機能や価格だけでは選ばない時代に
中堅・中小企業のERP選びに異変 価格より重視され始めた「AIへの不安」
ノークリサーチの調査によると、中堅・中小企業におけるERP刷新の理由は「古さ」や「保守期限」だけではなくなりつつあることが分かった。同業他社はどのような基準でERPを選定しているのか。
ERP(企業向け統合業務システム)の刷新というと、「システムが古くなった」「保守期限が近づいた」「機能が不足している」といった理由を思い浮かべる人は多いだろう。
しかし、調査会社ノークリサーチが2026年6月1日に公開した調査を読み解くと、企業規模や業種によってリプレースの動機は多様化しており、AI時代を見据えた「新たな評価軸」が生まれつつある実態が見えてくる。同調査が捉えた「中堅・中小企業1300社」の最新データから、その現在地をひもといていく。
ERP市場は「新規導入」より「リプレース」の時代へ
今回の調査では、中堅・中小企業1300社を対象に、ERPの導入状況やリプレース、新規導入の要因を分析している。
その結果、年商50億~500億円未満の中堅企業では、新規導入よりも既存ERPのリプレース需要が大きいことが分かった。一方、年商5億円未満の小規模企業では、新規導入がリプレースの約3倍となっている。
つまり、多くの中堅企業にとって現在の課題は「ERPを導入するか」ではなく、「どのERPへ移行するか」となっている。
そのため、情シス担当者にとって重要なのは、新しいERPが従来製品より多機能かどうかではなく、今後10年近く利用する基盤として適切かどうかを見極めることだ。
調査で見えた「AIへの不安」という新しいリプレース理由
今回の調査で最も興味深いのは、運輸業・サービス業における分析結果である。
ノークリサーチは調査の中で、「どのような課題がERPリプレースにつながるのか」を分析した。その結果、ERPリプレースと強く関連していたのは、「AIが提示する結果が本当に正しいか判断できない」という課題だった。
さらに、その背景には、以下の課題が存在していることも分かった。
- AIが自動で何を処理しているのか分からない
- AIによる自動処理が新たなセキュリティリスクになる
- SaaSを組み合わせた構成では業務要件を満たせない
従来、ERPを更新する際の理由は、「機能不足」「老朽化」「保守終了」が中心だった。しかしAI時代には、「AIを信用できる基盤になっているか」が新たな判断材料になり始めている。
「SaaSを組み合わせればよい」という発想には限界がある
近年は、会計、人事、営業支援などを複数のSaaSで構成し、APIで連携するシステムが増えている。
しかし調査では、「SaaSの組み合わせでは要件を満たせない」という課題が、AIへの不安と関連していることが示された。
システムが複雑になるほど、データの所在や更新経路が分散し、AIがどのデータを基に判断したのかを把握しにくくなる。その結果、「AIの判断が正しいのか分からない」という不信感につながる。
ERPは単なる業務アプリケーションではなく、企業全体のデータ基盤である。AI活用を前提とするならば、データを一貫した形で管理できる基盤であることが重要になる。
「安いSaaSで十分」という考え方も見直す必要がある
調査では、小規模企業向け提案に関しても興味深い結果が示された。
ERP市場では、「小規模企業には安価なSaaS型ERPを提案すればよい」という考え方がある。しかし調査では、企業が重視しているのは価格だけではなかった。
自社業務に合わせられる機能、利用者ごとに最適化されたヘルプや操作画面、補助金や助成金の対象となること、さらにオンプレミスとクラウドの双方を選択できる柔軟性なども重視されている。
つまり、企業規模を問わず、「安いから導入する」のではなく、「自社の業務や将来の運用に適しているか」がERP選定のポイントになっている。
情シスがAI時代のERP選定で確認すべき5つのポイント
今回の調査結果を踏まえると、情シス担当者はERP選定時に次のような観点を確認する必要がある。
- AIがどのような根拠で判断したかを説明できるか
- AIの処理を人間が承認・制御・監査できるか
- データがERP内で一元管理され、分散し過ぎていないか
- 複数SaaSの継ぎはぎではなく、統合されたデータ基盤を構築できるか
- 将来的なAIエージェント活用を見据えた設計になっているか
以上の結果が示すのは、価格や機能数だけを比較する時代は終わりつつあるということだ。AIが業務プロセスに深く入り込むほど、「AIを安心して任せられる基盤」を構築できるかどうかが、ERP選定の競争力を左右する可能性がある。
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