NVIDIAのArm買収にGoogleもMicrosoftも反発 その理由は?NVIDIAによる混迷の「Arm買収劇」【前編】

NVIDIAはArmを買収することで、新たな市場開拓が可能になるだろう。だが業界から懸念の声が出ており、話は簡単には進まない。何が問題なのか。

2021年05月07日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

関連キーワード

ARM


 半導体ベンダーのNVIDIAは2020年9月、同業のArmをソフトバンクグループおよびSoftBank Vision Fundから約400億ドルで買収する計画を発表した。Armはプロセッサのアーキテクチャを設計し、そのIP(知的財産)を世界のさまざまな企業にライセンスしている。NVIDIAはもともとゲーム向けのプロセッサベンダーとしてスタートしたが、汎用(はんよう)のPCやモバイル端末、自律走行車などの市場にも進出した。

 NVIDIAは「Armアーキテクチャ」(Armが設計するプロセッサのアーキテクチャ)とAI(人工知能)関連の技術を拡充して、新市場を開拓しようとしている。ただしNVIDIAのArm買収は一筋縄ではいかない。

GoogleやMicrosoftもNVIDIAのArm買収に反発する“あの理由”

 Armの顧客であるQualcomm、Google、Microsoftは、NVIDIAのArm買収に反発している。これらのITベンダーは、「NVIDIAはこの買収により、プロセッサアーキテクチャの重要な提供者であるArmを傘下に収め、不公正な競争優位を得るのではないか」と懸念していると考えられる。

 ITコンサルティング会社J.Gold Associatesのプレジデント兼プリンシパルアナリスト、ジャック・ゴールド氏は「Armアーキテクチャを採用するITベンダーには、懸念するに十分な理由がある」と語る。NVIDIAはプロセッサの設計から製造まで“フルサービス”で手掛けようとしているように見えるからだ。

 実際にそうなれば、NVIDIAは顧客であるITベンダーと競合関係になる。「現時点(NVIDIAによるArmの買収前)では、ArmとQualcommはライバル関係ではないため話をしても問題はない。両社の間では秘密のやりとりもある。それは当たり前のことであり、Armはどの顧客ともそうして付き合っている」(ゴールド氏)。一方でQualcommは、NVIDIAとのそうした付き合いは避けたいはずだと同氏は指摘する。買収が完了すれば、その問題が現実のものになる。

懸念の背景

 「Armは、大きく多様な顧客基盤を持っている」と強調するのは、調査会社IDCのワールドワイドインフラプラクティス担当グループバイスプレジデント、アシシ・ナドカーニ氏だ。Armはオープンなライセンスビジネスを提供しているため、Armからライセンスを購入すれば、どの企業もArmアーキテクチャを使用できる。

 Samsung Electronics、Huawei Technologies、Appleなど、自社製のプロセッサを採用しているスマートフォンベンダーや、Qualcommのような半導体ベンダーは、Armから提供されたIPライセンスをプロセッサの設計に使用している。Amazon Web Services(AWS)、富士通、Xilinxといった企業も、Armアーキテクチャを用いてデータセンター向けの半導体を作っている。

 ゴールド氏によると、Googleは自社データセンター向けの半導体を作るために、毎年多大なコストを投じている。MicrosoftやAWSなど、他の大手クラウドベンダーも同様だ。そうした半導体のアーキテクチャはArmがライセンスしている。

 Armの進出先はIT分野だけではない。同社は産業市場にも進出しており、自律走行車、車載エンターテインメントシステム、機内エンターテインメントコンソールなども、Armアーキテクチャを採用した半導体を搭載している。「Armアーキテクチャは至る所で、ひそかに使われている。Armと半導体メーカーの協力関係は、エンドユーザーには分からない。Intelのロゴが、そこかしこに表示されているのとは対照的だ」(ナドカーニ氏)

 仮に買収が成立すれば、NVIDIAは市場で強い立場になる。「ビジネスの相手を選別するようになる可能性がある」と、ナドカーニ氏は指摘する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス

製品資料 エヌアイシー・パートナーズ株式会社

コンテナ基盤を最短4時間で構築、AI時代に最適な次世代データ基盤の実力とは?

AIなどによるデータドリブンなアプローチが主流となり、データ基盤にはコンテナネイティブな環境への対応が求められている。こうした中、コンテナ基盤を最短4時間で構築でき、大幅なコスト削減も期待できる、次世代データ基盤が登場した。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

大容量SSDが“100TB超え”でHDDを置き去りにした日

SSDは高速なだけでなく、大容量化でもHDDを凌駕(りょうが)し始めている。100TB超のSSDが登場する今、ストレージ選定の常識はどう変わるのか。

製品資料 株式会社ネットワールド

すぐ役立つ&初めてでも安心 「NetAppの教科書」決定版

データ環境の急変は、企業のストレージ課題を複雑化させている。性能や拡張性、データ保護、分散環境の一元管理、コスト最適化など、自社の課題に合わせた製品・サービスをどう見つければよいのか。それに役立つ製品ガイドを紹介したい。

技術文書・技術解説 エフサステクノロジーズ株式会社

フラッシュアレイ選びのヒント:最小限のダウンタイムでデータ移行できる製品は

フラッシュアレイ導入を検討する際、既存のリモートストレージデバイスからのデータインポートは気になる点の1つだ。そこで本資料では、最小限のダウンタイムでデータ移行できるフラッシュアレイ/ハイブリッドアレイ製品を紹介する。

製品資料 エフサステクノロジーズ株式会社

初級解説:中小規模向け「フルSSD」&「ハイブリッドストレージ」の実力

近年、企業に蓄積されるデータが爆発的に増加しており、新たなストレージシステムへのニーズが高まっている。そこで、中小規模のニーズをカバーする、フルSSDおよびSSD/HDDハイブリッドのシンプルなブロックストレージを紹介する。

アイティメディアからのお知らせ

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...