開発者を悩ませるサーバレスのロックイン、コスト、テスト問題いまさら聞けないサーバレス入門【後編】

サーバレスには悩ましい問題がまだまだある。予測できないコストや構築が難しいテスト環境などだ。だが、サーバレスに対する正しいアプローチは欠点に目を向けることではない。

2021年02月15日 08時00分 公開
[Daniel RobinsonComputer Weekly]

 前編「サーバレスが抱える『パフォーマンスを制御できない』問題」では、サーバレスの基礎とサーバレスアプリケーションのパフォーマンス問題について解説した。後編ではサーバレスが抱えるさらなる課題と展望を紹介する。

 制御が及ばないと思われるもう一つの問題は、サプライヤーのロックインだ。多くのサーバレス環境はクラウドプラットフォームごとに独特だ。ホスト先を別のクラウドに変えるとアプリケーションコードの大幅な書き換えが必要になる。

 「あるサプライヤーのサーバレスが別のサプライヤーと同じではないという『困り果てた状態』はまだ残っている」と話すのは独立系アナリストのクライブ・ロングボトム氏だ。

 ただし、コンテナと「Kubernetes」が普及しつつあることから、高度な関数レベルでの移植機能、あるいはオーケストレーションシステムへのアドオン機能が生まれることが期待されているとロングボトム氏は補足する。そうなれば、ほとんど再調整せずに、恐らくリアルタイムに別のサーバレス環境で運用できるようにワークロードを適合させることが可能になる。

サーバレスデプロイの監視

 コストもサーバレスの潜在的な問題になる。サーバレスはコードを実行している時間のみに課金されることは既に説明した。それを考えると、コストが問題になるというのは逆説的に思えるかもしれない。

 だがこの課金モデルにより、十分なサービス品質でサーバレスアプリケーション/サービスを運用するのにかかるコストを正確に予測するのが難しくなる恐れがある。需要が予期せず急増した場合、サーバレスの「自動的にスケーリングする」という性質により予想よりも多くのリソースが使われる恐れがある。

 「サーバレスの使用料は純粋にリソースの使用量に基づく。ワークロードが使うリソース量が明確でなければ、請求書を受け取ったときに驚かされるかもしれない」とロングボトム氏は話す。

 ワークロードを把握してサーバレスをシンプルに使うだけならば、それほど驚かされることはないだろうと同氏は語る。「サーバレスプロバイダーがリソースコストの階層化を許可していれば、それがコストを制御する方法の一つになる可能性がある。ユーザーがコストの上限を設定するのをプロバイダーが許可していれば、制御できるだろう」

 サーバレスのもっと大きな問題点は、サーバレスアプリケーションのテストと監視にある。従来のアプリケーションモデルでは、データベースなどのソフトウェアを開発者が用意することで、コードを運用環境にアップロードする前にテストおよび検証することができる場合が多い。だが、サーバレスアプリケーションは多くのコンポーネントで構成される可能性があるため、運用環境を忠実に複製できない場合がある。

 サーバレスには分散性があるため、運用環境のワークロードの監視も難しくなる可能性がある。従来のアプリケーションの監視はコードの実行に注目していた。サーバレスアプリケーションはさまざまな関数やコンポーネントが全て相互に通信するため、この仕組みを念頭に置いて設計された特殊なツールでなければこれを監視するのは難しい。

 「複合アプリケーションは、ワークフロー全体の監視とレポートが必要だ。だが、現時点ではそれは難しい」とロングボトム氏は話す。

 また同氏は次のように付け加える。「これにはAIが役立つ可能性がある。AIが想定する結果と例外に対処し、途中で生じるギャップを特定して最適なサーバレス環境の維持に必要なフィードバックループを再度提供する」

 本稿で示した問題点は全て欠点のように思えるかもしれない。だが、こうした問題点はサーバレスが開発者に提供する利便性と対比して考えなければならない。面倒なリソース管理をクラウドプロバイダーに委ね、インフラの問題点に対処するのではなくアプリケーションのビジネスロジックに集中したい開発者にとって、特にこうした対比が必要になる。

 サーバレスプラットフォームが進化し、サーバレスの課題に対処され、改善された監視ツールが利用可能になるにつれ、こうした問題点の多くは解消される可能性がある。サーバレスに取り組むに当たっては、サーバレスが従来とは異なる混乱をもたらすことを認識し、特定のアプリケーションやサービスにサーバレスを採用するリスクを慎重に分析する必要がある。

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