語学学習サービス「Duolingo」では、未経験の社員2人がAIで開発したチェスコースが毎日700万人に利用されている。それでもCEOはAI利用を人事評価に入れない。「AIを使うためにAIを使う」を避ける哲学とは。
AI(人工知能)の普及によって、業務でのAI活用を進める機運が企業の間で高まっている。さらに、「業務にどのように、どの程度AIを活用しているか」を人事上の評価項目とする企業も出てきた。
一方、語学学習サービス「Duolingo」を運営するルイス・フォン・アン氏(Duolingo CEO)によると、同社ではAIを活用した業務変革が進んでいるものの、AI活用を人事評価の項目に組み込んでいないという。
AI活用を人事評価項目に入れずに、同社はどのようにAI活用を推進しているのか。業務における人間とAIのすみ分けについてはどのように考えているのか。
Duolingoでは、エンジニアだけでなくプロダクトマネジャー(PM)もAI活用によって仕事の進め方を変え始めている。
従来、PMは「このような機能を作りたい」と企画を挙げる際、仕様書や提案書を文章で提出していた。だがAI導入後は、AIコーディングツールを使って簡単なプロトタイプを自作し、それを経営陣に見せるケースが増えているという。
アン氏は、「文章だけではイメージしにくいが、実際に動く試作品があれば意思決定の質は上がる」と説明する。
これは、AIが単純作業を代替するだけではなく、「職種の境界」を変え始めていることを示している。従来ならエンジニアに依頼していた作業を、非エンジニアがAIを使って自ら試作するようになっているためだ。
Duolingoでは、人事や財務担当者を含む全社員が「バイブコーディング」(AIを使って直感的にコードを書く手法)を体験する社内イベントも実施した。Slackには「AIベストプラクティス」や「AI失敗事例」を共有するチャンネルがあり、社員同士で活用法を学び合っているという。
象徴的なのが、Duolingoの「チェスコース」だ。
このコースは、チェスもプログラミングもほとんどしたことがなかった2人の社員が立ち上げたものだ。企画を立ち上げた2人は、AIを使ってプロトタイプを開発し、カリキュラムの作成まで進めたという。最終的な製品の開発にはエンジニアも参加したが、初期段階の製品は少人数で作り上げた。完成までの時間は約6カ月だった。
チェスコースを企画した2人はまずチェスを学び、市場調査を実施した後、AIコーディングツール「Cursor」を使って試作を始めた。途中で「AIはチェスの問題を作るのが苦手である」ことに気付き、外部データを学習させて改善したという。チェスコースはリリース後、700万人のデイリーアクティブユーザーを抱えるまでに成長している。
この事例は、「AIが仕事を奪う」というより、「少人数でもAIを使えば新規事業を立ち上げることもできる」変化を示している。
一方で、アン氏はAIの限界も指摘する。特にソフトウェア開発では、「AIがコードを書いてくれる」と言われる一方で、実際には問題もあるという。うまく動けば開発の速度は上がるが、失敗した場合、「AIがなぜそのコードを書いたのか分からず、修正が難しい」と説明する。
ストーリーを作る場合も同様だ。100本作れば、そのうちの大半は品質が低く、人間によるチェックが必要になるという。つまり、AIによって仕事は変わるが、「人間が不要になる」とまでは考えていない。
アン氏は、仕事の未来像についても語っている。翻訳者については減少する可能性が高いが、「完全には消えない」と予測する。一方、教師やプロジェクトマネジャーは残るとみている。理由は、人を動機付けたり、人間関係を調整したりする役割はAIが苦手とする分野だからだ。
Duolingoでは、「AIを使うこと自体」を評価指標にすることを慎重に考えているとアン氏は明かす。同社では一時期、AI利用を人事評価の項目に組み込もうとしたことがある。しかし、「AIを使うためにAIを使う」状態になりかねないとして撤回した。重要なのは成果であり、AI利用そのものではないとアン氏は語る。
その上で同氏は、「人間はAIに置き換えられるか」を恐れるより、「AIをどのように使って自分の仕事を変えるか」を考えるべきだと強調する。AI時代に問われているのは、単純な作業能力ではなく、「AIを使って何を実現するか」という視点なのかもしれない。
本稿は、2026年4月21日に公開された「Duolingo CEO:What I Tell Every Employee About Surviving AI」を記事化したものです。
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