クラウドサービスを利用する企業の悩みとして顕著になってきているのが、コストの肥大化だ。コストを最適化する手法として企業は「FinOps」に注目し始めているが、その実践は容易ではない。何が必要なのか。
クラウドサービスを利用する企業が注目し始めている用語に「FinOps」がある。これを実践することで、企業はクラウドサービス関連の契約やコストの管理を改善できるようになる。FinOpsは「Finance」(財務)と「DevOps」(開発と運用の融合)を組み合わせた造語だ。
NHS Digital(NHS:英国の国民保険サービスでIT活用の司令塔となる組織)はFinOpsを実践し始めた組織の一つだ。FinOpsの責任者を務めるクリストファー・スクイブ氏によるとFinOpsは同組織にかなりのコスト削減をもたらしたが、その実践は容易なものではなかった。
NHS Digitalはインフラ選定時にクラウドサービスを第一候補として考える「クラウドファースト」の戦略を採用している。ただしクラウドファーストには欠点もある。スクイブ氏は「クラウドサービスを複数採用した場合、コストへの影響を正確に把握することは困難だ」と指摘する。
「オンプレミスでシステムを構築していた時は、初期費用と継続的な費用を正確に把握できた。クラウドファースト戦略を採用したことで、総コストの把握が難しくなった」(スクイブ氏)。その状況を受けてNHS DigitalはFinOpsの実践に乗り出し、「数十万ポンドの節約につながっている」と同氏は話す。
FinOpsとして、NHS Digitalはクラウドサービスに関する全てのコストと利用状況を一元的に把握できるようにした。ただし、これは一朝一夕に実現するものではない。FinOpsを実現するには、企業文化の変革と、組織の統合が鍵となる。
業界団体FinOps Foundationの調査レポート「The State of FinOps 2023」によると、企業はFinOpsを実践する際、エンジニアを協力させることに苦労している。
ITインフラサービスプロパイダーKyndrylのグローバルクラウドプラクティスリーダーであるハリシュ・グラマ氏は、FinOpsとは「コスト意識の高い企業文化の醸成」だと表現する。
FinOpsにおいては、財務的な説明責任が重要になる。それを明確にするために、まずはIT部門と財務部門、ビジネス部門が一同に集まる機会を持つべきだとグラマ氏は助言する。「FinOpsは単なるコスト削減ツールではない。全ての従業員が効果的に働くことと、コストの最適化を可能にする、従来とは全く異なる運用方法だ」(同氏)
次回はFinOpsを実践するための課題や方法を説明する。
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