企業のシステム運用だけではなく、ビジネスにも直接的な影響を与え得る存在として重要度が増しているのが、IT自動化だ。企業における導入状況や、そのメリットを探る。
ビジネスにスピード感が求められる中では、システム運用における間違いを許容する余地はほとんどない。ハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)などIT業界をけん引する企業は、リアルタイムデータやAI(人工知能)技術、自動化の可能性を本格的に探っている。
インフラやシステムの運用を対象にした「IT自動化」は、単なるプロセスの自動化ではなく、金融サービスや医療、その他の業界におけるビジネス変革そのものを実現する存在へと進化している。以降で企業におけるIT自動化の導入状況や、IT自動化によるメリットを探る。
企業における自動化は、領域ごとにプロセスが分断する傾向にある。IT自動化とビジネスプロセス自動化では、それぞれ使用するシステムとデータが別になっていることがよくある。だが、AI技術を活用するツールによってその区別が薄れ、IT部門は収益拡大につながるイノベーションやプロジェクトに集中できるようになっている。
IT自動化は、反復的なタスクをルールに基づいて実行されるように制御し、手動による介入をほとんど、または全く不要にする。IT自動化のプロセスやワークフローを実装する前には、最適なユースケースやアーキテクチャを検討する必要がある。人間が実施するその意思決定が、IT自動化プロジェクトの成功を左右する。
自動化の領域を個別に見ると、ネットワーク運用とITサービス管理(ITSM)の自動化に取り組む企業が増えている。調査会社Gartnerの「Hype Cycle for I&O Automation, 2024」によると、ネットワークのタスクの半分以上を自動化する企業の割合は、2026年までにおよそ30%に達する。2023年半ばには、そのような企業の割合は10%だった。半数以上の企業が、Day2オペレーション(監視や保守など、本番稼働開始以降に発生する一般的には時間のかかる作業)にAI技術を活用した自動化を適用するとアナリストは予測している。
IT自動化は、以下のようなタスクに役立つ。
ITサービスチームが実施する反復的な作業を自動化する取り組みは、一部では以前から取り入れられてきた。GoogleやMeta Platformsなどの企業は、データセンターにおける冷却や負荷分散、予測スケーリング(予測を基に拡張する仕組み)、その他のタスクにAI技術を活用した自動化を採用している。
自動化を適切に実装すれば、ITリソースの利用効率を向上させ、インフラスコストを最適化することができる。ビジネスの俊敏性を高め、市場環境の急速な変化に適応できる効果も見込める。
インフラをコードで定義し、管理する手法「Infrastructure as Code」を利用することで、ITチームはネットワークやサーバ、ストレージの管理作業など、手動で実施してきたプロセスを合理化できる。結果として作業に要する時間を短縮できる他、ITリソースの利用率を高めることができる。
AI技術を活用したIT運用(AIOps)は、自動化の次世代の手法だ。これはインフラスから稼働データを収集し、機械学習や自然言語処理(NLP)を活用して、システム運用の効率化や信頼性向上を支援する。
IT自動化によって、以下のようなメリットが見込める。
IT自動化や、リアルタイムデータを使った分析を活用することで、先んじて需要に対応し、ビジネス要件や市場状況の変化に迅速に適応することが可能になる。新たな地域への進出や異なる顧客層の開拓などのために、事業の転換が必要となることがある。そうした場合にもIT自動化が貢献する。
IT自動化によって、インフラ管理やクラウドサービスの利用料金、アプリケーションの展開とテスト、セキュリティインシデント対応などのコストを削減できる。作業効率を向上させることに加え、人件費の削減にもなる。
拡張性と、変化に迅速に対応できる柔軟性も、IT自動化のメリットだ。システム運用環境の分散化が進み、パブリッククラウドやプライベートクラウドを含めてさまざまな運用環境間をデータやアプリケーションが行き来するようになっている。そうした中でパフォーマンスをほとんどまたは全く低下させずに、アプリケーションの負荷増大に対処するにはIT自動化が有効だ。
自動化に関する意思決定者1949人を対象に調査会社Forrester Researchが実施した調査「Forrester's Automation Survey, 2024」によると、自動化の重要な用途の1位はサイバーセキュリティ(85%)で、2位はインフラス自動化(81%)だった。
自動化ツールや機械学習ツールを活用することで、ドメインに応じてアクセスを遮断する対策や、コンプライアンス(法令順守)検査などで発生する反復的なタスクを自動化できる。
セキュリティオペレーションセンター(SOC)のアナリストは、AI技術搭載の自動化ツールで状況を分析することで、異常として検知された状況に優先順位を付け、本当に対処が必要なサイバー脅威に集中できるようになる。
クラウドサービス利用におけるセキュリティについては、脆弱(ぜいじゃく)性スキャン、設定ミスの特定、ほぼリアルタイムのアラート発出、インシデント対応の制御といった分野で自動化が役立つ。開発サイクルの初期段階に自動化を組み込んで、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)パイプラインの一部としてセキュリティ機能を導入する場合もある。
IT自動化のツールとしては、ルールに基づく反復的作業の自動化にとどまらないツールが登場している。そのツールの中には、動的な問題解決機能を備え、ローコード/ノーコード開発のセルフサービスポータルや、サービス自動化とオーケストレーション(複数の自動化を組み合わせた全体制御)のプラットフォーム(共通基盤)を提供するものもある。
従来のワークフロー自動化ツールは、より優れた統合性や拡張性を実現し、AI技術といった新興技術を搭載するツールとの競争激化に直面している。さまざまなITベンダーが、自社のツールにAI技術を組み込んでいる。
AI技術搭載の自動化ツールが台頭することは、IT自動化の民主化にもつながる。従来、中規模企業は大規模企業と比べ、IT自動化のメリットを得にくかった。Gartnerのリサーチ担当グループチーフ兼アナリストのフランシス・カラモウジス氏は次のように述べている。「以前はある程度のクリティカルマス(必要最小限の規模)と、一定の投資や埋没コスト(支払い済みで回収不可能になったコスト)が必要だった。AI技術、特にエージェント型AIにが台頭する中で、よりモジュール化された導入が可能になり、中規模企業でもIT自動化の効果を得られるようになっている」
次回は、IT自動化の実装において直面する8つの課題をまとめる。
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