ネットワークが再び主役に
シスコが挑む「AgenticOps」の衝撃 AIエージェントがITインフラまで自律制御する未来
シスコはAIエージェントによるインフラ自律運用「AgenticOps」を加速させる統合基盤を発表した。各ネットワーク機器をAIエージェントのポリシー適用ポイントにしようとする同社の狙いを解き明かす。
Cisco Systems(以下、シスコ)は、インフラを管理するAIエージェント、すなわち「AgenticOps」を制御する集中型ポリシーの適用ポイントとして、自社の各ネットワークデバイスを機能させる考えだ。
この目標に向け、同社は米ラスベガスで6月4日まで開催中の「Cisco Live」で、新たなソフトウェアフレームワーク「Cisco Cloud Control」の限定提供を開始した。同製品は、AIアシスタント、テレメトリーダッシュボード、サードパーティー製エージェント管理、MCP(Model Context Protocol)ツール、AgenticOps用APIを統合したものだ。インタフェースには、2025年にプレビュー公開したコラボレーションワークスペース「AI Canvas」を採用する。また、2026年後半には、エージェント作成用の「Agent Builder」や、OpenAIのCodexを内蔵したローコード開発ツール「App Builder」を含む「Cloud Control Studio」が追加される予定だ。
Cisco Cloud Controlは、従来の「Cisco Security Cloud Control」を置き換える製品となる。セキュリティに加え、オブザーバビリティ(可観測性)とネットワーク管理のための共通オーケストレーション層を提供する。これらは全て、2025年に発表され今後2カ月以内に一般提供が予定されているSplunkベースの「Cisco Data Fabric」上のクロスドメインログデータと連携する。
Moor Insights & Strategyのアナリスト、マイク・レオーネ氏は、シスコが過去18カ月にわたり一貫してロードマップを履行しており、「より結束力のあるストーリー」を提示していると評価する。「長い間、シスコは製品ポートフォリオ全体で管理インタフェースが乱立していると批判されてきた。Cisco Cloud Controlは、ここ数年で最も一貫性のあるプラットフォームといえるだろう」(レオーネ氏)
他社との差別化という課題
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インフラ専門かどうかにかかわらず、ほぼ全てのベンダーがこの1年で独自のAIエージェントオーケストレーションプラットフォームを立ち上げた。サードパーティー製エージェントとの互換性も各社がうたっている。Cisco Cloud Controlは、Microsoft、Google、AWS、Dell、IBM/Red Hatといった大手ITインフラベンダーと競合することになる。これらのベンダーは、シスコと重複する広範な既存顧客基盤を抱えている。
「全てのベンダーがこの課題に直面している」とレオーネ氏は言う。「新規顧客よりも、既存顧客の維持が圧倒的に重要になるだろう」(同氏)
シスコは、クロスドメインAIエージェントのサポートに向け50社以上のパートナーと協力体制を築いた。Informa TechTargetの調査部門Omdiaのアナリスト、ジム・フレイ氏によれば、こうした取り組みは同社にとって新しいが、市場全体で見れば珍しいことではないという。「シスコは、他社が既に構築していた活発なパートナーエコシステムにようやく参入した。シスコ製品を専門に扱うユーザーも、他社ベンダーが既に実現していたものと同様の機能やエコシステムにアクセスできるようになるのは喜ばしいことだ」(フレイ氏)
エージェント間のデータ通信コストに注意
エージェント間でデータを共有する際に発生するデータ転送(エグレス)コストは、業界で注目されている価格設定の課題の1つだ。成果報酬型を採用するベンダーもあれば、AIトークンのプールを含むライセンス階層別に課金するベンダーもある。Cisco Cloud Controlは後者に該当し、「Essentials」「Advantage」「Premium」の3つの階層で提供される。また、トークンパックを個別に購入することも可能だ。
レオーネ氏は、ベンダーに価格設定の詳細を問い詰めるべきだと指摘している。「シスコ以外のエージェントがシスコのデータにアクセスした際、コストはどこでカウントされるのか。それは自社の負担か、あるいはエージェントを提供している他社プラットフォームの負担か。オープンなエコシステムの約束がここで試されることになるだろう」(レオーネ氏)
また、同氏は「階層の肥大化」も懸念事項に挙げる。特定のユーザーが過度にAIへ質問や作業を依頼した場合、Essentials階層の制限内でCloud Controlの機能を活用し続けられるのかという懸念だ。
ネットワークは差別化要因になるか
シスコの差別化要因の1つは、ネットワーク管理やサイバーセキュリティに特化した独自開発の大規模言語モデル(LLM)だ。TheCube Researchのアナリスト、ボブ・ラリベルテ氏は、シスコにはネットワークの可視化と制御で長年の実績があり、それがマルチエージェント間の通信やガバナンスで重要になると分析する。「ネットワーキングは再び注目を浴びている。環境が高度に分散化する中で、ネットワークはAIを実用化するための鍵となる。いまやNVIDIAでさえ、巨大なネットワーク企業としての側面を持っている」(ラリベルテ氏)
ただし、シスコはArista NetworksやHPEのようにAgenticOps機能を提供するネットワークベンダーとも競合する。フレイ氏によれば、ネットワーク専用ソフトウェアベンダーは、マルチベンダー環境でハードウェアベンダーよりも優位性を主張できる場合があるという。
一方で、Splunkを傘下に収めたことは、マルチベンダー管理の信頼性をシスコに与えている。ただしフレイ氏は、シスコがSplunkをどれだけ独立して運営し続けられるかが重要だと指摘している。買収直後の「ハネムーン期間」が過ぎれば、投資の優先順位が明確になり、サードパーティー供給者としての信頼性が損なわれる可能性があるからだ。
デジタルツインを含む「Network Actions」
2026年6月にβ版が公開される新世代のシスコ製スイッチおよびルーターは、ネットワーク特化型のAgenticOps機能「Network Actions」をサポートする。このアップデートには、テレメトリーダッシュボードや根本原因分析(RCA)といった一般的な機能に加え、本番環境に影響を与えずにインフラ変更を実験できるα版のデジタルツイン機能が含まれている。
フレイ氏が確認した最近の市場調査によれば、AgenticOps製品への信頼は高まっているものの、現状ではネットワークよりもコンピューティングシステムでの利用が中心だという。「サーバやコンテナは『使い捨て』を前提に設計されているが、ネットワークはまだ大切に守られるべき存在だ。スイッチに問題が起きれば、その影響はより広範囲に及ぶ可能性がある」(フレイ氏)
レオーネ氏は、Network ActionsやCisco Cloud Controlに組み込まれた信頼スコア、リスクスコア、デジタルツインといった機能が、自動化に対する初期の障壁を一部解消すると評価する。「シスコの設計は非常に堅実だ。エージェントごとに算出される信頼スコアやデジタルツインによって、『人間による介在(Human in the loop)』が迅速かつ容易になるだろう」(レオーネ氏)
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