2010年07月07日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】業種別IFRSガイド【4】日本の家電・ハイテクが元気を取り戻すIFRS適用

かつては世界最強を誇った日本の家電・ハイテクメーカーが元気を取り戻すにはどうすればいいのか。IFRSを活用した経営管理の高度化やITシステムの標準化はそのための1つの鍵だ。

[垣内郁栄,アクセンチュア]

 日本企業の家電メーカー、ハイテクメーカーに元気を感じられない。世界を席巻したテレビなどのAV機器では韓国や中国のメーカーに追撃され、ウォークマンや携帯電話をはじめとする小型機器でも、アップルの「iPhone」「iPad」などの独創的なデバイスに対抗できるような商品を生み出せない。自動車や部品・部材などの製造業メーカーはまだ世界で存分に戦っている。しかし、家電・ハイテクのメーカーはなかなか良いニュースが聞こえてこない。

 現在の成長マーケットは中国、インドをはじめとする新興国。急成長するミドル層が家電・ハイテク機器を大量に購入しているのだ。従来、日本の家電・ハイテクメーカーはそのような市場で弱いわけではなかった。ブランド力があり、Made in Japanの信頼性があった。しかし、それは新興国の富裕層には人気でも、ミドル層には響かなかった。ミドル層が注目するのは低価格。一方で、日本の家電・ハイテクメーカーの製品はやはり高額だった。

 日本の家電・ハイテク機器が高額なのは過剰な品質の高さが要因といわれる。日本では品質の高さは重要視されるが、新興国では過剰と受け止められてしまうのだ。品質のミスマッチが起きる理由は中途半端なグローバル展開。ほとんどの家電・ハイテクメーカーはグローバル展開し、世界各国で割安な労働力を使って製品を製造・組み立てている。しかし、本社から現地法人に対する経営管理が不十分で、コストの最適化ができていないのだ。いわば現地法人の自主性に任せた結果、全体最適ができていないと言えるだろう。

 これまで日本市場は特殊なニーズがある、特殊な市場ととらえられてきた。しかし、世界でヒットしたiPhoneが日本でも大人気なように家電・ハイテク機器に関してはその特殊性が薄れているようだ。つまり、新興国などの世界市場で勝てない日本の家電・ハイテクメーカーは、今後、日本市場でも苦戦することが予測されるのだ。その兆候は、iPhoneに見ることができるだろう。

IFRSでコスト構造を最適化

 IFRSはこのような日本の家電・ハイテクメーカーの経営をあらためる契機になるだろう。新興国をはじめ、世界市場で勝つには本社から現地法人に対するガバナンスの強化が欠かせない。グループ戦略を見直すことで、世界各地でのコスト構造を最適化し、収益を生む体質に変換する必要がある。IFRSはそのための共通のモノサシになる。IFRSによって世界各地での投資対効果の測定が可能になり、無駄をなくすことができる。もちろん、シェアードサービスやビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)などで世界各地の経理処理やITの運用管理を統合することも可能になる。これまで会計基準の違いでためらっていたグループで経営管理の標準化が容易になるのだ。

 すでに経営管理の高度化にはIFRS対応が必須だという理解は家電・ハイテクメーカーの中で広がっているようだ。単なる会計基準上のIFRS対応では上記のようなメリットを得ることは難しいが、グループ経営戦略の視点でIFRS適用に合わせて経営管理を考え直す企業が多くなるだろう。IFRSは家電・ハイテク企業が今後、グローバルで戦っていくための欠かすことができない要件の1つだ。

複合契約の収益認識

 その家電・ハイテクメーカーのIFRS適用では、製品と同様に過剰品質といわれることがあるサービスの取り扱いが1つのポイントになるようだ。家電・ハイテク機器では、製品とサービス、修理などが一体となった複合契約で製品が販売されているケースが多い。例えば携帯電話では、電話本体と通信サービス、サポートなどが一体で提供される。複合機でもリースと保守などを一体にして提供している。これらは家電・ハイテクメーカーのビジネスでは一般的だ。

 IFRSでは原則的に、異なるモノ、サービスごとに収益認識が必要となる。そのため契約単位=収益認識単位という会計処理は難しくなり、複合契約においても必要に応じてそれぞれのモノ、サービスごとに契約を分けて適切な価格を把握できるようにする必要が出てくるとみられる。モノ、サービスを個別に収益認識することで、その認識のタイミングがずれる可能性もある。対応するには業務プロセスの見直しやERP、売上計上システムの改修が必要になる場合もあるだろう。経理部門だけでなく、製品を販売し、納める営業部門や流通部門にもインパクトがある可能性があり、事前の影響度調査が欠かせない。

 複合契約の見直しは経理部門にとっては確かに面倒な作業になるだろう。ただ、モノ、サービスの個別の価格やコストが明確になることで、コスト構造がはっきりし、最適化できるという経営上のメリットもある。

 複合契約の収益認識以外のIFRSの影響では検収基準による収益認識、研究開発費の資産計上、固定資産の減価償却・減損などが挙げられるが、これらはほかの業種でも共通するポイントだ。検収基準による収益認識については、検収情報の入手・管理を含めた収益認識プロセスの見直しがポイントになる。研究開発費の資産計上については、現在行っているR&D活動をしっかりとモニタリングして、研究費と開発費を識別するためのフェイズ管理や工数管理が重要になるだろう。また、固定資産の減価償却・減損については、経済的耐用年数の算出や見直し、資産のグルーピングや減損の兆候判断のための社内ルールの整備などがポイントになる。

グループ経営が分かる人材の育成、登用を

 複雑化する会計処理を効率的に行うにはITシステムの統合が欠かせない。そして全体をプランするにはグループ全体の経営戦略を理解し、立案できるような経理部門の人材育成が求められる。これからIFRS適用を検討する企業では、グローバルな視野で戦略を策定、実行できるような人材の不足への懸念が大きい。社内人材の育成はもちろん、海外の現地法人にいる優秀な社員の本社への登用、外部からの人材の採用などが必要になるだろう。

 さらに決算日がグループ各社で統一されていない場合には、決算日の見直しや仮決算を行う必要に迫られ、対象となった会社では決算早期化が必須となる。会計処理、ITシステムとも属人的な仕組みでは急激な変化に対応できない。標準化や統合を急ぎ、優秀な人材が就いたときにはすぐに内容を理解できるようにする必要がある。IFRS適用を機に世代交代が可能な経理処理、業務プロセス、ITシステムの仕組みにすべきだろう。

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