「仕事は人生の一部」はもう終わり? 生成AIで変わる労働者の価値観「生成AI時代」に仕事とどう向き合うか

生成AIが台頭する中で、労働者は仕事をどう捉え、生成AIとどう折り合いを付けているのか。生成AIは労働者の「仕事観」にどのような影響を与えているのか。その答えを調査レポートから読み解く。

2024年07月27日 05時00分 公開
[Patrick ThibodeauTechTarget]

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 テキストや画像を自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)が台頭する中、労働者は自身の仕事をどのように捉え、生成AIにどう向き合っているのか。コンサルティング企業Boston Consulting Group(BCG)が2024年6月に公開した調査レポート「How Work Preferences Are Shifting in the Age of GenAI」からは、この問いに対する興味深い答えが読み取れる。

 BCGは人事コンサルティング会社Network、投資会社StepStone Groupと共同で、2023年10月から12月にかけて88カ国の15万735人に対するWebアンケート調査を実施。労働者の仕事に対する考え方と生成AIに対する認識を調べた。

 同調査レポートの共著者で、BCGのアソシエートディレクターを務めるオルショーヤ・コバーチ・オンドレイコビッチ氏に、生成AIと仕事に関して気になる点を聞いた。労働者が担ってきた仕事に、生成AIはどのような影響を及ぼすのか。生成AIの影響が拡大する中で、労働者は仕事に何を求めているのか。

「仕事は人生の一部」はもう終わり? 生成AI時代の価値観とは

―― 調査レポートによると、求職者の60%以上は自身が雇用市場において有利な立場にあると信じています。この信念の根拠は何ですか。

オンドレイコビッチ氏 景気後退やレイオフ(一時解雇)に見舞われている国や地域もあるが、特に西欧諸国のIT業界では人材不足が続いているというのが一貫した見方だ。高齢化による労働人口の不足、企業が労働者に求めるスキルと労働者が持っているスキルの不一致を理由に、求職者は有利な立場にあると考えることができる。専門性の高い特定のスキルを持っている求職者は、特にそのような自信を持っている。われわれの見立ては、仕事がなくなるよりも人材が不足する可能性の方が高いというものだ。

―― 1946年から1964年に生まれた「ベビーブーム世代」の労働者の退職は、雇用市場に影響を与えていますか。

オンドレイコビッチ氏 人口が減少したり人口増加が停滞したりしている国、つまりほとんどの先進工業国に拠点を持つ当社の顧客は、人材が不足する時代が近づいていることを痛感している。

―― 調査の結果、労働者にとってワークライフバランスが最優先事項であることが分かりました。その理由は何だと思いますか。

オンドレイコビッチ氏 仕事を個人のアイデンティティーや人生の一部として位置付けていた退職者世代と比べて、現在の労働者の中での仕事の重要性は低下している。仕事はあくまで生活を支える手段であり、生活のために働くという考えだ。南アフリカや中東、北アフリカ地域といった新興市場では昇進の希望がうかがえるが、それでもワークライフバランスも最優先事項となっている。

―― 「雇用が安定しているかどうか」が労働者にとって最優先事項であることが分かりました。IT業界で広がるレイオフとどう折り合いを付けたらよいと考えますか。

オンドレイコビッチ氏 労働者は自分の仕事がなくなることを心配しているわけではない。労働者にとっては、その企業は自分を長く雇用するかどうか、新しいスキルを学ぶ機会を提供してくれるかどうかが重要だ。労働者が担ってきた仕事を自動化して労働者を解雇する企業より、従業員が新しいスキルを獲得する機会を提供する企業を支持する。

―― 調査によると、40%以上の労働者が生成AIを使用しています。インドやパキスタン、中国といった新興国ではこの割合がさらに高い傾向にあります。なぜ新興国では生成AIが人気なのですか。

オンドレイコビッチ氏 この傾向は予期していなかった。恐らく生成AIを積極的に使っている新興国では生成AIに対する規制がそれほど厳しくなく、警戒されてもいないことが考えられる。例えばドイツでは生成AIの活用は厳格に規制されている。先進国が数十年かけて成し遂げた変化を、新興国がある技術や理論を使ってわずか数カ月で起こす「リープフロッグ現象」を体現しているようだ。新興国ではデスクトップPCが行き渡っておらず、スマートフォンを使う傾向にある。デスクトップPCよりも身近なスマートフォンで生成AIを使っており、それが普及率の高さにつながっているのではないか。

―― 調査によると、生成AIに仕事を取って代わられることを恐れていると答えた回答者はわずか5%でした。なぜこうした低い割合になったと考えますか。

オンドレイコビッチ氏 調査では、今後5年間で生成AIが仕事に与える影響について尋ねた。5年より先を見据えた質問に比べると、期間の短さから不安を感じる回答者の数が少なくなった可能性はある。今回の調査は幅広い職種の人に回答を募ったが、高度なスキルを必要とするオフィス業務の人材に焦点を当てた調査では、仕事がなくなるという恐怖心を示す回答者が多くなる傾向にある。

―― この調査結果で最も驚いたことは何ですか。

オンドレイコビッチ氏 「雇用の安定性」の重要性が高まっていることだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)のさなかと比べて雇用の安定性が高まったにもかかわらず、人々はさらなる安定性を求めている。これはなぜなのか。唯一答えられるのは、生成AIが労働者の仕事を根本的に変える可能性があることを、人々が認識しているということだ。

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