仮想化技術とクラウドコンピューティングとは切り離して考えられない密な関係にあるが、それを分かりやすい形として見せてくれるのが、ITコアが2009年11月からサービスを開始した、クラウドコンピューティングのプラットフォームサービス「GrowServer2010」(以下、GS10)だ。
このサービスの特徴は、サーバ、ストレージ、インタフェース(I/O)の全層で仮想化技術を導入することで、月額1万円の低額な利用プランを実現。クラウドサービスには珍しくサポートメニューを充実させて、企業が必要とするコンピューティングリソースを短納期に利用できる点にある。米Amazonの仮想マシンの時間貸しホスティングサービス「Amazon EC2」(以下、EC2)をかなり意識したものとなっている。
EC2との価格比較の前に、GS10を支える仮想化インフラの内容を見てみる。

ベースとなる物理サーバには、6コアのAMD Opteronプロセッサを使用した、ヒューレット・パッカードの第6世代ラックマウントサーバ「HP ProLiant DL385G6」に、VMwareのクラウドOS「VMware vSphere 4」を仮想サーバとして実装。リソースプール全体の使用率を継続的に監視するDRS(Distributed Resource Scheduler)の分散機能により、使用可能なリソースを仮想マシン間でインテリジェントに配置する。
また、I/OにはシーゴシステムズのI/O仮想化コントローラー「Xsigo VP780」を選択。広帯域I/Oを利用し、オンラインで1サーバ当たり32ポートの仮想インタフェースを生成する。リモートから瞬時にI/Oの増設・変更・移行を行うことが可能なため、短納期でのサービス提供が実現できるという。
さらにストレージには、データコア・ソフトウェアのストレージ仮想化ソフトウェアプラットフォーム「SANmelody」「SANsymphony」を活用した。筐体間の同期ミラーリング機能によりストレージ側の無停止を提供し、筐体間スナップショット機能と合わせてディスクの3重化を実現する。
そして、これらのプラットフォーム群を収めるのが、都内最大級といわれるビットアイルの第4データセンターだ。ラック当たりの荷重制限が1トンと国内データセンターの中でもタフな構造で、余裕のあるファシリティが高集積なクラウドシステムにふさわしいとして選ばれた。東京・山手線の中心に位置する飯田橋駅に近接し、問題が発生してもすぐに駆け付けられる地の利も、クラウドサービスを提供する上では優位に働くかもしれない。
GS10は、VMware vSphere 4によるサーバの仮想化と、Xsigo VP780でのコネクションの仮想化、SANsymphonyで実現するストレージの仮想化を主要コンポーネントとする(資料提供:ITコア)それでは、EC2に対しITコアのGS10はどの程度競争力があるのか。例えば、EC2で最も安価の32ビット版「Small」コースは1時間当たり0.1ドルの設定。それを24時間/30日間利用し、1ドル=90円で換算すると1カ月でおよそ6480円となる。GS10の月額1万円に比べると若干EC2の方が割安だが、GS10のS1モデルでは実効30Gバイト(ミラー+バックアップ含め90Gバイト)のディスク利用権が含まれる。対してEC2では、データ保存ストレージやトラフィック、ディスクI/O、固定IPアドレス、スナップショットなどは別途従量課金が発生する。
GS10ではファイアウォール、ロードバランサのほか、回線トラフィックや24時間監視運用、復旧オペレーションなどが無料で提供される。追加ディスクは1万円となっているが、従来のサービスでは実効10Gバイトだったものを100Gバイトに拡大している。
「GS10は無料サービスを充実させている。これらを勘案すると、GS10の方が割安になる」と話すのは、ITコアの代表取締役社長を務める山田敏博氏。「今回は思い切った価格設定にした」と語る。
| スペック | GS10 | EC2 |
|---|---|---|
| メニュー | S1モデル | Smallコース |
| CPU | 1コア | 1コア |
| メモリ | 1Gバイト | 1.7Gバイト |
| ストレージ | 90Gバイト(実効30Gバイト) | 160Gバイト |
| 月額固定料金 | 1万円(税別) | インスタンス0.1ドル/時×24時間×30日×90円(レート)=6480円 |
| オプション | なし | トラフィック、ディスク I/O、固定IPアドレス、一時利用ストレージ、スナップショット |
| 無料サービス | ファイアウォール、ロードバランサ、トラフィック、監視運用、OS管理など | ファイアウォール、ロードバランサ |
| SLA | 99.99% | 99.95% |
同社が仮想化サービスを最初に行ったのは2004年までさかのぼる。VMwareを用い日本初の仮想化ホスティングサービスとして開始したGrowServer (GS)のバージョン1は、レンタルサーバ形式で1台当たり10万円。それが5年ほど続き、2008年にメモリ価格の低落による大容量化とCPUのマルチコア化をきっかけとして、5世代目となるGS9は半額の5万円に。そして今回のGS10では、仮想化によるクラウド化で最小構成1万円という価格が実現したという(初期費は無料、契約単位は1カ月、支払いは前払いが条件)。
「GS9までは、メモリの大容量化とマルチコア化を行ってもコネクションとなるI/Oの処理能力が不足し、それがボトルネックになっていた」と述べる山田氏。それをiSCSIやファイバーチャネル(FC)など高コストの技術でしのいでいたが、今回InfiniBand(インフィニバンド)を活用することでボトルネックを解消し、高いコストパフォーマンスが得られたと説明する。
InfiniBandとは、外付け機器との入出力インタフェース用の技術で、ディスク装置やサーバ/クラスタなどの高速相互接続に用いる。転送速度は1チャンネル当たり2.5Gbpsで、1本のケーブルで最大12チャンネル(QDRで96Gbps)を収容できる。
また、メンテナンス線も含めたインタフェースケーブルの増大が運用管理を困難にし、そのコストがサービスを圧迫していたという。今回はシーゴシステムズのVP780によってオンラインで1サーバ当たり32ポートの仮想インタフェースを供給。InfiniBandでケーブルを削減し、リモートによるI/Oの増設・変更・移行に関する集中管理と、仮想マシンやアプリケーションの帯域制御、サービスに応じた優先制御などが可能になったという。
エンタープライズ分野のニーズがこのような外部クラウドを利用する上で最も懸念するのは、コストの妥当性はもちろんだが、それよりも大事な基幹データをブラックボックス化した他社のクラウドインフラに持って行かれてしまうことと、現状提供されているサービス品質保証(SLA)への不満だろう。システムダウンなど一瞬のサービス停止がビジネスに与える影響は大きい。
日本における仮想化サービスのパイオニアと自負するITコアは、他社にまねできないノウハウの蓄積や、新たな技術のインテグレーションで差別化できるという。山田氏は、「1台のサーバに仮想サーバを幾つ詰め込めるか、性能が飽和状態になったときに障害をどう回避するか、過去5年間に直面した大小のトラブルを経て運用ノウハウが蓄積し、大体の限界は予想が付くようになった」と自信を表す。
GS10では、VMwareのHA (高可用性) 機能を標準装備してESXサーバ障害時も迅速に自動復旧させるという。
一方、仮想サーバが共有するディスクストレージは仮想化の最大の弱点ともいわれ、一部が異常を来すとシステム全体の障害に発展するSPOF(Single Point of Failure)が問題視されている。これについては、共有ディスクによるクラスタファイルシステムを使用するVMwareのVMotionによって、稼働中の仮想マシン全体をサーバ間で瞬時に移行(ライブマイグレーション)するとともに、SANmelody/SANsymphonyによって筐体間ミラーリングによる完全2重化を実施。1日1回、スナップショットを取るようにしている。
これらの組み合わせによりGS10ではSLAを99.99%にまで高めており、EC2の99.95%に対するアドバンテージを強調する。
また、全層仮想化で削減した運用工数をサポートに振り向けているのも特長だ。ミドルウェアのインストール(Linuxパッケージ)やセキュリティパッチの実行、パフォーマンス悪化原因の調査、DNS登録、ドメイン管理、SSLの登録(証明書の発行は実費)など多岐にわたる。
これらをひっくるめて考えられるのは、様子見だった社外のクラウドサービスの利用が促進されていく可能性だ。大企業を中心に自社データセンターを仮想化技術でリストラする社内クラウド化の流れと相まって、社外・社内のクラウドを連携させるプライベートクラウドの実現例が増えていくだろう。同様に、ハードルが低くなったことで中堅・中小企業でも利用が増えていくと考えられる。
また、新型インフルエンザ対策で復権しつつあるシンクライアントだが、Windows 7からリモートデスクトップのプロトコルのバージョンがRDP 7.0となり、描画処理をクライアント側で行えるようになった。DirectXを用いたアプリケーションも動作するようになったことで、GS10のようなサービスを利用したシンクライアント化が本格的に進むかもしれない。
さらにITコアの試算によると、従来の専用サーバによるサービスでは、サーバ1台当たり200ワットだった電力消費量が、GS10では仮想サーバ1台当たりわずか10ワット。年間のCO2排出量も662キロから33キロへと95%削減できるという。
日本政府は、主要国の参加による意欲的な目標の合意を前提に、1990年に比べてCO2の25%削減を2020年までに達成することを国際会議の場で公言したばかり。いまだ産業界では具体的な施策が示されない中で、外部クラウドによる“持たざる経営”はその削減目標に何らか貢献できる可能性を示す。
山田氏によると、GS10はまず6コアのラックマウントサーバ群に仮想サーバ数百台を収容する1ラック規模から開始して採算ラインを確保し、1年後の2010年までに8コア(インテル)、または12コア(AMD)CPUを搭載したサーバとストレージの大容量化で集約化を高め、1000ユーザー/仮想マシン3000台を2、3ラックの規模で稼働させる計画だという。
それでも月間の売上目標は6000万円。クラウドサービスと銘打つには少々心もとない規模ではある。各種サービスを無料に設定しているため、採算に乗せるためには運用面でもさらなる効率化と自動化が不可欠となるはずだ。
しかし、GS10の技術セミナーに満員御礼の札が下がっているところを見ると、そんな心配に及ばずといったところかもしれない。まずは、日本初となるパブリッククラウドサービスのお手並み拝見しよう。