AIエージェントの能力を拡張する仕組みとして注目されるMCPとSkillsについて、Red Hatのシニアデベロッパーアドボケイトが役割の違いや用途を解説した。
AIエージェントに外部のデータやツールを利用させる方法として、「Model Context Protocol」(MCP)と「Agent Skills」(以下、Skills)が注目されている。どちらも大規模言語モデル(LLM)の能力を拡張する仕組みだが、担う役割は異なる。
Red Hatのシニアデベロッパーアドボケイト、セドリック・クレーバーン氏は2026年7月7日、「MCP vs Skills: Which Is Right for Your AI Agent and LLMs?」で、MCPとSkillsの違いや、企業がAIエージェントを構築する際、MCPとSkillsをどう使い分ければよいのか、解説した。
LLMは単体でも、文章の作成や要約、翻訳、質問への回答などを実行できる。ただし、学習後に発生した最新情報を取得したり、社内データベースを検索したり、業務システムを操作したりすることはできない。
こうした制約を補うのが、外部ツールとの連携である。例えば、AIエージェントが顧客情報を確認するにはCRM(顧客関係管理)システムに接続する必要がある。会議を設定するには、カレンダーやメールのシステムを操作しなければならない。
しかし、外部ツールごとにAPI(Application Programming Interface)の仕様や認証方式、入出力の形式が異なる。開発者が個別に接続処理を作り込む場合、利用するツールが増えるほど開発や保守の負担も大きくなる。
MCPは、AIアプリケーションと外部のツール、データベース、サービスとの間に標準的な接続方式を設ける。IBMはMCPを、ハードウェアをさまざまな周辺機器につなぐ「USB Type-C」のような存在だと説明している。
MCPサーバは、AIエージェントに主に次の3種類の機能を提供する。
例えば、GitHubと接続するMCPサーバを利用すれば、AIエージェントはリポジトリの情報を取得したり、課題を登録したりできる。Slackと接続すれば、メッセージの検索や投稿が可能になる。
つまりMCPは、AIエージェントに外部の情報へアクセスし、現実のシステムに対して行動する手段を与える仕組みだ。
一方、SkillsはAIエージェントが特定の作業を実行する際に必要な、手順や判断基準、注意事項などをまとめた再利用可能な指示だ。
AIエージェントは外部ツールを利用できるだけでは、必ずしも企業が期待する方法で仕事を進められるとは限らない。
例えば、経費申請を確認するAIエージェントが会計システムへ接続できたとしても、それだけでは「どの項目を確認するのか」「どの金額を超えたら上司の承認が必要なのか」「不備があった場合に誰へ連絡するのか」といった業務固有のルールは分からない。
Skillsには、こうした作業手順や組織固有の知識を記述する。IBMはSkillsを、AIエージェントに自然言語の指示を通じて「どのように考え、作業するか」を教える仕組みと位置付けている。
Skillsに含められる情報としては、次のようなものが考えられる。
Skillsは、AIエージェントに新たなシステムへの接続手段を与えるものではない。既に利用可能な情報やツールを、どのような手順で使うのかを定める役割を担う。
MCPとSkillsは、どちらか一方を選ぶものとは限らない。企業の業務を実行するAIエージェントでは、両者を組み合わせることが有効だ。
例えば、顧客から届いた問い合わせに対応するAIエージェントを考えてみよう。
MCPを利用すれば、AIエージェントはCRMから顧客の契約内容を取得し、製品データベースから仕様を検索し、サポートシステムに対応履歴を登録できる。
一方、Skillsには、問い合わせ内容を分類する方法や、優先度を決める条件、回答文を作成する手順、担当者へ引き継ぐ基準などを記述する。
この場合、MCPはAIエージェントに「顧客情報を取得する」「対応履歴を登録する」といった行動手段を与える。Skillsは「どの情報を確認し、どの順番で対応するか」という業務手順を教える。
IBMの説明に沿えば、MCPはAIエージェントに行動の機会を与え、Skillsはその行動を仕事として成立させるための考え方を与えるものだ。
AIエージェントに外部システムへの接続やデータ取得、操作をさせたい場合は、MCPが適している。
例えば、次のような要件が該当する。
一方、既存のツールを使って特定の業務を安定して処理させたい場合は、Skillsが適している。
ただし、MCPはAIエージェントがツールを「いつ、何のために使うか」まで判断する仕組みではない。MCPはあくまで標準化された接続層であり、ツールを呼び出す目的やタイミングはLLMやエージェントのオーケストレーション機能が判断する。
企業がMCPやSkillsを利用する場合、利便性だけでなく管理面にも注意が必要だ。
MCPを通じてAIエージェントに業務システムを操作させる場合、付与する権限が広過ぎると、誤操作や情報漏えいにつながる恐れがある。データの参照だけを許可するのか、登録や更新、削除まで認めるのかを用途ごとに分ける必要がある。
また、信頼できないMCPサーバを導入すれば、不正な処理や外部へのデータ送信が発生する可能性もある。提供元、実装内容、通信先、認証情報の管理方法を確認しなければならない。
Skillsについても、記述された指示が古くなったり、誤った業務ルールが含まれたりすれば、AIエージェントはその内容に従って処理を続けてしまう。作成者や承認者、更新履歴、適用対象を管理し、定期的に内容を見直すことが重要だ。
MCPでは「AIエージェントに何を操作させるか」を管理し、Skillsでは「AIエージェントにどのように仕事をさせるか」を管理する必要がある。
企業がAIエージェントを業務に組み込む際は、接続できるツールの数だけを増やすのでは不十分だ。MCPによって安全な行動手段を整備すると同時に、Skillsによって業務手順や判断基準を明確にすることが、安定した運用につながる。
本稿は、IBM Technologyが2026年7月7日に公開した動画「MCP vs Skills:Which Is Right for Your AI Agent and LLMs?」を基に作成しました。
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