OpenAIは企業向けのChatGPTを2023年8月に発表した。従来の一般消費者向けChatGPTとは何が違うのか。ビジネスにおけるLLM活用の動向と併せて紹介する。
テキストや画像を自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の利用が急速に広がる中で、企業にとってはプライバシーや著作権の侵害などが懸念となっている。AIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)の「ChatGPT」を提供するAIベンダーOpenAIは、生成AI関連のリスク低減に取り組んでいる。その一つが、同社が2023年8月に発表した企業向けのChatGPT「ChatGPT Enterprise」だ。
ChatGPTが一般消費者向けの無料サービスなのに対し、ChatGPT Enterpriseは企業向けの有償サービスで、データ保護やセキュリティを強化している点が特徴だ。ChatGPT Enterpriseのユーザー企業は、特定のデータにアクセスできるユーザー範囲や、データの保存期間を管理できる。OpenAIによると、ユーザーが入力したデータは転送中および保存中に暗号化され、同社のサービス品質向上には使用されない。
従来、OpenAIは無償のChatGPTと、ユーザー1人当たり月額20ドルの「ChatGPT Plus」を提供し、段階的なアップデートを実施してきた。2023年8月には回答生成時に考慮すべき設定や要件を追加できる機能「Custom instructions」を無料版で提供開始し、同年7月には画像やファイルなどテキスト以外も分析できる機能「Code Interpreter」の提供を有償版で始めた。
その前には、「iOS」や「Android」などモバイルOS向けのChatGPTアプリケーションを公開した他、ChatGPTのチャット履歴をオフにする設定や、ChatGPTとの会話内容をAIモデルの訓練や改善に使用することを許可するか否かを選べる機能を追加した。
OpenAIは、「ChatGPT Enterpriseの提供を通して、ユーザー企業で働く従業員のコーディングやデータ分析業務を支援する」と説明する。
調査会社Gartnerでアナリストを務めるジム・ヘア氏は、ChatGPT Enterpriseについて前向きに評価しつつも、OpenAIは依然として複数の懸念に対処する必要があると指摘する。懸念の一つが、ChatGPT Enterpriseが使用するOpenAIの大規模言語モデル(LLM)「GPT-4」だ。GPT-4の訓練に使用するデータセットの詳細はいまだ不明となっている。LLMの訓練に著作権の保護対象となるデータが使われているのではないかという懸念が存在し、OpenAIに対して訴訟を起こす企業もある。リスクを嫌う企業はChatGPT Enterpriseの導入に否定的な傾向がある。
加えて、LLMにはハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)や、事実とは異なる回答を生むリスクがある。特にカスタマーサービスのような顧客応対業務や、顧客が直接対話するチャットbotにLLMを使う場合、この点は懸念材料となる。
「企業にとってChatGPT Enterpriseの導入を検討する価値はあるが、自社の課題の全てを解決してくれる“万能の存在”と捉えるべきではない」とヘア氏は警告する。OpenAIはChatGPT Enterpriseの価格体系を公開しておらず、この点についても同氏は懐疑的だ。
課題は残るものの、ChatGPT Enterpriseは企業が生成AIを導入するきっかけとなり得る。Microsoftはクラウドサービス群「Microsoft Azure」でOpenAIのAIモデルを使用できるサービス「Azure OpenAI Services」を提供している。ChatGPT Enterpriseの登場により、LLM導入を検討する企業は新しい選択肢を持つことになった。
ChatGPTや、Googleの「Bard」のようなAIチャットbotが話題になっているが、今後のトレンドは業務領域(ドメイン)特化型に移行するとヘア氏は見込む。例えばマーケティングや販売、カスタマーサポートといった、特定業務向けに設計されたAIモデルだ。
OpenAIは、データアナリストやマーケター、カスタマーサポートのオペレーターといった特定職種向けのツール開発に取り組み、ChatGPT Enterpriseに機能を追加すると表明している。「今後、企業は自社の業界やビジネス体系に特化したAIモデルを構築するベンダーを選ぶようになる」とヘア氏は予測する。
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