ブロックチェーンの目的はセキュリティではない。機密情報の秘匿性を実現するものでもない。では、ブロックチェーンとは何なのか。どのように使えばいいのか。ブロックチェーンの専門家に聞いた。
ブロックチェーンに関する誤解がまだ存在するため、ブロックチェーンが広がるにはさらに10年はかかるだろう。そう話すのは、オーストラリアのブリスベンを拠点とするブロックチェーンサービスプロバイダーLabrysの創設者兼CEOのラクラン・フィーニー氏だ。
――ブロックチェーンへのこれまでの取り組みについて教えてください。
フィーニー氏:ここ10年、さまざまな企業でブロックチェーンに関わってきた。そしてブロックチェーン製品開発企業、ブロックチェーンをビジネスに統合する企業、政府機関を支援するブロックチェーン開発エージェントとしてLabrysを2017年に立ち上げた。
一時期、ブロックチェーンが過剰に取り上げられて多くのエージェントがブロックチェーンを扱ったが、その多くはモバイルアプリの構築などに戻っていった。当社はブロックチェーンのみを扱い、今も続けている。
――例えば、ブロックチェーンを使わなくてもできることがあります。しかし“ブロックチェーンはクールだ”という理由でブロックチェーンが導入されることがよくあります。
フィーニー氏:それは正しい指摘だ。問題の一部は、ブロックチェーンについての教育に大きな格差があることだ。ブロックチェーンを“銀の弾丸”(特効薬)のように考えている人の多さがそれを表している。
ブロックチェーンが極めて優れているのは、信頼と分散に関して、他の技術を上回るイノベーションを生み出す点だ。ブロックチェーンはさまざまなエンティティー間にデジタルトラスト(信頼)を生み出す。ご指摘の通り、ブロックチェーンを使う必要のないソリューションやITシステムはたくさんある。そのため、ブロックチェーンが何に役立ち、何に役立たないかについて企業に伝える必要がある。
Labrysは、顧客がビジネスのどこにブロックチェーンを適用できるかを見極められるよう支援する。市場にはブロックチェーンの教育を専門とするスタートアップ企業が入り込む余地はまだある。
――無意味なところにブロックチェーンを使うという考えを正しい方向へ導かなければならなかった例があれば教えてください。
フィーニー氏:ブロックチェーンは従来のセキュリティ技術よりも安全だとよく誤解される。この誤解は、ブロックチェーンは変更不可能な技術なのでブロックチェーンのデータは変更できないという感覚から生まれる。
ブロックチェーンは「データをボルトにロックしてハッカーがアクセスできないようにするため非常に安全だ」と考える人々がいる。
ブロックチェーンは情報を可能な限り広範に公開することで不変性を実現するものなので、秘匿性の観点では安全とは言えない。ブロックチェーンが実現しようとしているのはセキュリティではない。多くの場合、従来のセキュリティ対策の方がはるかに優れている。金融データや医療データをロックしたり隠したりする用途にブロックチェーンは適していない。データを変更されないようにするユースケースにはブロックチェーンが適している。
――成功しているブロックチェーンプロジェクトの多くはサプライチェーンと金融サービスに関連しているようです。ブロックチェーンはサプライチェーンの可視性を獲得し、金融取引を促進するためにそれぞれ使用されています。
フィーニー氏:プロジェクトの大部分が金融分野にあるのは間違いない。少し前はサプライチェーンのプロジェクトが多かった。新たな分野は、非代替性トークン(NFT:Non Fungible Token)、つまりブロックチェーンが作成する真正性の証明書を備えたデジタルオブジェクトだ。
Labrysが現在取り組んでいるのは、脚本家向けのNFTマーケットプレースだ。脚本家が映画脚本を公開して資金を調達し、脚本の背後にいるアーティストが取引の適切な取り分を獲得する。
NFTの分野では、考えられないようなことがたくさん起きている。クリエイティブ業界を改善し、アーティストにとって有利な取引にするというのは素晴らしいコンセプトだ。このようなことはもっと増えていくと考えている。
――ブロックチェーンの導入を促す上で、政府は重要な役割を果たすと考えますか。
フィーニー氏:例えばオーストラリア政府は、ブロックチェーンのロードマップを発表している。政府はブロックチェーン業界の大きな支えになっており、ブロックチェーンによってコンプライアンスの負担を軽減できるソリューションに少額ながら資金を投じている。だが最終的にブロックチェーンを実現するのは、ネットワークを構築するために集まった業界グループやリーダーたちだ。ただし、こうしたシステムとネットワークを運用できるようにするため、適切なフレームワークを政府が用意しなければならないのは間違いない。
後編では、引き続きフィーニー氏へのインタビューを通してブロックチェーンの課題やブロックチェーンとセキュリティの関係を整理し、正しいブロックチェーン利用の在り方を紹介する。
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