「ITエンジニア35歳限界説」なんて気にしない――あのスキルがあれば現代の企業が求めるエンジニア像

レイオフや大量退職など、IT業界の雇用市場は激動の時代に突入した。年齢を重ねても雇用市場で優位に立つために、エンジニアが手に入れるべきスキルとは。

2024年07月05日 05時00分 公開
[Patrick ThibodeauTechTarget]

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 「修士号を取得して17年間ソフトウェアエンジニアとして働いたが、面接にさえたどり着けない」――。転職活動が難航している43歳の人物は、米国のソーシャルニュースサイト「Reddit」にこう書き込んだ。

 この投稿はRedditだけではなくX(旧Twitter)でも議論を巻き起こした。プロフィール写真を若く見せるように加工したり、年齢が分かる情報を削除したりする助言があった。エンジニアの転職市場に対する批判的な意見が目立った。

 だが一連の騒動は、エンジニアの雇用市場の一面を切り取ったものに過ぎない。企業が求める「理想のエンジニア像」は変化しつつある。今日、エンジニアには何が求められているのか。激動のIT業界でエンジニアが生き残るためには、何が必要なのか。

あのスキルがあれば「35歳限界説」など気にならない

 経済誌『Wall Street Journal』は2019年11月、IT認定資格の分野を主導する業界団体のCompTIAが同年に実施した調査を引用してIT業界の労働人口構成が若年層に偏っていることを報じた。人事(HR)ソフトウェアベンダーVisierが2017年9月に公開した調査レポート「Ageism in Tech」は、「IT業界の雇用活動には、慣行的な年齢差別が根付いている」と結論付けている。同レポートの調査対象者は米国の大手企業43社に勤める従業員33万人で、その内エンジニアは13社に勤める6万3000人だ。「管理職ではない、比較的年齢が高いエンジニアは、年齢や役職が同等の非エンジニアよりも常に高い評価を得ているとしても、再雇用される可能性は低い」と同報告書は指摘している。

 「IT業界では35歳以上の労働者が高齢と見なされている」ことを明らかにした研究結果もある。これは2021年発行の学術誌「Nordicom Review」に掲載された論文「Perceptions of age in contemporary tech」が結論付けたものだ。この研究では、IT業界に身を置く5カ国の労働者18人にインタビューした結果を分析している。

 一方で、マーケティング支援を手掛けるAlembic Technologiesの創業者兼CEOトーマス・プイグ氏は「当社には多くのポジションに空きがある。採用面接に忙殺されている」とXに投稿した。同社は人工知能(AI)技術を活用したソフトウェアやバックエンド(エンドユーザーには見えない部分の仕組み)の開発に関わるエンジニアを探しているという。

 米TechTargetの取材に対してプイグ氏は、企業が求めるAI人材は大きく分けて3つあると話す。1つ目は製品開発にAI技術を活用できる人材。2つ目はアルゴリズムを設計して実装できる人材。そして3つ目が「AI研究者」だ。「AI分野において、革新的なアルゴリズムやモデルを見つけ出したり、現在使われている技法を洗練させたりするための洞察力を備える研究者」を、同氏はAI研究者と定義する。

 プイグ氏は、適切なスキルを保有する人材にとっては、雇用市場は「極めて堅調」な状態にあると話す。労働市場調査会社Foote Partnersの共同創業者兼チーフアナリストのデービッド・フット氏もこの見解に同意する。一方で、レイオフ(一時解雇)をはじめとする失業の問題は「深刻な状態にある」とも指摘する。

 世界のIT企業の解雇状況を収集しているWebサイト「Layoffs.fyi」によると、2024年第1四半期(1〜3月)に失職したエンジニアは5万人を超えた。「IT企業は採用活動を継続する中で、AIスキル(AI技術に関するスキル)に加えてリーダーシップや共感力、謙虚さなどを含むソフトスキルを持つ人材を重点的に採用したいと考えている」。フット氏はこう指摘する。

 2024年2月にCompTIAが発表した内容によると、AIスキルを保有するエンジニア向けの求人広告は過去12カ月間で約20万件に達した。同団体の観測では、プレスリリース公開時点で、米国のエンジニア向け求人広告全体の10%以上をAI技術関連の広告が占めるようになっており、AIスキルを持つエンジニアの需要の高まりがうかがえる。

 CompTIAによると、AIスキルの需要がある分野は以下の通りだ。

  • データ管理
  • ITインフラの運用自動化
  • ソフトウェア開発
  • コーディング支援

 CompTIAの業界調査担当バイスプレジデントを務めるセス・ロビンソン氏は「あらゆる業界の経営者はAIスキルを持つエンジニアを求めている」と語る。労働市場調査会社Janco AssociatesでCEOを務めるビクター・ジャヌライティス氏も、「AIスキルを持たないエンジニアには厳しい雇用市場だ」と状況を説明する。

 「エンジニアがレイオフを受けた場合、企業の求めるスキルを習得するまでは再雇用に対する不安を抱え続けることになるだろう」。ジャヌライティス氏はこう続ける。

 CompTIAの最高調査責任者を務めるティム・ハーバート氏は、AIスキルへの期待がエンジニアの失業に拍車を掛けているとは考えていない。「企業は従業員にAI人材としてスキルアップしてほしいのであって、ただ辞めてほしいわけではないことがCompTIAの調査で分かった」と話す。

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