EDIは流通業全体のインフラを目指せ【最終回】
終わりを遂げた大量販売/消費時代、流通業は市場変化に対応する企業であれ
大量販売、大量消費の時代は終わり、消費者ニーズが多様化している今、小売・卸・メーカーといった流通業はどのように変化していくべきか。連載の最終回では、流通業企業が今目指すべき姿を考える。
消費者ニーズはますます多様化している
先日、流通科学大学の学長 石井淳蔵氏と、昨今の流通業界の動向について語る機会があった。その席上で次のような話が出た。
日本の市場は成熟の極みに達しつつある。マーケット成熟以前の消費者は、「人と同じモノを、人より早く、多く持つこと」に躍起になっていたが、個々のニーズが多様化した今では、「人とは違うモノ」を求めるようになった。極端なことを言えば、1億2700万人それぞれが違ったモノを求める時代になり、自分の欲しいモノがはっきりしているということである。
従来通りのワンストップショッピングという売り方を継続している百貨店や総合スーパー(GMS:General Merchandise Store)が依然苦戦しているのは、このようにスケールアップした消費に応えられなくなったからであろう。
一方で、最近売り上げを伸ばしている小売店の1つに、オーガニック系のせっけんや雑貨などを扱う「生活の木」がある。この店の特徴は、扱っている商品に対する店員の思い入れがとても強いことだ。店員自身が自分の欲しいものを提案し、それに共感した同じ生活感覚を持っている消費者が買い物に来る。これこそが生活の木が支持される理由であろう。
地方のスーパーでも似たような例はある。九州地方を中心に店舗を構える食品スーパー「ハローデイ」は、アミューズメントを意識して、店内のディスプレーや商品の並べ方1つにも徹底的にこだわっている。さらに、育ち盛りの子どもがいる家庭をターゲットとしたセット商品を販売するなど、随所に客が共感する工夫が施されているのである。
どちらの店にも共通することは、顧客と店の感覚が一緒ということだ。このように、特定の嗜好や価値観を持った消費者向けの商品を販売する小売店が増えてきているのが、最近の流通業界の傾向である。
多様化の時代における消費財メーカー、卸、小売の役割
つまり、過去の大量生産、大量販売、大量消費の時代とは、流通の在り方そのものが違ってきたということである。消費者の嗜好が数万、数十万に分類されるような多様化の時代において、効率的大量生産に慣れたメーカーがこれに対応することは困難である。
そこで卸売業の出番となる。いかに多くの日用品化粧品を陳列している小売店でも、2万も3万もの商品を並べることは不可能である。しかし、卸はそれを上回る数の商品を取り扱っている。実際に、7万アイテムもの商品を保管・管理している物流センターもあるくらいだ。
そうした中で、多くの卸はコモディティ化した商品を大量に効率的に供給するシステムを完成させている。つまり、基本的な生活を維持するためのライフライン流通機能は、ほぼ満足すべきレベルに達しているといえる。しかし、これから必要となる機能は、完全に成熟した市場に対応するシステムである。それがどのようなシステムであるかを具体的に描くことは難しいが、一言で言えば、多様なメーカーの商品と多様なニーズを持つ消費者とを適切にマッチングさせるシステムである。
一方、メーカーに求められることは、消費者の隠れたニーズを喚起するような商品を作り出し、新たな需要を生み出していくことだ。消費者の生活シーンを分析し、そこで発生するさまざまな問題を解決するような商品を提案することである。
そして、小売業がなすべきことは、POSデータや顧客ID付きPOSデータ、ポイントカードなどの分析により、顧客の特性を把握し、FSP(Frequent Shoppers Program)へとつなげていくことである。この他、社会問題となっている高齢化への対応も、小売業の課題の1つといえよう。高齢化が進み、買い物難民などの新たな問題がクローズアップされている今、ネットスーパーなどインターネットによる販売チャンネルの導入も考えるべき時が来ている。
ITやEDIを活用して“人の役に立つ”モノを提供する
こうした各社の課題解決のために活用すべきものがITである。
かつてのコンピュータは、人がやっていたことを合理化するための道具だったが、現在では人ができなかったことを行う道具へと進化している。人の能力を生かすマンマシンインタフェースを持つコンピュータを使って人間の能力を最大限に引き出し、価値の高い問題解決へとつなげていくことができるのである。
EDIもしかり。ひと昔前のEDIは、受発注や請求処理など“定型業務における事務作業の効率化やコスト削減などを可能にする仕組み”だったが、ITの進化により、使い方によっては問題解決ツールとして機能させることができるようになった。なおかつ、裏側にプールされたデータベースと連動させることで、その機能をさらにアップするなど、EDIは単なるインフラの枠を超えた高度な情報ネットワークへと進化してきた(関連記事:「EDIの進化──マーケティングへの応用と流通業界横断の情報共有ネットワーク」)。
さらに一歩踏み込んで付加価値を高めるために、マーケティングネットワークとしての標準化を進めることで、市場の変化に機敏に対応する情報活用型の企業へとステップアップすることもできるだろう。
企業とはそもそも社会のためにある。社会の役に立っているからこそ、存在し得るのである。社会が何を求めているかを追求し、「ヒト・モノ・カネ」という経営資源と「情報」を有機的に組み合わせて、“人の役に立つ”モノを創り出していくことが、企業の役割といえよう。
幸いにも流通業界には、多頻度小口発注、多頻度バラ納品、小規模分散型店舗立地、卸の集約機能といった日本独自のSCMがある(関連記事:「日本のティッシュはなぜ安い? 業界標準EDIが実現する日本型SCM」)。この世界に誇れる仕組みとIT、標準EDIを足掛かりに、新たなシステムや商品の開発を実現できる企業が、新時代の流通業としてのミッションを達成できるのではないか。
新しい価値の創造を目指して
当コラムも今回で最終回を迎えるが、そもそもは、高度化した通信環境と進化したITをビジネスに生かし、流通業各社の競争力強化や業務効率化、そして流通業界のさらなる活性化に役立ててほしいという願いを込めて書き始めたものである。
たまたま、次世代EDI標準といわれる「流通BMS」(流通ビジネスメッセージ標準)が誕生したこともあり、標準化されたEDIを活用することの重要性と、それを含む情報ネットワークを業界全体のインフラとして活用すべきであると強調してきた(関連記事:「小売業・卸売業のIT部門が流通BMSの導入前に考えるべきこと」)。
「EDIも使い方次第で問題解決ツールとして機能させることができる」「ITをうまく活用すれば、経営上の問題解決も図れる」と繰り返し述べてきたのも、前述したような思いがあったからだ。
人々の生活に不可欠な一般消費財を供給している流通業は、社会的価値も高く、存在意義も大きい。そんな中で製配販が標準化したEDIを共有し、新しい価値を社会に提供していく。一方、流通業界横断の情報共有ネットワークを提供する当社では、いかなる災害時でも絶対に止まらない信頼の高いネットワークを目指し、さらなる安全対策に注力する。それがわれわれの使命であり、社会貢献と考える。
全9回という長期にわたる連載となったが、この間の皆さまのご愛読に感謝する。
玉生弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長兼執行役員社長
1968年にライオン油脂(現在のライオン)入社後、マーケティング部、総合管理部、システム開発部勤務を経て、1985年にプラネットの常務取締役に就任。1993年より現職。社団法人流通問題研究協会 副会長、事業創造大学院大学 客員教授。
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