原則主義のIFRSで他社が基準をどう判断し、財務諸表に落とし込んだかは極めて重要な情報です。その参考となるIFRSの連結財務諸表が公表されました。日本企業のIFRS任意適用は今後、加速するでしょうか。12月の記事ランキングと併せて紹介します。
精密機器やコンタクトレンズ、デジタルカメラなどの製造・販売で知られるHOYAが2010年12月21日、IFRSに基づく連結財務諸表を公開しました。これまで複数の企業がIFRSの連結財務諸表を公開していますが、HOYAの連結財務諸表は2つの観点で注目を集めています。
IFRSについては2010年に日本電波工業が日本企業として初めてIFRSを任意適用し(参考記事:国内初のIFRS任意適用、日本電波工業が決算発表)、有価証券報告書を公表しました(参考記事:IFRS適用第1号、日本電波工業の有価証券報告書を読む)。また、ソフトウェア開発のディーバが自主的にIFRSを適用し、連結財務諸表を公表しました(参考記事:ディーバ、IFRSを「自主適用」)。
しかし、日本電波工業は2002年から英文のアニュアルレポートでIFRSベースの連結財務諸表を公開していて、今回の任意適用ではIFRSの初度適用は行っていません。そのため、これからIFRSの適用を検討する日本企業にとっては今ひとつ参考にならないとの声もありました。また、ディーバのIFRS連結財務諸表は監査法人の監査証明がなく、IFRSで増大が予想される注記も多くが省略されています。参考にするには情報量が少なかったのです。
一方、HOYAが公表したIFRSの連結財務諸表(原本は英語版)は有限責任監査法人トーマツの監査証明付き。また初度適用を行っています。この点が注目されています。
ただ、HOYAが公表したIFRSの連結財務諸表は同社のIFRS任意適用を示す訳ではありません。今回のIFRS連結財務諸表の公開は自主的な取り組みとの位置付けです。HOYAは取材に対して、「当社グループのグローバルな事業展開および株主構成を鑑み、来るべき国際会計基準の時代をにらんで準備をした」と説明しました。あくまでも準備であり、本番ではないとの立場です。IFRSの適用時期についても「検討中」としています。
公表した2010年3月期の連結財務諸表で、HOYAはIFRSへの移行日を2008年4月1日と設定しています。IFRS第1号「初度適用」に基づき公開した財務諸表は、連結財政状態計算書については移行日である2008年4月1日時点、2009年3月31日時点、2010年3月31日時点の3つ。連結包括利益計算書は2009年3月期(2008年4月1日〜2009年3月31日)と2010年3月期(2009年4月1日〜2010年3月31日)の2本です。連結キャッシュ・フロー計算書、連結持分変動計算書は、2009年3月期と2010年3月期の2期分です。加えて日本基準からIFRSの差異調整表として5つを公表しています。
HOYAは世界に約100社の連結子会社を持つグローバル企業。IFRSについても「一般論として、IFRSの適用は、企業業績のグローバルな比較にとっては大変有用なもの」と捉えています。原則主義であるIFRSでは他社が会計基準をどう判断し、財務諸表で注記したかは極めて重要な情報になるでしょう。HOYAの先進的な取り組みは、これからIFRS適用を目指す企業にとって良いベンチマークとなるのではないでしょうか。
それではIFRSフォーラムで2010年12月に掲載した記事のランキングと、ニュース記事のランキングを紹介しましょう。
セキュリティ用語の解説記事です。ITシステムを業務に利用することが一般的になり、ユーザーもある程度のセキュリティ知識を持つことが必須となりました。会計人は財務データなど重要情報を扱うだけにより高いセキュリティ意識を持つことが求められています。紹介する用語は「SQLインジェクション」などの技術的な用語から「不正アクセス禁止法」など法規制に関連する用語まで20個です。
年末らしいランキング記事が2位に入りました。ニュース記事で上位を占めたのは会計人が気にするキャリアに関する記事でした。IFRSについては任意適用の記事が多く読まれました。解説記事では会計基準に関する記事や入門記事が人気でした。2011年はIFRS適用プロジェクトが多くの企業で始まるでしょう。実践的な記事がより求められると考えています。
IFRSの基準と関連する業務プロセス、ITシステムの改修を総合的に解説する記事の6回目です。今回のテーマはビジネス結合で、企業結合(IFRS第3号)、連結および個別財務諸表(IAS第27号)などを解説します。記事ではIFRSのビジネス結合について「グループ経営管理の考え方にも大きな影響を与える」と指摘しています。
IFRS適用プロジェクトで必要になる経営管理の考え方について解説する記事の2回目です。達成したい経営管理として、モニタリングレベル、デシジョンレベル、アクションレベルの3つのレベルに分けて解説します。
12月のニュース記事ランキングは以下です。住友商事、横浜ゴムなどIFRSの適用を見越した動きが注目されました。
それではまた来月、お会いしましょう!
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