自然災害やパンデミックなど、想定外の事態下でも業務を継続できる企業とできない企業。その明暗を分けたのはテレワークの整備状況だということを、研究チームが突き止めた。BCPに組み込むべきテレワーク施策とは。
2024年10月に米フロリダ州を襲ったハリケーン「ミルトン」は甚大な被害をもたらした。自然災害への備えとして、テレワークがBCP(事業継続計画)の必須要素であることを浮き彫りにした形だ。
テレワークやハイブリッドワーク(テレワークとオフィスワークの組み合わせ)に抵抗を示す企業は存在する。一方で、ある研究結果からは、ITを活用したテレワークが危機的状況下での事業継続にメリットをもたらすことが明らかになった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック(世界的大流行)を分析したこの研究で、パンデミック前からテレワーク体制を整えていた企業、特に非必需品産業の企業は、テレワークの準備不足だった競合他社を大きく上回る業績を残したことが分かった。なぜテレワーク実施企業は危機を乗り越えられたのか。企業は事業継続のためにどのような準備をすべきなのか。研究結果から読み解いていこう。
ボストンカレッジ(Boston College)のセバスチャン・ステッフェン氏、マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)のワン・ジン氏、スタンフォード大学(Stanford University)のエリック・ブリニョルフソン氏などの研究チームは、「Digital Resilience: How Work-From-Home Readiness Affects Firm Performance」と題する論文を発表した。研究では2億件以上の米国の求人情報を分析し、パンデミック以前の企業におけるテレワークの準備体制指標を作成、評価した。その結果、指標が高い企業は売上高と純利益の面で好成績を収め、事業継続性を向上させることができていたという。
ステッフェン氏、ジン氏、ブリニョルフソン氏はいずれも経営分析とデジタル経済の専門家だ。研究チームは論文の中で、人事部門が混乱に備えるための施策と、BCPにテレワーク体制を組み込む重要性について提言している。
以下は、企業が自然災害からのレジリエンス(回復力)を高め、被害を最小限に抑えるために実践すべき4つの施策だ。論文の提言に基づいている。
どの職種がテレワークに最も適しているかを評価するとともに、テレワーカーの業務を支えるクラウドサービスやコラボレーションツールなどの重要ツールに投資する判断を下す。サービス業ではテレワークの恩恵を受けやすい一方、製造業では現場の復旧ツールや調整ツールが必要になるため、テレワークが適さない可能性がある。
オフィスワークとテレワークを必要に応じて切り替えられるハイブリッドワーク体制を構築しよう。天候に応じた出社ローテーションや、気象警報が発令された場合のテレワークへの切り替えなど、状況に応じて勤務体制を選択できるようにする。これによって緊急時における従業員のリスクを軽減しつつ、必須業務を継続させることが可能だ。
悪天候時のテレワーク実施、緊急時の連絡体制の整備、メンタルヘルスのケアの充実など、従業員の福利厚生を優先するとよい。安全性と状況への適応性を重視する職場をつくることで、困難な時期でも従業員の士気と定着率を向上させることにつながる。
テレワークを実現するためのシステムへの投資費用と自然災害の可能性、生産性向上の効果を比較しよう。デバイスやクラウドサービスなどの導入には初期費用がかかる。その半面、災害時のレジリエンスを高め、事業継続性を確保することで、長期的な利益を得られる可能性がある。
これらの施策を実行することで、自然災害リスクがある地域の企業は、深刻な自然災害下でも業務と従業員を守り、事業を継続できる。気候変動で自然災害のリスクが高まると、テレワークが企業にもたらす価値はいっそう高まるだろう。
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