企業向け「ChatGPT Enterprise」は無料版ChatGPTと何が違う?ビジネスに使える生成AIなのか

OpenAIは企業向けのChatGPTを2023年8月に発表した。従来の一般消費者向けChatGPTとは何が違うのか。ビジネスにおけるLLM活用の動向と併せて紹介する。

2023年10月18日 05時00分 公開
[Esther AjaoTechTarget]

 テキストや画像を自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の利用が急速に広がる中で、企業にとってはプライバシーや著作権の侵害などが懸念となっている。AIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)の「ChatGPT」を提供するAIベンダーOpenAIは、生成AI関連のリスク低減に取り組んでいる。その一つが、同社が2023年8月に発表した企業向けのChatGPT「ChatGPT Enterprise」だ。

「ChatGPT Enterprise」とは? 従来版との違い

会員登録(無料)が必要です

 ChatGPTが一般消費者向けの無料サービスなのに対し、ChatGPT Enterpriseは企業向けの有償サービスで、データ保護やセキュリティを強化している点が特徴だ。ChatGPT Enterpriseのユーザー企業は、特定のデータにアクセスできるユーザー範囲や、データの保存期間を管理できる。OpenAIによると、ユーザーが入力したデータは転送中および保存中に暗号化され、同社のサービス品質向上には使用されない。

 従来、OpenAIは無償のChatGPTと、ユーザー1人当たり月額20ドルの「ChatGPT Plus」を提供し、段階的なアップデートを実施してきた。2023年8月には回答生成時に考慮すべき設定や要件を追加できる機能「Custom instructions」を無料版で提供開始し、同年7月には画像やファイルなどテキスト以外も分析できる機能「Code Interpreter」の提供を有償版で始めた。

 その前には、「iOS」や「Android」などモバイルOS向けのChatGPTアプリケーションを公開した他、ChatGPTのチャット履歴をオフにする設定や、ChatGPTとの会話内容をAIモデルの訓練や改善に使用することを許可するか否かを選べる機能を追加した。

 OpenAIは、「ChatGPT Enterpriseの提供を通して、ユーザー企業で働く従業員のコーディングやデータ分析業務を支援する」と説明する。

ChatGPT Enterpriseが利用するLLM「GPT-4」

 調査会社Gartnerでアナリストを務めるジム・ヘア氏は、ChatGPT Enterpriseについて前向きに評価しつつも、OpenAIは依然として複数の懸念に対処する必要があると指摘する。懸念の一つが、ChatGPT Enterpriseが使用するOpenAIの大規模言語モデル(LLM)「GPT-4」だ。GPT-4の訓練に使用するデータセットの詳細はいまだ不明となっている。LLMの訓練に著作権の保護対象となるデータが使われているのではないかという懸念が存在し、OpenAIに対して訴訟を起こす企業もある。リスクを嫌う企業はChatGPT Enterpriseの導入に否定的な傾向がある。

 加えて、LLMにはハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)や、事実とは異なる回答を生むリスクがある。特にカスタマーサービスのような顧客応対業務や、顧客が直接対話するチャットbotにLLMを使う場合、この点は懸念材料となる。

 「企業にとってChatGPT Enterpriseの導入を検討する価値はあるが、自社の課題の全てを解決してくれる“万能の存在”と捉えるべきではない」とヘア氏は警告する。OpenAIはChatGPT Enterpriseの価格体系を公開しておらず、この点についても同氏は懐疑的だ。

企業における今後のLLM活用

 課題は残るものの、ChatGPT Enterpriseは企業が生成AIを導入するきっかけとなり得る。Microsoftはクラウドサービス群「Microsoft Azure」でOpenAIのAIモデルを使用できるサービス「Azure OpenAI Services」を提供している。ChatGPT Enterpriseの登場により、LLM導入を検討する企業は新しい選択肢を持つことになった。

 ChatGPTや、Googleの「Bard」のようなAIチャットbotが話題になっているが、今後のトレンドは業務領域(ドメイン)特化型に移行するとヘア氏は見込む。例えばマーケティングや販売、カスタマーサポートといった、特定業務向けに設計されたAIモデルだ。

 OpenAIは、データアナリストやマーケター、カスタマーサポートのオペレーターといった特定職種向けのツール開発に取り組み、ChatGPT Enterpriseに機能を追加すると表明している。「今後、企業は自社の業界やビジネス体系に特化したAIモデルを構築するベンダーを選ぶようになる」とヘア氏は予測する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

技術文書・技術解説 Asana Japan株式会社

AI導入の現在地:知っておくべき6つのメリットと「2026年問題」とは?

労働力不足の解消や生産性の向上など、多くのメリットが見込める、職場へのAI導入。一方、LLM(大規模言語モデル)の学習データが枯渇する「2026年問題」が懸念されている点には注意が必要だ。それによる影響と、企業が取るべき対策とは?

市場調査・トレンド Asana Japan株式会社

AI活用がカギ、最新調査で読み解く日本企業がイノベーションを推進する方法

現代のビジネス環境下で企業が成長を続けるには「イノベーション」の推進が不可欠だ。最新調査で明らかになった日本企業におけるイノベーションの現状を基に、イノベーション推進の鍵を握るAI活用やベロシティ向上の重要性を解説する。

製品資料 SB C&S株式会社

ワンランク上の「AI+PDF」活用、生産性・効率を飛躍的に向上させる秘訣

今やビジネスを中心に、多様な場面でやりとりされているPDF。このPDFをより便利にするためには、文書の能動的な活用がポイントとなる。本資料では、アドビの生成AIを用いながら生産性や効率を飛躍的に向上させる活用方法を紹介する。

製品資料 AvePoint Japan株式会社

生成AIの落とし穴、“過剰共有”のリスクと防止策

適切に生成AIを使いこなすために、情報には「共有範囲」を設定することが重要となるが、管理が不十分だと“過剰共有”の状況が発生する。過剰共有は社内での情報漏えいにつながる可能性もあるため、十分な対策が必要となる。

製品資料 東京エレクトロン デバイス株式会社

生成AI活用の鍵、セキュリティと利便性を両立するための方法とは?

生成AIの活用には機密情報漏えいなどのリスクがあるため、利用を制限しているケースもある。しかし、完全に利用を制限してしまうと競合に後れを取る可能性がある。そこで重要なのが、セキュリティと利便性を両立できるような環境構築だ。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...