2011年4月に実施されたデザインサミットのトピックを中心に、その後のコミュニティーの動向と、OpenStackプロジェクトの今後について紹介する。
今回は、連載第3回「OpenStack Compute、Novaの利用方法」の予告から予定を変更して、2011年4月末に米国西海岸で開催された開発者の会議であるデザインサミットでのトピックを中心に、その後のコミュニティー動向も含めて、OpenStackプロジェクトの今後について紹介する。
今回のデザインサミットは、IT系企業がひしめくカリフォルニア州サンタクララに場所を移し、2011年4月26日〜29日の4日間の日程で開催された(写真1)。イベントの構成としては、4月26日〜27日の2日間で一般向けのOpenStack Conferenceが、4月27日〜29日の3日間で開発者向けのデザインサミットが平行して開催された。
シリコンバレー付近という場所柄やOpenStackプロジェクトの注目度もあり、技術系、ビジネス系合わせて総勢450人以上が参加者し、非常に盛況であった。
前回と同様、日本からも筆者が把握しているだけで15人を超える参加者が来ただけでなく、今回は韓国(Korea TelecomおよびSumsung)を中心に、アジア系の参加者も多数見掛けたのが印象的であった(前回のデザインサミットに関する記事:「注目のOpenStackプロジェクトの全体像 〜コミュニティーと主要コンポーネント」)。
キーノートスピーチの中で、筆者が特に印象的だったのがNASA Ames Research CenterのCIO James Williams氏の「NASA Nebula -- Past, Present and Future」である。
NASAがNebula Cloudのために開発したクラウド基盤ソフトウェアをOpenStackプロジェクトにコントリビュートしたのはこれまで解説した通りだが、そのOpenStack Computeのベースとなった初期のNovaが、予算や人員の厳しい制約の下、少数のコアエンジニアによって週末のハッカソンで作られた秘話が明かされた。また、これまでNASAはOpenStackの開発を引っ張ってきたが、開発コミュニティーも十分立ち上がり、Novaの設計思想にNASAの要件は十分に反映されたと判断し、今後はOpenStackの成熟に伴って、ユーザーの立場にシフトしていくとのことである(写真2)。
もう1つ印象的だったのが、KT(Korea Telecom)とCloudScalingによる、OpenStack Object Storage(Swift)を用いたクローズドβサービスの紹介である(参考:「Commercialization of OpenStack Object Storage」)。Swiftは、もともと米RackSpaceのCloudFilesという商用サービスの実装をベースとしているため、相対的に完成度は高い。しかし、実際にSwiftを用いて、しかも容量1Pバイトという大規模なオブジェクトストレージサービスを開始するというのは、着実に実用化に向う勢いを感じた。
リリーススケジュールの調整は、デザインサミットにおける重要な議題の1つである。
第3版(Cactius)まで、開発の加速のために3カ月ごとのリリースが続いてきたが、次のリリースから6カ月ごとのリリースに変更されることになった。次の第4版(Diablo)のリリース日は、2011年9月22日と決定された。
なお、後述するように第4版(Diablo)では比較的大きな機能追加が予定されているため、1カ月ごとにdiablo−1〜dialob−4の4回のマイルストーンを設け、新機能を段階的に取り込んで開発版のスナップショットを出していくことになった。
日程 | イベント |
---|---|
2010年7月19日 | OpenStack発表 |
2010年10月21日 | 第1版(Austin)リリース |
2011年2月3日 | 第2版(Bexar)リリース |
2011年4月17日 | 第3版(Cactus)リリース |
2011年6月2日 | Diablo−1 マイルストーンリリース |
2011年6月30日 | Diablo−2 マイルストーンリリース |
2011年7月28日 | Diablo−3 マイルストーンリリース |
2011年8月25日 | Diablo−4 マイルストーンリリース |
2011年9月22日 | 第4版(Diablo)リリース |
今回のデザインサミットの会期中、次回デザインサミットの場所は調整中のままであった。よって、デザインサミットの開催地にちなんで命名されるリリースコードネームも未定であったが、その後、2011年6月9日になってコミュニティーからアナウンスされた。事前の意見集約では、ヨーロッパやハワイを推す声も多かったが、結局、次回は2011年10月3日〜5日の日程で、米国東海岸のボストンで開催されることに決まった。従って、第4版(Diablo)の次のリリースコードネームはボストン付近のEで始まる地名から投票で選ばれることになる。
なお、2011年6月22日早朝(日本時間)のリリースミーティングで、第5版のリリースコードネームは「Essex」とアナウンスされた。
2011年3月11日の東日本大震災は、OpenStackコミュニティーにおいても非常に関心が高いトピックであった。コミュニティーとして何か東日本大震災の復興に貢献できないかということで、以下の(1)と(2)の収益について、震災復興のために日本赤十字を通じて寄付することになった。また、日本人参加者は登録料が免除となった。
(1)イベントの登録料を、震災復興支援のために寄付
(2)チャリティTシャツを販売し、収益を寄付
また、日本OpenStackユーザー会からは、日本大震災から学べるトピックとして、コミュニティーの運営をライトニングトークで紹介した(参考:「A Lesson from the Japan Disaster」)。
次回は、同デザインサミットで報告された技術的なトピックについて紹介する。
シニアITスペシャリスト。専門分野はオペレーティングシステム一般。専門以外には進化論などに興味を持つ。現在はインタークラウド連携の研究開発に従事するほか、GICTFやVIOPSなど、各種団体・コミュニティーで活動中。趣味は子育て。
次世代生成AIで優位に立つのはMeta? Google? それともマスク氏のあの会社?
生成AI時代において、データは新たな金と言える。より人間らしい反応ができるようになる...
GoogleからTikTokへ 「検索」の主役が交代する日(無料eBook)
若年層はGoogle検索ではなくTikTokやInstagramを使って商品を探す傾向が強まっているとい...
B2B企業の市場開拓で検討すべきプロセスを定義 デジタルマーケティング研究機構がモデル公開
日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構は、B2B企業が新製品やサービ...