空冷式や水冷式より高効率 冷却技術「TEC」はデータセンターを救うか?データセンターの次世代冷却技術【前編】

「TEC」と呼ばれる冷却技術の研究が進んでいる。空冷式や水冷式に比べて効率よくIT機器を冷却できる。どのような技術なのか。実用化への道筋は。

2025年04月28日 05時00分 公開
[Robert McFarlaneTechTarget]

 「サーモエレクトリッククーリング」(Thermoelectric Cooling:TEC)は、熱電効果(熱エネルギーと電気エネルギーの相互作用)を活用した冷却技術だ。消費者向けから企業向けに至るまで、さまざまなIT機器を効率的に冷却できると期待されている。

 現状のデータセンターに、TECを利用した冷却方式が広がっているわけではない。だが、TECは従来の空冷式や水冷式などのデータセンター冷却技術よりも効率性に優れ、環境負荷が少ない。正確な温度調節が可能で、消費電力量を低減できる可能性がある。TECの原理、データセンター冷却における活用可能性について紹介する。

データセンター冷却にブレークスルーを起こす「TEC」の原理とは

 銅と亜鉛のように種類の異なる金属を接合して直流電流を流すと、2つの金属の接合部で温度変化が発生する。この際、電流の流れる方向によって放熱するか吸熱するかが決まる。接合部の数を増やして直列に接続すると、放熱量もしくは吸熱量が比例して増加する。

 この仕組みを利用して、電気の力で熱を移動させる装置を「TECデバイス」と呼ぶ。TECデバイスは、それぞれ電気的な性質が異なる「p型半導体」および「n型半導体」を使用して熱の移動を制御している。

 TECデバイスは小さなデバイスにできるだけ多くのp型半導体とn型半導体の接合部を設けているが、p型半導体とn型半導体のコストが高価で、設けることのできる接合部の数には限界がある。TECデバイスは、熱源から熱を吸熱し、その熱を別の場所で再利用するか、大気中もしくは液体中に放熱する。繊細な温度調節が可能だ。

 TECデバイスの能力を決定する主な要因は次の通り。

  • 半導体接合部の数
  • TECデバイスの吸熱側と排熱側の温度差
  • 外気温

 TEC装置の性質として、吸熱側と排熱側の温度差が大きくなるほど冷却力は低下し、外気温が高いほど低下する。吸熱側を効率的に冷やすためには、この温度差をできるだけ小さく保つことが重要だ。そのためには、排熱側で発生する熱を効率的に外部へ放出する必要がある。

 IT分野でのTECの活用方法は主に、光ファイバー用半導体レーザー発振器の温度管理だ。TECデバイスにはサイズが小さい、消費電力が少ない、作動音がない、故障しにくいといった利点がある。

 注意点として、TECデバイスは冷却するための装置であり温度調節装置ではない。施設の湿度を調整するにはTECデバイスだけでなく、HVACシステム(空調整備システム)などが必要だ。

研究中のTEC関連技術

 複数のTECをヒートパイプ(管状のもので熱を移動させる仕組み)と組み合わせた新しいシステムに関する複数の研究が報告されている。CPUが発した熱から発電して、CPUに必要な電力の一部とすることで、CPUの電力使用効率を改善する。

 University of Chinese Academy of Sciences(中国科学院大学)の研究者たちは、TECを使って、実現が難しいと考えられていた、データセンターのIT機器の電力使用効率を測る指標「PUE」(Power Usage Effectiveness)が1.0未満のサーバを実現したと報告した。ただし実験段階で、商用化の目途はまだ立っていない。

 University of Illinois(イリノイ大学)の機械工学部の学生たちは、TECでサーバラックを冷却し、回収した熱エネルギーを電力に変換し、サーバに電力を供給するシステムを設計した。ただし理論上のもので、まだ試作機は作られていない。

 さらなる技術進歩により、将来、あらゆるサーバラックに対応できるTECデバイスが誕生する可能性がある。ただし、現時点ではコストの問題で、TECデバイスの大規模な導入や運用は難しい。実現はまだまだ先のように思える。プロセッサのジャンクション温度の管理に近い将来活用できるようになる可能性はあるが、データセンターを冷却できるようになるには時間が必要だ。


 後編はTECのメリットとデメリット、用途などについて解説する。

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