量子コンピュータは、いずれスーパーコンピュータの計算能力を大幅に上回る可能性があるコンピューティング技術だ。いずれも強力な計算能力を備えるものだが、コンピューティング技術としては何が違うのか。
「スーパーコンピュータ」も「量子コンピュータ」も、いずれも強力な計算能力を提供可能なコンピューティング技術だ。量子コンピュータは、いずれはスーパーコンピュータの計算能力を大幅に上回り、既存の解決できない難問を解決できるようにする可能性を秘めている。ではスーパーコンピュータと量子コンピュータには、どのような違いがあるのか。そのコンピューティング手法の違いから解説する。
スーパーコンピュータとは数千台といった多数のコンピュータの集合体で、それぞれが連携して通常のコンピュータよりもはるかに高速にデータを処理する。スーパーコンピュータはその膨大な計算リソースを使い、数分で気象予測ができる。気象予測は膨大な量のデータや複雑な計算を伴うため、通常のコンピュータで処理するとしたら、完了までに数年を要すると考えられる。
気象予測以外にも、宇宙探査、航空機の改良、新しい化合物の試験、暗号の改良などさまざまな用途にスーパーコンピュータは使われている。スーパーコンピュータに手が届きやすくなったのは、1990年代のことだ。市場調査やシミュレーション、モデル化、ビッグデータ分析などにスーパーコンピュータを使う動きが広がり出した。ただしスーパーコンピュータには電力消費が膨大になることと、計算能力の拡張に限界があるというパフォーマンスの課題がある。
量子コンピュータは、従来型コンピュータのバイナリビット(0と1)ではなく、量子ビット(qubit)を用いて情報を処理する。量子コンピュータは従来型コンピュータが1つの計算を処理する時間で100万件以上の計算を処理できる可能性がある。その驚異の計算能力は、次の2つの重要な原理によってもたらされる。
この2つの原理により、量子コンピュータは特定の問題をスーパーコンピュータよりもはるかに高速に解決できる。例えば、Googleの量子プロセッサ「Sycamore」は、ある複雑な数学の問題をわずか200秒で解くことができた。世界最速級のスーパーコンピュータであっても、同じ問題を解こうとすればはるかに多くの時間を要するだろう。ただし、量子コンピューティングはまだ初期段階で、誤り訂正、量子ビットの安定性、拡張性に課題があり、用途を制限している。
量子コンピュータとスーパーコンピュータはどちらも強力なコンピューティングシステムだが、情報を処理して問題を解決する方法が根本的に異なる。スーパーコンピュータは数千基や数百万基の従来型プロセッサを使って高速に並列計算を実行する。スーパーコンピュータは、気象予測、分子シミュレーション、AI(人工知能)モデルの開発、大規模なデータ処理を必要とするタスクで有効に活用できる。
一方、量子コンピュータは量子力学の原理、特に重ね合わせともつれの原理を応用することで、従来型コンピュータでは不可能な方法で情報を処理する。この機能により、量子コンピュータは量子化学シミュレーションや暗号解読、最適化問題といった特定の用途ではスーパーコンピュータよりもはるかに高速に複雑な問題を解決できる。
量子コンピュータの計算リソースをサービスとして使う「Quantum as a Service」(QaaS)と、スーパーコンピュータなど高性能計算の計算リソースをサービスとして使う「High Performance Computing as a Service」(HPCaaS)は、いずれも高度な計算能力を利用可能にするクラウド型の手法だ。
HPCaaSは、データ分析やシミュレーション、研究など向けの強力なコンピューティングリソースを提供する。HPCaaSの問題点の一つは利用コストだ。長期利用や大規模プロジェクトでは特にそうだが、HPCの計算リソースをオンデマンドで利用すると、高額になる場合がある。
QaaSは、最適化問題や暗号化、分子モデリングといった複雑な問題に取り組むための、量子コンピュータの計算リソースを遠隔で提供する。QaaSには、データのセキュリティや機密情報の制御に問題がある。複雑な最適化問題を迅速に解決することで大きな競争優位性を得られる業界(物流、製薬、金融など)では、特にQaaSの価値は高い。
量子を利用するには極めて低温の環境(約マイナス270度)という特殊な条件が必要になるため、その活用を実現する合理的な方法は、クラウドサービスとして量子コンピューティングを提供することだ。
次回は、量子コンピュータとスーパーコンピュータの用途の違いに焦点を当てる。
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