FinOpsは、クラウドサービスを利用する企業のコスト管理手法として注目を集めている。これを実践するにはどうすればいいのか。そのポイントを専門家に聞いた。
企業のクラウドサービスのコスト管理に「FinOps」を採用する必要性が増している。FinOpsは複数のクラウドサービスの支払い内容を一元化して可視化し、IT部門と財務部門、事業部門が連携してクラウドサービスのコスト管理に取り組む手法を指す。
ある専門家は、FinOpsは担当者1人からでも始められると説明する。FinOpsとはどのようなコスト管理の手法で、具体的にはどう進めればいいのか。クラウドサービスの専門家4人に、そのポイントを聞いた。
クラウドサービスが登場する以前、大企業はプロジェクトの監視や新規プロジェクトの投資対効果を検討するための“運営委員会”を積極的に組織していた。企業のクラウドサービスの利用が進むと、こうした組織は「不要な官僚主義がイノベーションの障害になる」と見なされ、解散させられた。一方で中堅・中小企業の場合において、クラウドサービスが登場する以前から運営委員会はそれほど価値のあるものではなかった。
FinOpsは、あらゆる規模の企業が実践できる手法だ。FinOpsはイノベーションに悪影響を与えることなく、クラウドサービスの望ましくない利用を制限したり、コスト管理を徹底したりすることを可能にする。FinOpsは、フルタイムの担当者が1人いれば実現する。FinOpsチームの他のメンバーは、日常業務をこなしながら、割り振られた仕事をすればよい。
一般的にはクラウドサービス用のコスト可視化ツールを導入し、FinOpsチームが全てのクラウドサービスのコストを確認できるようにする必要がある。こうしたFinOpsの導入にかかる費用は、数カ月で元が取れる。複数のクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」や、クラウドサービスとオンプレミスインフラを併用する「ハイブリッドクラウド」など、インフラ構成が複雑になるほど、コスト削減の対象を発見できる可能性は高くなる。
クラウドサービスを利用する企業は、いつかはFinOpsの実践に取り組む必要が生じるだろう。クラウドサービスのコスト削減を大きな問題として捉えるのであれば、効率的なクラウドサービスの運用方法を模索するのは自然な流れだ。
ITインフラの大部分がオンプレミスに残る企業は、FinOpsの実現が難しくなる。なぜならコスト管理の機会が、約5年ごとに発生するインフラのアップグレードや交換に伴う大規模な設備投資に限られるからだ。そうなれば変化する需要に素早く答えられず、企業のイノベーションの能力は低下する。
FinOpsのためのツールの利用方法を理解しているか、ツールの存在を認識しているかどうかが、FinOpsに適した企業とそうでない企業を分ける鍵となる。クラウドサービスの利用に満足している企業や、さまざまなクラウドサービスを利用している企業は、FinOpsを活用する可能性が高い。
FinOpsは、ツールというよりも、企業文化やプロセスの変革だ。そのため単純にツールを導入すればクラウドサービスのコストの透明性が高まるというわけではない。企業はその点に留意する必要がある。
FinOpsは企業のシステムに関する取り組みであると同時に、企業文化を変えるための取り組みでもある。FinOpsに取り組む企業はまずコスト管理ツールを使い、財務ガバナンスのためのダッシュボードを構築する。企業はそれを使い、よく利用するクラウドサービスを特定し、コスト削減の方法を模索する。
システム改善のためのそうしたプロセスと並行して、企業文化の変革のためのプロセスを進めることが必要だ。ほとんどの企業の従業員はコスト削減のための方策を望んでいるが、必要な情報を持っていない。よりコストを抑えた業務アプリケーションの構築方法や利用方法について従業員同士で話し合い、業務アプリケーションの正しい使い方を企業の文化に浸透させることが重要になる。そのためにはまず実行中の各アプリケーションのコストを示し、その中で最もコストのかかるクエリを特定して、従業員に知らせることから始めるとよい。
FinOpsは、何にどのようなコストがかかっているかを理解するためのインサイト(洞察)を提供する。FinOpsなしには、効率的な事業への投資やモダナイゼーションは実現しない。
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