ミスに対するプレッシャーが強く、内部に不安が生まれやすい。
だが、内部が不安な状態では、現場は守りに入り、新しい取り組みや改善提案は出てこない。結果として、セキュリティも弱体化する恐れがある。
逆に、失敗しても守られる環境では、現場は積極的に改善に取り組む。皮肉なことに、「安心できる組織」の方が、結果として強固なシステムを作る。
結論:「人を守る組織」が成果を生む
組織の強さは、制度やツールでは決まらない。内部にどれだけ安心感があるかで決まる。人は安心できる環境でこそ、他者のために行動し、組織のために力を発揮する。リーダーの役割は、その環境を作ることにある。
成果を求めるなら、まず守るべきは人だ。この順序を誤らないことが、優れた組織への第一歩となる。
本稿は、2014年5月20日に公開された「Why good leaders make you feel safe」を記事化したものです。
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