取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮費用を抑え、運用負荷も減らした

取手市は、従来使ってきたVDIの更改時期に、前回の4倍超の予算が必要という現実に直面した。そこで同市は別方式への移行を決断した。費用を抑え、運用負荷も減らした製品選定と移行の判断プロセスを紹介する。

2026年08月24日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 システム更改では、既存環境をベースに次期構成を検討するケースが少なくない。しかし、ライセンス費やハードウェア価格が上昇する中、従来構成をそのまま踏襲することが最適とは限らない。

 茨城県取手市は、情報系サーバの更改に当たり、従来利用していたVDI(仮想デスクトップ)方式を前提に見積もりを取ったところ、前回更改時の4倍以上の予算が必要になることが分かった。そこで同市は、VDIの単純更新を見送り、アーキテクチャそのものを見直した。

 最終的に選んだのは、アセンテックのリモートアクセス基盤「リモートPCアレイ100」だ。なぜ取手市は、使い慣れたVDIをそのまま更新しなかったのか。予算以外のポイントで、更改時に既存構成を再検討した判断プロセスを追う。

「前回と同じ構成」で見積もると費用は4倍以上に

 取手市は、総務省の「自治体情報システム強靭性向上モデル」に基づくネットワーク三層分離に対応するため、従来はVDI方式を採用していた。職員は1台の端末から複数のネットワークにアクセスできる環境を利用していた。

 取手市 総務部 情報管理課 次長、岩崎弘宜氏(崎はつくりが「立」に「可」の“たつさき”)によると、情報系サーバ全体の更改時期を迎えた際も、当初は従来と同様の仮想化方式を前提に検討を進めたという。ところが、設計と見積もりを進めると、必要な予算は前回更改時の4倍以上に膨らむことが判明した。

 岩崎氏はその要因として、近年の物価高騰と、仮想化ソフトウェアのライセンス費用上昇を挙げる。

 従来方式にはコスト以外の問題もあった。Windows OSを快適に動作させられるかどうかは、実際の環境で検証するまで分かりにくく、サーバ設計そのものの難易度も高かったという。

 アセンテックによると、仮想環境システムでは、運用開始後も定期的なメンテナンスやリフレッシュ作業が必要だった。物理サーバの一部に負荷が集中し、動作が重くなったり、一時的にログインできなくなったりするトラブルも発生していた。

 取手市が直面したのは、単なる「製品価格の上昇」ではなかった。従来と同じアーキテクチャを維持しようとすると、ライセンス費だけでなく、設計や運用の複雑さまで引き継ぐことになる。

 そこで同市は、「VDIをどう安く更新するか」ではなく、「そもそもVDIをそのまま更新する必要があるのか」というところから検討し直した。

製品比較の前に、他自治体で「本当に運用できるか」を確認

 代替策として浮上したのが「リモートPCアレイ」だった。

 リモートPCアレイは、サーバルームなどに小型の物理PCを集約し、利用者がネットワーク経由でそれぞれのPCを利用する仕組みだ。一般的なVDIのように、仮想化基盤上で多数の仮想デスクトップを動かす構成とは異なる。

 取手市は、県内の別自治体が既にリモートPCアレイを導入していることを知り、実際の運用状況を確認するために現地を視察した。取手市 総務部 情報管理課 デジタル化推進室長の松崎昌也氏は視察の際、「安定して使えているか」を特に重視したという。

 行政システムでは、新しい仕組みを採用した結果、業務で使えないという事態は避けなければならない。カタログ上の機能やスペックだけではなく、既に別の自治体で日常的に利用され、管理運用に耐えていることを現場で確認した。その後、導入の約2年前には実機を借り、本格的な検証にも着手した。

 つまり、取手市は「既存VDIの見積もりが高かったから、安価な製品へ乗り換えた」のではない。候補となる別方式について、他組織での実績確認と自組織での実機検証を重ねた上で、アーキテクチャ変更のリスクを見極めた。

拡張性より「運用できるシンプルさ」を優先

 複数のシステムを比較した結果、取手市はリモートPCアレイを選んだ。その大きな理由は、「構成のシンプルさ」と「管理運用のしやすさ」だったという。

 従来の仮想化環境は拡張性が高い一方、構成が複雑で、メンテナンスには専門的な知識が必要だった。一方リモートPCアレイは、小型PCを多数収容する比較的分かりやすい構造になっている。

 松崎氏はその点を、管理ベンダーだけでなく市職員にとっても管理しやすくなると判断したという。

 この判断には、自治体特有の人事異動も影響している。高度な仮想化基盤を一部の担当者だけが理解している状態では、その職員が異動した途端に運用が属人化する恐れがある。

 アセンテックによると、リモートPCアレイの導入時に詳しく運用に携わっていた職員は、その後異動した。それでも、構成をシンプルにしていたことで、後任への引き継ぎと継続運用ができたという。

「初期費用」だけでなく運用負荷まで更改判断に組み込む

 アーキテクチャ変更で得られた効果は、ライセンス費の削減だけではなかった。

 以前のVDI環境では、システムの安定運用を維持するため、月に数回、閉庁後にメンテナンス作業を実施していた。作業日が議会開催前や月末といった繁忙期と重なる場合もあり、残業中の職員から改善を求める声が上がることもあったという。

 リモートPCアレイへの移行後、この定期メンテナンスは「限りなくゼロに近くなった」と岩崎氏は述べる。

 障害対応も変わった。

 物理構造が分かりやすいため、不具合が発生した場合は問題のあるカートリッジを特定し、その部分を交換できる。他の利用者への影響を抑えながら対応しやすくなり、原因の切り分けやシステム全体の再構築に要する作業も減った。

 従来のVDIでは、個別ソフトウェアの追加が共通マスター全体に影響するため、部署からの導入要望を断るケースもあった。新環境では特定のカートリッジだけに変更を加えられるため、部署ごとのプリンタ環境やRPAなども導入しやすくなったという。

350台を約半年で構築、段階展開で切り替えリスクを抑制

 既存アーキテクチャを変更する場合、情シスにとって懸念になるのが移行リスクだ。

 取手市は製品選定には約2年間をかけた一方、採用決定後のシステム構築は約半年で進めた。

 本稼働の約1カ月前に情報管理課で動作を確認し、その後15人によるテスト運用を実施。プリンタやグループウェアなど、実際の業務で発生する問題を洗い出した。

 導入したLGWAN接続系のリモートPCアレイは350台。このうち庁内向け300台については、5日間に分け、1日50台ずつ段階的に展開した。

 セットアップでは、共通のベース環境となる「マスターPC」を作成した。ソフトウェアの組み込みや動作検証には約1〜2カ月を費やし、テスト利用で見つかった課題をマスターに反映してから本番環境へ展開した。

 結果として、利用者には簡単なマニュアルを配布する程度で、大きな混乱なく全庁移行を完了できたという。

「4倍超」の更改案を「約1.7倍」に

 アセンテックによると、情報系サーバ全体の更改費用は最終的に「1.7倍程度」に抑えられたという。

 物価水準などが異なるため単純比較はできないものの、従来型VDIをそのまま更新した場合に試算していた「4倍以上」からは大幅に圧縮したことになる。

 背景には、仮想化ソフトウェアなどの高額なライセンスを不要にしたことがある。

 ただし、取手市の判断で注目すべきなのは、「ライセンス費が高いから別製品へ乗り換えた」という一点ではない。

 既存構成の更新費用が膨らんだことを契機に、システム設計そのものを再検討し、必要な機能、運用負荷、属人化、障害対応、移行リスクまで含めて次期環境を選んだ。

本稿は、アセンテックが2026年8月18日に公開したプレスリリースと、導入事例−取手市役所様を基に作成しました。

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