米Microsoftは開発中の次期OS「Windows 8」にタブレット専用バージョンを用意することで、米AppleのiPadに対して攻勢をかける構えだ。だがMicrosoftにとって、これは苦しい戦いになりそうだ。既に多くの一般消費者がiPadに満足しているからである。
Microsoftはタブレット市場の新参者ではない。この市場の経験期間は実に10年近くに及ぶ。同社は2002年11月、タブレット用OS「Windows XP Tablet PC Edition」を鳴り物入りでリリースした。初期のWindowsタブレットPCは販売業やサービス業など一部の市場セグメントで人気を博したものの、AppleのiPadが2010年のデビュー以来示してきた圧倒的な影響力とは比べようがない。
米Forrester Researchの最近の報告書が指摘するように、早くからタブレット市場に参入したMicrosoftの立ち位置は、実質的には「5番手」だ。Windowsタブレットは現時点でiPadの後塵を拝するのみならず、Androidタブレットや在庫処分セールが最近行われたwebOS搭載端末の「HP TouchPad」にも後れを取っている。
Windows 8は、果たしてiPad市場に風穴を開けることができるのだろうか。

Microsoftはこれまで、Windowsタブレットの魅力を高めるべく努力を続けてきた。同社の数年来のタブレットパートナーには、台湾Acerや米Dell、中国Lenovo、東芝、米Hewlett-Packard(HP)、台湾ASUS、韓国Samsungといった企業が含まれる。
これまでのWindowsタブレットの主流は「コンバーチブル型」と呼ばれるタイプだった。コンバーチブル型とはノートPCとしても機能するタブレットで、タブレットとして利用する場合はディスプレーを回転させてキーボードの上に重ねる。画面のタッチ入力が可能なのに加え、ワコムやイスラエルのN-trigなどが販売するスタイラスペンを使用すれば、より正確な入力が可能になる。
Windows 8の登場に合わせ、Microsoftはタブレットのコンセプトを大きく見直そうとしている。同社は多くのモバイル端末に採用されている「ARM」ベースのプロセッサで動作するバージョンのWindows 8を投入することにより、タブレット市場で勢力拡大を図る考えだ。
Microsoftは、古くからのパートナーである米Intelに加え、米AMDのx86チップ向けのWindows 8を用意する。ARM搭載版のWindows 8タブレットは、即時の起動や終了、長時間のバッテリー駆動といった点に強みがある。
2012年1月に米国ラスベガスで開催された「2012 International CES(CES2012)」。同イベントの基調講演に登壇したMicrosoftのスティーブ・バルマーCEOが聴衆に強くアピールしたのが、Windows 8に採用されるタッチ型グラフィカルユーザーインタフェース(GUI)の「Metro」である(Metroについては「IT管理者がチェックすべきWindows 8の機能と仕様」を参照)。
Metroは、同社のモバイルOS「Windows Phone」にも採用されている。Windows PhoneはAndroidやiOSのような人気を得るには至っていないが、Metroに関する評価は高い。
Windows 8はこのほかにも、既存のWindowsタブレットにはないさまざまな機能や特徴を持つ。「Windows 8の登場で、Microsoftはタブレット市場における存在感を大きく高める可能性がある」と、その実力を評価するアナリストは少なくない。
「Asymco.comというブログでAppleに関する記事を書いているフリーアナリストのホレス・デデュー氏は、「Microsoftはタブレットを文字通り“クライアントPC”として位置付けているようだ」という見方を示す。「Appleが示す『タブレットがいつかクライアントPCになる』という考えではなく、『タブレットはクライアントPCそのもの』だと考えている」(デデュー氏)
「これはMicrosoftとAppleとの間にある大きな見解の相違であり、製品に関連するあらゆる要素に影響する。デザインやライセンス方式、価格、マーケティング、アップデートサイクル、位置付け、そして最終的な成功の可能性など、影響範囲は多岐にわたる」とデデュー氏は指摘する。
米Juniper Researchのリサーチアナリストであるダニエル・アシュダウン氏は、「Windows 8タブレットはモバイルとクライアントPC間の境界を取り払う」と指摘する。「Microsoftは、即時起動や長時間のバッテリー駆動といった技術を、タブレットだけでなくノートPCでも利用できるようにするだろう」(アシュダウン氏)
Microsoftは、エンドユーザーの支持を集めるために非常に賢明な方策を講じた。Windows 8の初期開発者向けバージョンを一般公開するという異例の措置に踏み切ったのだ。
Windows 8タブレットがiPadユーザーを振り向かせるために不可欠な要素は何か。Microsoftが擁する巨大かつ多彩なパートナー企業のサポートが得られるかどうかが大きなポイントとなる。
ハードウェアメーカー各社は既に、Windows 8への準備を着々と整えている。クアッドコアプロセッサ「Tegra 3」を擁する米NVIDIAや「Snapdragon S4」を提供する米Qualcommなどのチップメーカーは、Windows 8タブレット向けにARMベースのチップセットを提供する。
2011年9月にMicrosoftが開催した「BUILD」カンファレンスにおいて、SamsungはWindows 8タブレットの試作機をアプリ開発者に配布した。LenovoはCES2012開催に先だつ2012年1月9日、Windows 8を搭載するとみられるコンバーチブル型端末「IdeaPad YOGA」を発表し注目を集めた。Juniperのアシュダウン氏によると、他のハードウェアベンダー各社もWindows 8に大きな期待を寄せているという。
「ノートPCベンダー各社の意気込みは半端ではない。Windows 8は巨大なユーザーベースを創出するからだ」とアシュダウン氏は指摘する。
“iPadキラー”たり得る要素が充実したWindows 8に、果たして死角はないのか。後編は、Windows 8普及に当たってのハードルとなりそうな点を中心に解説する。