なぜIKEAは「オムニチャネル」を採用し、販売をどう変えたのか?デジタル顧客体験向上のために

IKEAのフランチャイズ加盟企業が、チャットbotや会話型コマース、リモートでのデザインプランニングサービスなどの機能を活用し、デジタル顧客体験の向上に取り組んでいる。その具体的な中身とは。

2023年09月01日 05時00分 公開
[Aaron TanTechTarget]

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 スウェーデン発の小売業者IKEAは、自宅の家具をそろえるための豊富なアイデアを提供してくれる整然とした店舗で知られている。同社はデジタル化の推進と変化する消費者の期待に応えるため、オムニチャネル(さまざまな接点を通じて顧客とコミュニケーションを取る手法)の体験価値の向上に力を入れている。

 オムニチャネルに注力する理由の一つとして、時間に追われる消費者が家具を購入する際、以前より多くのサポートを求めるようになっていることがある。Ikano Retailでマレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、メキシコの顧客ケアセンターマネジャーを務めるアレックス・ソリマン氏によれば、顧客は依然としてIKEAの店舗に足を運びたいと考えている。一方で顧客は、これまで通りの低価格を享受しつつ、時間を節約するためにデジタルチャネルの利用も検討している。Ikano Retailは、世界に12拠点あるIKEAフランチャイズ加盟企業の一つであるIkanoグループの小売部門だ。

顧客の期待に応えるためのIKEA式のデジタル化

 IKEAの顧客向けにIkanoが提供する機能の一例として、ソリマン氏は以下を挙げる。

  • モバイルチェックアウト(レジに並ばずに商品を購入できる仕組み)
  • 注文追跡
  • ソーシャルメディアを通じた対話型サポート
  • リモートでのデザインサポート

 「これらは一例に過ぎず、顧客の期待に応えるには、適切なデジタル基盤を持つ必要がある」と同氏は語る。

 Ikanoは最近、自社の顧客サービス部門と配送業者との間のコミュニケーションを改善するためにリアルタイムチャットシステムを採用した。顧客の注文追跡がしやすくなったことで、これまで別々のコミュニケーションツールを使っていたために直面していた情報のサイロ化(孤立した状態になること)という課題を軽減することができた。

 シンガポール、フィリピン、マレーシア、メキシコでは、メッセージングアプリケーションの「WhatsApp」と「Messenger」向けのチャットbotを導入し、顧客に製品情報やよくある質問への回答を提供している。タイでも、同国で主流となっているメッセージングアプリケーション「LINE」向けに同様のサービスを提供する計画だ。

 「顧客が必要な情報を見つけにくいという課題は認識している。もう少し簡単にする方法を検討中だ」とソリマン氏は語る。例えば、どこを見たらいいのか分からずに10回画面をクリックするのではなく、1、2回クリックするだけで必要な画面にたどり着けるようにするための改善策を講じる。

 Ikanoの顧客サービス部門に寄せられる電話の30〜40%が配送状況に関する問い合わせだ。注文した商品がいつ届くかを顧客に対して可視化できるようにするには、まだまだ改善の余地がある。

 同社はAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)をバックエンドのシステムと統合した。これによりリアルタイムの配送状況を確認できる。会話型コマース(ITを活用し顧客との会話型コミュニケーションを図る手法)などの、収益につながる活動に従業員を集中させることもできている。

 「これまでは欠品した商品がいつ再入荷されるかを顧客に伝え、帰ってもらうことがたびたびあった」とソリマン氏は説明する。今後同氏が期待を寄せるのは、より提案型の販売ができるようになることだ。「顧客が求める商品の在庫がないとき、10ドルほど高いものの、検討してもらえる別の商品があると伝えて、商品ページへのリンクを送り、顧客の端末で見てもらうこともできる。その場ですぐ購入を手伝えたら、もっと喜んでもらえる」(同氏)

 このような会話型コマース体験を可能にするために、「散在するデータ」を複数の異なるシステムで参照するのではなく、顧客が見やすい1つの画面、1つのシステムに統合する必要があるとソリマン氏は語る。

 これを実現するため、IkanoはSprinklrと契約した。Sprinklrは、チャットbotと顧客サポート機能を提供するクラウドベースの統合CXM(顧客体験管理)ツールを提供する。ナレッジマネジメント(知識の管理と共有)機能とワークフォースマネジメント(WFM:人的資源管理)機能はこれから実装する。

 「Sprinklrのおかげで、従業員のシングルサインオン(SSO)を含め、さまざまな機能を1つのツールで利用できるようになった」とソリマン氏は語る。今後は事業を展開する全ての市場で、従業員のスケジューリングと最適化のためにWFMのようなツールを導入する計画だ。ナレッジマネジメントやワークパス(商談成立への道筋)構築に取り組む構想もある。「従業員がすぐに情報を入手できるようになることで、顧客により良い体験を提供できる」(同氏)

 優れた顧客体験を提供できるかどうかは、ERP(統合基幹業務システム)など、バックエンドのシステムの機能にも左右される。ソリマン氏によると、Ikanoは旧来のERPをMicrosoftの「Dynamics 365」に変更し、需要予測の改善、コストの削減、在庫精度の向上を実現したという。「在庫精度は常に難しい課題であり、誰もが触れたくないと思っている。とはいえ優先すべき課題だ。在庫がある商品しか売れないのだから」(ソリマン氏)

 同社はまた、独自の企業データ基盤を構築中だ。レポート作成機能を向上させ、より優れた分析と顧客インサイトを得るために前進している。「当社は、データ基盤を強化して業務やマーケティングの効率を上げるだけでなく、より適切でパーソナライズされた体験を提供し、顧客体験を向上させている」とソリマン氏は語る。

 その取り組みの一環で、同社は「リモートプランニング」というサービスも提供する。タイ北部のチェンマイなどの都市にいる顧客の中には、例えばキッチンを充実させたくても、600キロほど離れたバンコクにあるIKEAの店舗には行けない人もいる。リモートプランニングは、そうした顧客のニーズを狙う。

 Ikanoが目指すのは、顧客が次のようなことを容易にできる“オールインワン”のサービスだ。

  • 部屋のデザインについて良いアイデアが得られる
  • 来店予約を確実に取れる
  • キッチンのスペシャリストとバーチャルでつながれる
  • 購入前にフォローしてもらえる

 「顧客は、全てのサービスを1つの場所で受けられるようになる」とソリマン氏は語る。

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