AIプロジェクトの「PoCの沼」から抜け出せない企業が見落としているものAIツールは自社開発すべきか、購入すべきか【後編】

試験運用の段階で停滞し、実用化に至らない「PoCの沼」に陥る傾向があるのが、企業のAIツール活用だ。ツール選定や構築以上に困難な問題はどこにあるのか。ベンダーに依存せず、AIを真の資産として定着させるには。

2026年04月30日 05時00分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

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 AI(人工知能)ツール活用の成否は、もはや「どの製品を選ぶか」という技術選定の次元の話ではない。企業は独自の優位性を築くための「自社開発」か、導入速度を優先した「外部調達」か、あるいは両者の長所を組み合わせた「ハイブリッド型」か、という戦略的な選択を迫られている。

 どの道を選んだとしても、真の試練は「導入のその先」にある。どれほど優れたAIツールを構築、あるいは購入したとしても、適切な運用体制やガバナンスが欠如していれば、その投資はPoC(概念実証)から抜け出すことはできない。幾多のプロジェクトが、本番環境での拡張性や維持、運用の壁に突き当たり、期待された価値を生めずに停滞しているのが現状だ。

 以下では、AIツールの導入を一時的な流行に終わらせず、長期的な資産として定着させるための具体的な指針を提示する。

AI活用を成功させるための要件

 社内でAIツール活用能力を高めるには、企業が軽視しがちな以下の3つの手順が不可欠だ。

  1. 導入時だけではなく、維持と運用を継続できる人材の確保
  2. 統制が取れた開発ライフサイクルの確立
  3. 導入前での管理体制の構築

 AIツールの調達は一度きりのイベントではない。責任の所在や利用を中止する際の基準、定期的な評価をあらかじめ決めた「継続的な運用ルール」として扱うべきだ。コンサルティング企業Ernst&Young(EY)のテクノロジーコンサルティング部門のマネージングディレクターであるオスカー・マリン氏は、「優れた設計図と人間の監視、厳格なテスト体制を伴う開発サイクルを持てば、素早くAIツールを構築できる」と語る。

 一方で、自社開発か購入かにかかわらず、導入における2つの重要な工程が後回しにされがちだ。

 1つ目はガバナンスの設計だ。倫理的な枠組みやセキュリティの設計図は、AIツールの導入後ではなく導入前に作成しなければならない。「後からセキュリティ対策を追加しようとすると、定着の妨げになり、脆弱(ぜいじゃく)性を生み出す恐れがある」とローワン氏は指摘する。

 2つ目はベンダーの選定だ。ベンダーの評価点は機能だけではなく、安定性も対象にすべきだ。企業のリーダーは、特定のベンダーへの依存が原因でシステム全体が停止するリスクを懸念している。そのため、複数のAIサービスを併用したり、サービス停止に備えた代替計画を策定したりする傾向にある。

 自動化ツールベンダーZapierのシニアAI自動化エンジニアであるエミリー・マビー氏は、ベンダー管理において「関係の責任者は誰か」「品質が低下した際の出口戦略はあるか」という問いが重要だと説く。契約やSLA(サービスレベル契約)には、データの移行条件や解約条項を明記すべきだという。「ベンダーが倒産したり、買収されたりした際に、自社の業務をどう守るかを常に考えねばならない」とマビー氏は語る。

失敗から学ぶ現実の教訓

 EYと、システム開発企業である8090との提携例は、規律あるAIツールの開発がどのような成果を生むかを示している。両社は共同で、AI技術を組み込むことを前提とした製品開発サイクル「EY.ai PDLC」を構築した。これによって、従来は数カ月を要した作業を数日に短縮することに成功した。

 一方で、数々の失敗例も存在する。Deloitte Consultingのプリンシパルで米国のAI責任者を務めるジム・ローワン氏によれば、失敗の典型は、いつまでも検証段階から抜け出せない「PoCの沼」に陥ることだ。

 自社開発が失敗する際には、共通のパターンが見られる。EYのアメリカ部門でAIリーダーを務めるバムシ・ドゥブリ氏によると、特定の用途で徹底的に成果を出すのではなく、複数の業務に中途半端に手を広げてしまうのが原因だ。「企業は、運用開始後の開発や管理に必要な手間を甘く見ている」とドゥブリ氏は分析する。本番環境への導入は、試験運用では見えなかった拡張性やシステム連携の問題を露呈させる。

正しい選択をするために

 自社にとって最適な決断は、企業の成熟度、競争の状況、データの準備状況、リスクの許容度によって決まる。基礎が固まる前に長期的な契約を結ぶことは、不必要なリスクを招くだけだ。

 「AIツールに自社独自の文脈を組み込まなければ、想定以上の出費を強いることになる」。システムインテグレーターCapgeminiのアメリカ担当テクノロジー部門でチーフグロースオフィサーを務めるダルシャン・ナイク氏はそう述べる。

 AI技術は目まぐるしく進化しており、今日下した決断の根拠になった状況が、1年後には一変している可能性がある。そのため、常に手法を再評価し、変化に適応できる体制を整えておくことが肝要だ。

 自社開発か購入かという選択は、単なる技術的な決断ではない。ローワン氏が指摘するように、それは人材、手順、安全性を一つの戦略として結び付ける「組織変革のための投資」だ。

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