“若者のSTEM離れ”は「あれ」が足りないから? 調査が示す本当の理由女子を理系科目から遠ざける壁の正体

科学分野の科目において、実験や実習といった体験型授業が減っていることが、子どもの“STEM(科学、技術、工学、数学)離れ”を招いている。その背景に存在する、教員が直面する根深い問題とは。

2025年06月18日 05時00分 公開
[Clare McDonaldTechTarget]

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 科学分野で実験や実習といった体験型授業を十分に提供しないことは、子どもが将来STEM(科学、技術、工学、数学)分野の職業を選ぶかどうかに直接的な影響を与えることを、ある調査結果が示している。一方で、体験型授業が減少傾向にあること、その背景にはさまざまな障壁が存在することが明らかになった。その詳細とは。

STEM人材の育成に足りないものとは

 エンジニアのキャリア形成を支援する非営利団体EngineeringUKと、英国の科学学会である王立協会(Royal Society)は、定期調査「Science Education Tracker 2023」(SET 2023)を主導し、結果をレポートにまとめた。調査対象者になったのは英国の国公立学校に通う11〜18歳の就学者7256人で、実施期間は2023年7〜9月だ。

 SET 2023では、調査対象となった7〜9年生(中学1〜3年生)の生徒の52%が、科学への学習意欲を高める上で体験型授業が重要だと回答した。この傾向は、もともと科学への関心が低い生徒ほど顕著に見られた。体験型授業が減ることは、結果的に将来その科目を学ぶ意欲を削ぐことにつながると言える。

 「工学、技術分野の多様な人材を確保できるかどうかは、科学をはじめとするSTEM科目に若者がどれだけ関心を持つかにかかっている」との見解を、EngineeringUKと王立協会は示す。

 若者、とりわけ女子がSTEM分野の職業を選ばない理由の一つに、仕事内容やそこで働く人々の姿を具体的に想像しにくい点がある。体験型授業は、将来のキャリアでどのようなスキルが役立つのかを若者に伝える上で有効な手段だ。

 女子は男子に比べて、体験型授業がある科目への関心を抱きやすい傾向がある。SET 2023で、体験型授業が学習の動機になると回答した人は、男子が50%だったのに対し、女子は54%に上った。優れた教員の存在も、男子より女子にとって重要度が高いという結果になった。

 さまざまな効果が見込めるものの、科学の体験型授業は減少の一途をたどっている。過去のScience Education Trackerの結果と比較すると、2週間に1回以上、体験型の課題に取り組む就学者の割合は、2016年は44%、2019年は37%で、2023年には26%まで落ち込んだ。試験対策として実験や実習ではなく、授業でビデオ視聴をすると回答した就学者の割合は、2016年の39%から2023年には46%に増加した。

 EngineeringUKで研究責任者を務めるベッカ・グーチ氏は次のように語る。「今回の調査結果を踏まえれば、科学分野での体験型授業の頻度が低下していることは明白だ。就学者にとって、科学を学ぶ動機付けとして体験型授業がいかに重要であるかが浮き彫りになった」

 グーチ氏は、「体験型授業は、若者にとって科学を身近な存在にし、興味を高めるだけではなく、重要なスキルを育む助けになる」と話す。特に女子に工学や技術分野でのキャリアに進んでもらうためには、体験型授業を増やすことが不可欠だと同氏は考える。

教員の切実な悩み

 EngineeringUKと王立協会は2024年8月、科学教育に関する共同調査を実施し、800人のSTEM分野の教員から回答を集めた。そのうち科学分野の教員398人分の意見を取り上げ、レポート「School report: Barriers to practical science」にまとめている。調査対象になった教員が、体験型授業をする上での障壁として挙げた上位2つは、カリキュラムの内容と時間の制約だった。カリキュラムが定める学習目標に沿った体験型授業を準備するには時間がかかり、授業計画に組み込むのは現実的ではないという見解は、教員に共通していることが分かる。

 特定の教育機会を得る上での障壁としては、子どもの社会経済的な背景や、学校が所在する地域による資金、設備の格差が挙げられる。学校が提供できる教育内容は資金や地域によって異なり、調査対象の教員のうち26%が「設備の不足によって実践的な授業の機会を十分に提供できない」と回答した。27%は、「設備を購入するための予算がない」と答えた。

 人員不足も深刻な課題だ。調査対象になった教員の23%は、「科学分野での体験型授業を補助できる技能を持った技術職員が不足している」と回答した。39%は、「科学分野の教員に欠員が出ていることが、体験型授業の機会を減らしている」と指摘した。

 自身が体験型授業をする能力に不安を抱く科学教員もいる。3%が「関連するトレーニングが不足している」、2%が「指導に自信がない」と回答しており、この傾向は以前から見られるものだ。

体験型授業を増やす方法

 EngineeringUKと英国王立協会は、STEM分野における体験型授業が、STEM分野に対する就学者の関心を高め、将来の人材育成につながる重要な要素だと指摘する。その上で、教員がより多くの体験型授業を実施できるよう、以下の提言を示した。

  1. 政府に対して、現在進行中のカリキュラム見直しを効率化し、科学分野でより多くの体験型授業を取り入れられるようにすること
  2. 全ての就学者が学習の一環として実験や実習を経験できるよう、それらをカリキュラムに正式に組み込むこと
  3. 体験型授業に必要な設備、研修、技術支援を整えられるよう、学校が投資すること

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