Oracle VMは、製品単体では特に目新しさがないかもしれない。しかし、OSからアプリケーションまでそろうOracleソフトウェア、Oracle RACを中核とする同社のグリッド技術と融合したとき、従来にない可能性を秘める。
2008年3月にリリースされたオラクルのサーバ仮想化ソフトウェア「Oracle VM」。先行するVMwareの「VMware Infrastructure 3」、マイクロソフトの「Hyper-V」との性能差や機能差がとりざたされているが、日本オラクル 担当ディレクターの北嶋伸安氏は、きっぱりと「ターゲットが違う」と話す。Oracle VMが目指すところとは何か?
――Oracle VMの出だしはいかがですか。
北嶋 わたしは過去、さまざまなオラクル製品に携わってきましたが、これほど立ち上がりが早い製品は珍しいです。製品紹介フォーラムを全国で開催しましたが、総集客数は2000人を超え、パートナー向けのセミナーも大盛況でした。それも単なる情報収集ではなく、実適用に向けて検討したいという企業ユーザーやパートナーが多かったですね。
実際、参加者の7割が既にサーバ仮想化製品を使用しており、サーバ仮想化に関する知識もあります。これまで、オラクル製品を仮想化環境で使うとなると、サポートや性能、コストがネックになっていましたが、そこへオラクルが動作保証するサーバ仮想化製品が出てきたわけです。しかもライセンス無償となれば、受け入れを阻む要素は少ないと思われます。
――製品発表時にVMwareとの性能差をアピールしていましたが。
北嶋 ある面ではその通りですが、(総合的に見るなら)サーバ仮想化製品はどれも、アーキテクチャ自体にそれほどの違いはないと思っています。一方、先行するVMwareはGUIなど管理機能は充実しているかもしれませんが、費用やOracle Databaseなどの性能の面ではOracle VMが優れています。ただ、仮想化ソフトウェア単体で優劣を比べてもあまり意味がなく、われわれもVMwareをはじめとした他社製品と仮想化ソフトウェア単体だけで競い合うつもりはありません。顧客が導入したいのは、UIなど運用管理だけではなく、高速かつ安価な仮想化ソフトウェアをワンストップでサポートしてもらえる製品とサービスです。
また、サーバ仮想化の主な用途はサーバ統合ですが、これまで統合できる対象は、(並列化で性能と可用性を容易に確保できる)Webサーバなどに限られていました。そのほか、「Windows NT」のような古いシステムの延命、シンクライアント環境の構築でサーバ仮想化技術が使われてきました。しかし、こうした既存領域に今から進出しても、オラクルが特段の強みを発揮できるわけでもなく、積極的に狙うつもりもありません。
オラクルの強みは、OSからデータベース、ミドルウェア、アプリケーション、仮想化製品までのソフトウェアスタックを持つこと。企業システムを統合的に仮想化環境で運用できるソリューションを提供していきます。つまり、他社とは狙っている領域が違います。新たな市場を立ち上げようとしているのです。
――“エンタープライズ対応”をうたう製品は以前からありましたが。
北嶋 企業システムへサーバ仮想化技術を本格的に取り入れるとなると、他社とオラクルの製品では明確な違いが出てくると思います。Oracle VMは、Oracleソフトウェアが稼働環境として認める唯一のサーバ仮想化製品です。企業システムにおいて、この意味は重いでしょう。一例を挙げれば、同じライブマイグレーション機能でも、Oracle VMはマイグレーションされた「Oracle Database」に対してトランザクションの整合性を保証します。
さらに、エンタープライズレベルの可用性、拡張性、運用管理性を提供できるのは、グリッドとサーバ仮想化の両方の技術を持ったオラクルだけという自負があります。グリッドは複数の物理サーバを束ね、あたかも1つのリソースのように扱うのに対し、サーバ仮想化は物理サーバの中で複数の仮想サーバを構築します。2つはベクトルが相反する仮想化技術ですが、多くの物理サーバで運用されている企業システムに不可欠なグリッド環境にサーバ仮想化技術が加わることで、インフラの柔軟性や集約度が一層高まります。
また、2008年中に予定している「Oracle Enterprise Manager」(Oracleソフトウェアの統合管理ツール)とOracle VMの管理機能の統合により、1つのコンソールでグリッドとサーバ仮想化の環境をクロス管理できるようになります。先ほど、Oracle VMの管理機能は劣っていると言いましたが、Oracle Enterprise Managerに統合されるとほかの追随を許しません。なぜなら、ユーザーはビジネスアプリケーションという大きな観点からサービスレベルやTCOを改善しようとしているのであり、決してサーバ仮想化の観点からではありません。その点、Oracle Enterprise Managerを使えば、OSからデータベース、ミドルウェア、アプリケーションに至るまで、縦ぐしで運用状況を監視することができます。つまり、リソースを最適に配置した上で障害対策も行えるのです。
――グリッド技術との融合には具体的にどのような利点がありますか。
北嶋 われわれのグリッド技術の中核となる「RAC(Real Application Cluster)」は、データベースをクラスタ化することで可用性と拡張性を高めますが、従来は物理サーバ単位でしかノードを追加・削除できませんでした。それが、RACがOracle VMをサポートすることで(2008年中を予定)、仮想サーバ単位で柔軟にノードを追加・削除できるようになります。
また、Oracle VM上でRACが使えるようになると、仮想サーバでもエンタープライズレベルの可用性が実現されます。例えば、VMwareのクラスタ技術「VMware HA」は、障害を検知してから待機サーバを立ち上げるコールドスタンバイ方式で、ハードウェア障害でしか機能しません。しかし、RACは各ノードが稼働状態のホットスタンバイ方式です。(Oracle Application Serverのクラスタ機能とも組み合わせれば)ソフトウェア障害全般も監視し、ビジネスアプリケーションのレベルで可用性を高められるのです。
――RAC自体も信頼性を得るのに時間がかかりました。Oracle VMとの組み合わせでいきなり高い信頼性を確保できますか。
北嶋 どのようなソフトウェア製品でも成熟化の過程は必要になります。それは、Oracle VM、ベースとなっている「Xen」でも変わりありません。ただ、RACとサーバ仮想化を組み合わせて使いたいというユーザーの声は非常に多く、そうしたニーズへも迅速に応えていくつもりです。
また、いきなり本番環境は難しくとも、Oracle VMは開発・検証環境で利用するだけでも高い効果が得られます。例えば、オラクルのERPパッケージ「EBS(E-Business Suite)」を物理サーバへセットアップするのに1週間以上かかることもありますが、EBSの物理サーバ構成をテンプレート化(Oracle VM用のイメージファイル)しておいてOracle VM上へ展開すれば、セットアップにかかる時間やコストを大幅に節約できます。こうした開発・検証環境での利用が進めば、本番環境への適用も時間の問題だと思います。実際、Oracleソフトウェアをアプリケーションまでフルスタックで利用しているユーザーの関心は、非常に高いものがあります。
――オラクルのソフトウェアスタックで最大の効果を発揮するとなると、Windowsユーザーはターゲットにしていないのでしょうか。
北嶋 インフラをマイクロソフト製品で固めているユーザーは、「Windows Server 2008」に標準搭載されるHyper-Vを使えばいいでしょう。そこまでオラクルが入っていく必要はありません。ただ、Windows環境でOracle DatabaseなどのOracleソフトウェアを使っているユーザーも多くいます。その場合、どのレイヤーを重視するのか。あくまでもOS重視ならHyper-Vですが、インフラ全体で最適化を図るならOracle VMという選択肢は十分にあり得ます。実際、Oracle VMを検証しているWindowsユーザーはたくさんいます。確かに現状、Xenアーキテクチャの制約から、WindowsをゲストOSにするとLinuxほどの性能は出ませんが、2008年中には準仮想化方式でWindowsを稼働させられるドライバをリリースする予定です。そうなると、Linuxと同等のオーバーヘッドでWindowsが稼働する見込みです。Windowsユーザーにとっても、Oracle VMがより現実的な選択肢となるでしょう。
――Oracle VMは2008年、次々と機能強化されるようですね。今後、どのようにビジネスを展開していきますか。
北嶋 多くのユーザーにOracle VMの可能性を検証してもらうため、インストールガイドなどのドキュメントを用意し、Oracle Grid Center(オラクルがパートナーと共同運営するグリッド関連技術の検証機関)でサーバ仮想化のベストプラクティスを研究し、その成果を発表していきたいと思います。
ただ、Oracle VMそのものは単なるツールです。われわれにとってもパートナーにとっても、ビジネスの前面に出てくることはないと思います。あくまでも主体は、ユーザーへ提供する「インフラ最適化サービス」になります。ユーザーのビジネスアプリケーションに適したインフラとはどのようなものなのか。可用性や拡張性、運用管理性の要件に合わせ、手段としてグリッドとサーバ仮想化をどのように組み合わせていくのか、コンサルティングも必要になります。そのためにも、今後ともパートナーとの連携を強化していくつもりです。
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