「クラウド管理のスキル不足」は2025年も継続するか? 専門家の予測は不足するクラウド人材、つかむべきキャリア

クラウド管理のスキル不足は、ビジネスにとって大きなマイナスだ。プロジェクトは未完成のまま放置され、セキュリティは低下し、イノベーション(技術革新)は後回しにされる。企業やエンジニアはどう対処すべきか。

2025年04月28日 05時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

 クラウド管理のスキルを持つ人材の不足がビジネスに与える影響は深刻だ。クラウドコンピューティングはセキュリティ、俊敏性、柔軟性(変化に迅速に対処する能力)を高めるための技術だが、適切に管理されなければそれらは達成できない。最新のセキュリティ課題やパフォーマンス向上の手法を理解している熟練管理者がいなければ、クラウドサービス導入が中途半端なものとなりかねない。企業やエンジニアはどう対処すべきか、専門家の調査を基に探る。

どのようなクラウド管理スキルが不足しているのか?

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 IT業界では常にスキルギャップについて議論されている。調査会社IDCは、2026年までに90%以上の組織がITスキル不足に直面し、そのために5兆5000億ドルの損失を被るだろうと指摘している。中でもクラウド管理スキルの不足が大きな割合を占めると予測されている。

 2025年4月現在、訓練を受けたクラウド管理者は需要が高い。クラウドサービス市場は成長を続けており、調査会社Gartnerは2025年のパブリッククラウドサービスにおける世界のエンドユーザー支出が7234億ドルに達し、2024年の5957億ドルから約21.5%増加すると予測している。

 不適切なクラウドサービス導入がもたらす影響として、以下の点が挙げられる。

  • 成長やイノベーションの制約
  • クラウドサービス導入のポテンシャルの活用不足
  • 熟練クラウド管理者の争奪戦
  • 注意不足やスキル欠如、設定ミスによるセキュリティとパフォーマンスのリスク
  • 財務目標やビジネスチャンスの機会損失

 米国労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)は、2023年から2033年にかけて、ネットワークおよびコンピュータシステム管理者の雇用が3%減少すると予測している。これは、クラウド専門スキルへの需要シフトを示唆しており、一般的なIT管理者から高度なクラウド専門家への転換が進んでいることを表している。

 企業はこの問題にどう対処しているのか。エンジニア採用サポート企業Karatのレポート「2024 Tech Hiring Trends」によれば、以下の2つのトレンドが浮上している。

  1. 米国のエンジニアリングリーダーの81%が海外採用を計画しており、米国内での競争が激化する中、グローバル人材の確保を続けている。
  2. 米国のビジネスリーダーの28%が、正社員を保持するよりも契約社員やフリーランスを好む傾向が続いている。

 AI(人工知能)技術も成長と進化を続けていることを忘れてはならない。クラウド管理者の不足とクラウドサービスにおけるAIサポートのニーズが重なり、課題となっているのが現状だ。

需要の高いクラウド管理スキル

 クラウド管理スキル不足の背景には、以下の2つの要因がある。

  1. 急速な進化
    • クラウド技術、例えばサーバの運用や設定をベンダーに任せる「サーバレス」、DevOps(開発と運用の融合)などが急速に進化している。
    • AI技術とクラウドサービスの組み合わせが、マルチクラウド、DevOps、クラウドネイティブアプリケーション、FinOps(クラウドサービスの財務管理を最適化する手法)やクラウド会計などの領域に精通した人材に、新たなキャリアの機会をもたらしている。
  2. 人材不足
    • 企業は社内スタッフの知識不足という課題に直面している。現状の業務を維持するだけで手一杯で、将来のプロジェクトに備えた研修を実施するのが難しい状況だ。

 不足している主なクラウド管理スキルには以下のようなものがある。

  • マルチクラウドやハイブリッドクラウド管理
  • クラウドアーキテクチャと設計
  • 「AWS CloudFormation」や「Terraform」などのIaC(Infrastructure as Code:インフラ構成をプログラミングコードとして管理する手法)の知識
  • 「Kubernetes」などを用いたコンテナオーケストレーション
  • データ主権(データの制御や管理に関する権利)に関わるクラウドコンプライアンス(法令順守)
  • クラウドサービスにおけるAIや機械学習の統合
  • 「Amazon SageMaker」や「Azure AI」などのクラウドAIサービス
  • クロスプラットフォーム(OS非依存)開発
  • クラウドネイティブアプリケーション開発
  • マルチクラウド開発
  • クラウドコスト管理
  • エンタープライズのクラウドビジネス戦略

取るべき行動は?

 クラウド管理分野に参入しようとするエンジニアは、これらの不足分野をキャリアの安定性と新たな機会の獲得に役立てよう。既にクラウド管理者であるなら、キャリアのさらなる発展をこれらの分野に向けるべきだ。

 例えば、クラウドサービス群「Amazon Web Services」(AWS)の専門家であれば、クラウドサービス群「Microsoft Azure」のスキルを広げることを検討しよう。仮想マシン(VM)のプロであればコンテナ技術に進出するのも一案だ。日々のクラウド管理業務に疲れているなら、クラウドネイティブアプリケーション開発に転向するのも選択肢となる。

 AI分野も忘れてはならない。Karatのレポートによると、2024年には採用担当者の60%がAIエンジニア職を募集しており、その割合は2023年の35%から増加している。2025年もこの傾向は続くだろう。

 クラウドサービス分野のスキルを高めるためには、以下を検討するとよい。

  • 正式な研修
    • AWSやIT業界団体のコンピュータ技術産業協会「CompTIA」などの研修を受講する。
  • 技術認定
    • 専門知識を示し、重要概念を理解している証拠となる認定資格を取得する。
  • 自主学習
    • 研修機関が提供する自己学習型トレーニングや、自分で収集した記事やチュートリアル、Webサイトを活用する。

 自社が募集しているポジションを調べ、その役割に適したスキルを付けるとよい。経験豊富な管理者が指導やアドバイスを提供してくれる場合もあるため、積極的に学ぶ姿勢が重要だ。

(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)

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