iPhoneユーザーはだまされる? iOSに「機内モードの穴」見つかるiOSを危険にさらす新たな手口【中編】

「iOS」搭載デバイスで「機内モード」をオンにすると、通常はネットワークから遮断される。ところが研究者チームが実験で生み出した「偽の機内モード」ではオンラインのままになるという。どのような手法なのか。

2023年11月01日 07時00分 公開
[Alex ScroxtonTechTarget]

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 「機内モード」は、モバイルデバイスを無線LANやモバイルネットワークから遮断し、接続できなくする機能だ。Appleの「iOS」搭載デバイスの機内モードを悪用する攻撃手法を、Apple製デバイス管理ツールベンダーJamfの研究チームJamf Threat Labsが発見した。その攻撃手法は「機内モードであってもインターネットに接続できる」状況を作り出せるという。どのような仕組みなのか。

iPhoneユーザーをだます「偽機内モード」の仕組み

 iOS搭載デバイスにおいて、機内モードの切り替えを実行するのは、「SpringBoard」と「CommCenter」という2つのソフトウェアだ。SpringBoardはユーザーインタフェース(UI)の視覚的な要素を制御する。CommCenterはネットワークインタフェースを制御する。

 研究者は、標的デバイスのコンソールログから「#N User airplane mode preference changing from kFalse to KTrue」という文字列(エンドユーザーが機内モードをオンにしたことを表す)を見つけ、この文字列を参照するプログラムのソースコードを突き止めた。ここから機内モードを操作するためのソースコードを発見し、関数を書き換えることで、「偽機内モード」を作り出すことができた。これは「内部的には機内モードがオンになっているが、実際にはデバイスがインターネットに接続している」状態を作り出したということだ。

 次に研究者はUIの偽装に着手するため、数行のソースコードを挿入した。これにより、「モバイル通信」のアイコンの色を暗くしてオフラインに見せかけ、機内モードのアイコン(飛行機のアイコン)の色を明るくすることができた。

 機内モードがオンになっているときにWebブラウザ「Safari」を開くと、通常は「Webサイトを閲覧するには機内モードをオフにするか、無線LANを使う必要がある」といった旨のメッセージが表示される。一方で研究者の実験においては、デバイスはオンライン状態のままであるため、無線LANかモバイルネットワーク、または無線LANのみを使ってSafariを使用可能にするかどうかを尋ねるメッセージが表示された。

 攻撃を実行するには、この表示問題に対処すべきだとJamf Threat Labsは考えた。そのため同チームは、モバイルデータ通信にはつながっていないとエンドユーザーに感じさせる方法を編み出そうとした。CommCenterを悪用し、特定のアプリケーションがモバイルデータ通信を利用できないようにすることに加え、機内モードを不正に呼び出して偽装する手順を踏んだ。こうすることで、実際に表示されるはずのメッセージではなく、機内モードをオフにするよう求めるメッセージが表示される状況を作り出した。

 内部では機内モードをオンにしないまま、Safariのインターネット接続を切断するためにJamf Threat Labsが使用したのがSpringBoardだ。iOSでは、カーネル(OSの中核ソフトウェア)が機内モードをオフにする要求をCommCenterに送る。その後CommCenterは、SpringBoardにその要求を通知する。通知を受け取ったSpringBoardは、機内モードをオフにすることを求めるメッセージを画面に表示するという流れだ。

 Jamf Threat Labsが発見したのは、CommCenterがアプリケーションのモバイルデータ通信利用状態を記録するデータベースファイルを管理していることだった。モバイルデータ通信に接続できないアプリケーションは、CommCenterが特定のフラグを割り当てていることも判明した。同チームはこれらの仕組みとデータを利用して、アプリケーション単位で無線LANやモバイルデータ通信への接続許可またはブロックを設定することに成功した。

 Jamf Threat Labsで戦略担当バイスプレジデントを務めるマイケル・コビントン氏によると、チームはこれらを取りまとめ、偽の機内モードが本物と同様に動作しているとエンドユーザーに思い込ませる攻撃手法を完成させた。

 「この攻撃手法は、デバイスをエンドユーザーの直感とは逆の状態にすることで、攻撃者の行動を隠蔽(いんぺい)する」とコビントン氏は指摘する。これにより攻撃者は、エンドユーザーに録画ないし録音中であることを疑われずに、エンドユーザーやモバイルデバイスの状態をインターネット経由で監視可能になる。攻撃者が他のエクスプロイト(脆弱性悪用プログラム)群を通じてモバイルデバイスの制御を握った後に、今回見つかった手法を用いてインターネット接続を維持できるようにする流れも考えられる。

 コビントン氏の見立てでは、この攻撃手法は脆弱(ぜいじゃく)性に起因するものではない。そのため「Appleへの開示義務はない」と同氏は話す一方で、Jamf Threat Labsは今回の調査結果を同社に報告した。原稿執筆時点で、コビントン氏は同社からのコメントは受け取っていないという。


 次回は、攻撃者が偽の機内モードをどう悪用する可能性があるのかを考える。

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