企業のITインフラで意外と悩ましいのが電源の問題だ。ルーターやスイッチなどさまざまなハードウェアを電源の近くに設置する必要がある。PoEはこうした問題を解決できる可能性がある。
電力供給規格「PoE」(Power over Ethernet)はLANの配線に用いるイーサネットケーブル(LANケーブル)を使用して電力を供給する技術であり、コンセントやアダプターがなくともPoE準拠のデバイスに継続的に給電が可能だ。音声やビデオ、文字など複数のコミュニケーション手段を統合して提供するユニファイドコミュニケーション(UC)を支えるインフラに、PoEを導入することで複数のメリットが見込める。なぜなのか。
PoEのデバイスには給電機器(PSE)と受電機器(PD)の2種類がある。以下に示すのは、UCツールを使う場合のPSEとPDの例だ。
UCのインフラにPoEを利用するメリットは以下の通りだ。
スプリッタやPoEインジェクター(PoE非準拠の装置にPoE機能を追加する装置)を利用すれば、PoEに準拠していないデバイスもPoEネットワークに接続できる。この特性は、企業のLAN設計を改善してシステム負荷を低減するのに役立つ。
PoEを導入した場合、電力とデータを単一のケーブルで転送できるため、追加の電気配線や充電ポイントを社内に設置する必要がなくなる。
PSEは、デバイスに供給可能な電力を自動検出し、過剰な電力損失を回避する機能を備える。ダウンタイム(故障時間)を抑えるために、PoEに準拠したスイッチ(以下、PoEスイッチ)には通常のデータ転送に用いるダウンリンクポートに加えて、さまざまな他ポートと通信できるアップリンクポートが用意されている。
PoEスイッチには、ネットワークに接続しているデバイスを管理する機能が搭載されているものがある。その機能によって、リモートからネットワークの死活監視やスケジューリングなどが可能となる。こうした機能を利用することで、ネットワークとネットワーク内のデバイスを一元的に管理可能だ。PoEに準拠したアンマネージドスイッチ(複雑な管理機能がないスイッチ)もある。
UCツールにPoEを導入すると、ネットワーク設計の自由度が増す。PoEネットワークに接続するデバイスは、ソケット、充電ポイント、電源の有無の影響を受けないためだ。停電時もPoEに準拠しているデバイスの電源をオフにすれば電力は無駄に消費されず、機能を停止しているデバイスには監視機能によって電力が供給されないため、より安全にデバイスの復旧ができる。
PoEスイッチ自体の電力は、一般的なスイッチと同様に交流(AC)電源から取る。その電力の干渉を避けるために直流(DC)に変換し、LANケーブルで配下のネットワーク機器に届ける。
PoEのDCの電源出力は15.5~90ワットで、選択する規格によって異なる。安全性を確保するため、PoEでは電力を供給し始める前にPSEがテスト用の電気をPDに送り、PDの電力レベルを確認してからそれに合わせて給電する。そのため、余分な電力の消費を抑えることができる。
PoEを導入しても、企業のセキュリティに直接の影響はない。しかし、PoEに準拠したデバイスは比較的新しい時期に開発されたデバイスであるため、結果的にセキュリティ上の脆弱(ぜいじゃく)性が少ない傾向にある。さらにセキュリティ対策用ツールとも連携がしやすい傾向にある。
UCの管理者は、規格、ポート数、ネットワークを届ける範囲、電力、ケーブル当たりのコストなど、複数の要因に基づいて予算を策定する。PoEを使用すれば、追加の電源ケーブルや関連デバイスを設置する必要がなくなり、消費エネルギーとコストの両方を抑えることができる。
企業はUCでPoEを使用するという選択を、リモートオフィスや停電が頻発生する地域、電力供給が難しい場所(遠隔地、高地、水域の近く、へき地など)で特に重宝する。PoEは企業のインフラ移行作業に伴うコストの削減にも役立つ。
次回はPoEを導入するデメリットについて解説する。
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