AMDは、中国のAIベンダーDeepSeekのLLMが話題を集める中、AIアクセラレーターの出荷を急ぐなどGPU関連の製品提供を加速させている。その背景には何があるのか。
半導体ベンダーAdvanced Micro Devices(AMD)は、データセンター向けラックスケール(ラック単位で設計された)のAI(人工知能)アクセラレーター「Instinct MI350」シリーズの納期を2025年の半ばへと短縮した。
AI市場におけるAMDの事業に関しては、2025年1月に中国のスタートアップDeepSeekが開発コストを抑制した大規模言語モデル(LLM)を発表したことが、AMDに好機をもたらすという見方もある。そうした中で、同社がAI技術向け最新GPU(グラフィックス処理装置)の出荷を急ぐ背景には何があるのか。
2025年2月4日(現地時間)、AMDは次世代AI技術向けGPUに関する最新情報を発表するとともに、2024年度第4四半期(2024年10〜12月)の売上高が前年同期比24%増の約77億ドルに達したことを報告した。そのうち約39億ドルはGPU製品群「AMD Instinct」およびサーバ用CPU(中央処理装置)「AMD EPYC」を含むデータセンター分野の売り上げによるものだった。データセンター向けハードウェアの売り上げは、前年同期比で69%増加した。
「データセンター向けGPUの結果には非常に満足している」と、AMDのCEOリサ・スー氏はウォール街のアナリスト向け決算説明会で語った。「2025年に向けても、ハードウェアとソフトウェアの両方のロードマップが順調に進んでいる」
AMDは当初、Instinct MI350の量産出荷を2025年後半に計画していたが、2025年の第1四半期中に主要顧客へサンプル出荷を開始する。設計仕様や機能に関するテストが想定以上に早く完了したためだ。
Instinct MI350はAMDの3ナノプロセスの新しいアーキテクチャ「CDNA 4」(CDNA:Compute DNA)を採用。CDNA 4はクラウドサービスベンダーや製薬会社、金融機関、大手小売業者などのデータセンターにおけるハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)や、AIワークロード(AI技術関連の処理やタスク)向けに設計されている。
Instinct MI350の後継モデルとなる「Instinct MI400」については、2026年に計画通り出荷できる見通しだとスー氏は説明した。
AMDは主にInstinct向けのソフトウェア開発ツール群として「AMD ROCm」を提供している。AMD ROCmはプログラミングモデルやコンパイラ(ソースコードを実行可能ファイルに変換するプログラム)、ライブラリ(プログラムの部品集)、ランタイム(実行環境)などで構成される。
同様に競合の半導体ベンダーNVIDIAは、開発者向けツール群として「CUDA」を提供している。AI向けGPUおよびAIアクセラレーターのデータセンター市場では、NVIDIAが支配的な地位にある。クラウドサービスベンダーなどのハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)は、NVIDIAの高性能なGPUを使用してAIモデルのトレーニングを実施している。
そうした中で出てきたのが、オープンソースのLLM「DeepSeek-R1」を2025年1月に発表したDeepSeekだ。同社は、DeepSeek-R1をNVIDIA製の中でも低価格帯のGPUでトレーニングしたとして、世界中の専門家を驚かせた。同社の研究論文では、安価なハードウェア上で高性能なモデルを構築する技術について説明されている。
DeepSeekの発表が事実であれば、AMDのAI市場におけるシェア拡大の可能性があると、調査会社Futurum Groupのグローバルテクノロジーアドバイザー、デビッド・ニコルソン氏は述べる。AMDの現行GPUは、NVIDIAのAI向け最新GPUアーキテクチャ「NVIDIA Blackwell」の1世代前「NVIDIA H100」と競合している。「DeepSeekはGPU市場への警鐘だ」とニコルソン氏は語る。「DeepSeekの発表により、1カ月前よりもAMDのGPUを選択する判断を下しやすくなる可能性がある」
スー氏は、DeepSeekの成果はAMDにとって好ましいものだと考えている。AIモデルのトレーニングやファインチューニング(特定用途向けの小規模データセットを用いた調整)のコストが下がることで、より多くの企業がAI技術を活用できるようになるからだ。「AIモデルやアルゴリズムの革新が進むことは、AI技術の普及にとって良いことだと考えている」(スー氏)
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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