SSD市場は販売が落ち込む大不況を経験した後、新たな局面を迎えようとしている。販売不振は“さらなる変化”の予兆でしかなかったのか。ストレージ業界で何が起きているのか。
SSDベンダーの販売は、2022年から2023年にかけて大きく落ち込んだ。その衝撃から冷めやらぬ2024年、SSD業界はまた激動の局面を迎えている。SSDが売れない“冬の時代”は、もう一つの変化への序章に過ぎなかったという見方が強まっている。SSD市場で何が起きているのか。
2022年はNAND型フラッシュメモリの市場が低迷し、価格が大きく落ち込んだ。調査会社Gartnerのアナリストであるジョセフ・アンズワース氏によると、背景にあったのは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)による影響だ。
パンデミックが発生した当初、在宅勤務が広がり、PCをはじめとした消費者向けの電子機器の需要が急増した。それと同時に、データセンター事業者やクラウドサービスベンダーはデータセンターのインフラを増強した。その反動が徐々に表れ、SSDとNAND型フラッシュメモリ市場の不況へとつながった。
アンズワース氏によると、データセンター事業者やクラウドベンダーはデータセンターへの投資を実施した後、インフラの無駄を削減した。既存のリソースを最大限活用できるようにした結果、データセンター事業者やクラウドベンダーは、SSDの調達を2023年に大幅に減らすことになった。一方の消費者市場では、PC特需の反動でPCの需要が低迷し、その結果としてNAND型フラッシュメモリの需要が大きく落ち込んだ。
NAND型フラッシュメモリの価格が大幅に下落した主な原因は、供給過剰ではなかったとアンズワース氏はみている。NAND型フラッシュメモリのベンダーは“無謀な供給拡大”を控えていた。価格の下落は供給過剰ではなく、NAND型フラッシュメモリの需要が落ち込んだことによるものだった。
ベンダーは生産を抑える対策を取った。キオクシアは2022年10月から当面の間、日本の四日市工場と北上工場において最大3割を削減する生産調整を実施すると発表した。Samsung Electronicsも、NAND型フラッシュメモリの生産量を2023年末までに50%削減することが明らかになった。「NAND型フラッシュメモリベンダーの営業利益は大幅に落ち込み、業界にとって最悪の年になった」とアンズワース氏は語る。
2023年から2024年にかけて、NAND型フラッシュメモリの市場に新たな動きがあった。テキストや画像などのデータを自動生成するAI(人工知能)技術である「生成AI」が台頭したことだ。生成AIの普及はストレージの需要を押し上げ、NAND型フラッシュメモリの業界はその恩恵を受けると考えられる。
NAND型フラッシュメモリは、消費者向けSSDと企業向けSSDの両方で使用されている。調査会社IDCのアナリストであるジェフ・ヤヌコビッチ氏によると、特に企業向けSSDの価格は上昇傾向にある。「2022年から2023年にかけてほとんどのSSDベンダーのSSDが実質的に赤字で販売されていたことを考えれば、2024年にNAND型フラッシュメモリの価格が上昇していることは大きな改善だ」(ヤヌコビッチ氏)
こうしてSSD市場が回復しつつある中、NAND型フラッシュメモリ業界の再編を予感させる動きが各所で起きている。キオクシアが2024年内に東京証券取引所での新規株式公開(IPO)を計画しているとの報道がある他、Western Digitalは2024年後半にHDD事業とSSD事業に分社化する方針を明らかにしている。
Samsung Electronics、Micron Technology、SK hynixなどもNAND型フラッシュメモリを手掛けるベンダーだ。一部のベンダーの事業再編の動きが業界の再編を促し、それによってSSDやNAND型フラッシュメモリの価格の変動に影響を与える可能性もある。その影響は未知だが、SSD業界が今後興味深い展開を見せることは間違いないと業界関係者はみている。
次回は、NAND型フラッシュメモリのベンダーが打ち出す株式公開(IPO)やスピンオフなどの事業戦略が、NAND型フラッシュメモリ業界にどのような影響を与えるのかを考える。
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